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2話

「はぁ、はぁ...。」

凛華は、見つからなかった。俺のあの言葉が理由なんだろうけど、それでもこんなに姿を眩ましたままどこに隠れているかすらわからないのが余計に俺を焦らせた。

思い当たるところは全部探した。初めて会った公園、ツンケンしていた時に無理やり引き合わされて行ったファミレス、一緒にかき氷を分けて仲良くなったコンビニ。全部が思い出の時間なのに、アイツはそのどこにだっていやしなかった。

今夜は、花火大会がある。見に行く約束をさせられていたのに一緒に見れないなんてことがあれば、仮に見つけてもそっちで怒られそうな気がする。何故今まで見つけられなかったのか、と。

気付けば、体は自然と家の方に向かっていた。「とっておきの浴衣、見せるからね!鼻の下伸ばして見入っちゃっていいよ?」と言われたのを思い出して、半ば本能的に動いていた。あんなこと言っておきながら、結局アイツのことが...どこかでは好きなのかもしれない。


「...ナツ?」

ふと今まで探していた声の主が俺を呼んだ気がして、振り返る。もちろん誰もいなかった。

(...こりゃ、本格的に参ってんのかもなあ)

そんな考えが出てきた頭に、思わずため息をついてしまう。しかも聞こえた幻聴は、単純な疑問の声。朝の事があるから刺々しい声でもおかしくないのに、俺がこんなんじゃ本当に参ってしまってんだろう。

「...参ったな」

「本当に参ってんのは僕の方なんだけどね」


「うおわっ!?」

突然横から聞き慣れた声がして,俺は飛び跳ねる。殆ど反射的に何かを言おうとした俺は、その姿を見て絶句する。

凛華の浴衣姿は、確かにとっておきだった。やや中性的な顔つきを、浴衣の赤が映えさせる。いつもはわざとらしい笑みが浮かんで目が行かない、人並み以上には確実にある膨らみも浴衣だからか線がくっきり出ていて、目のやりどころに困る。

「せっかくずっと探したのに見当たらないし。薄情にも花火を一人で見に行ったのかもって焦って浴衣を着て家出たら、独り言言ってるナツがいるし。こっちの方が参ったよ、ほんと。...あ、あと今の僕は可愛いでしょ?だから、まあ手が出ても仕方ないなあ、とは思うけど...」

いつもなら、ここからおちょくられるのがオチだ。だが、俺は今猛烈に反論したくなっていた。


「...黙って聞いてれば」

「え?」

単純な疑問を飛ばした凛華に、俺の怒りはさらに燃え上がる。

「『せっかく』ずっと探した?『薄情にも』花火を見に行った?『こっちが参った』?極めつきに、『今の僕は可愛い』?」

言っていて、さらに怒りが増してくる。そのまま、俺は制御を捨てた。

「人がほとんど半日潰して汗だくになって倒れそうになるまで探して、約束を思い出して焦ってもう一回探しに行って、それで『せっかく探した』?...恥を知れ、恥を!」

「な!?」

「何が可愛いだ!自意識過剰なんだよ、お前は!」

「〜ッ!言わせておけばあ...!」


「大体、僕が探してやってんだから恩を感じろっていうんだよ!あんな言葉言われて、怒らない人がいるわけないでしょ!」

「元を辿れば、お前がいっつも煽ってくるからだろうが!」

「のるほうものるほうでしょ!あーあ、僕かわいそー」

「ーーッ!このアマぁ...!」

凛華をいささか乱暴に、引き寄せた。「な、なにをーーー」などと言うのを無視して、俺は言った。

「どんだけ心配して、探し回ったと思ってんだ!」


言い切ってしまうと、少し恥ずかしくなった。無理やり引き寄せたこともだし、言葉も今考えればただのいい奴だ。口論してる途中だったからオーバーヒートして、本音を出してしまった。

慌てて凛華を見ると、何か苦しそうな顔をしていた。今まで何かを忘れていたかのような...例えば俺が、凛華を誤解していたと気付いたときのような。

「お、俺の言葉は気にしなくていいからな?別に何かを求めて言ったわけでもねえし...」

慌ててフォローしようとするが、それをいったからか逆に決意を固めたように、凛華は俺を見た。

「ナツ。...いや、夏凛」

「お、おう。なんだ?」

「...ごめん」


突然謝られたことに、俺は焦る。凛華に煽られるのは慣れてても、こうやって素直に言われると少し恥ずかしい。

もしかしたら「え?もしかして勘違いしちゃったのかなー?」といつもの調子で言われるのかとも思ったが、そういうこともなく凛華はただ、まっすぐ俺を見ていた。

「い、いいって。それよりもほら、花火見に行こうぜ?な?」

あせったまま、俺は進むように促した。財布さえ持っていないことにも気づいていない。それでも、凛華は俺をまっすぐ見て、そして言った。

「...僕、ナツの事を分かってるつもりだった。でも、今日の事で僕はちょっとだけしか見れてないって気づいたんだ。だから...お詫びの代わりに、何でもするってのは良いかな?」

その視線は、何かに怯えているようだった。いや、きっとそれは拒絶だろう。だから、俺を引き止めるためにそう言った。


正直言って、これは俺に好都合だった。俺は改めてコイツの俺の中での大きさを実感したし、それに加えて何でもするというのだ。乗るしか思いつかない。

「分かった」

最初に言ったその一言で、凛華の顔はパアッと明るくなった。というか、少し泣きそうにも見える。ただ自分の条件を思い出したのか、「...何が望みなの?」と少し警戒したように尋ねてくる。

「なに、簡単なことだ。気持ちに素直になれ。それが俺の望みだ」

...正直、あの瞬間のあいつの間抜けヅラは忘れられそうにない。

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