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幕間。「恋の独り言ーーー「...え?」」

刺されてからこの方、俺は動けずにいた。だが、そろそろ動けそうだ。

十一月一六日土曜。退院を明後日に控えた俺は、その些細なことにすらしみじみとした喜びを覚えてしまっていた。

知られてしまったから殺すーーーあの女はそう言っていたが、現状死んでいないのが俺だ。といっても、刺された日には心肺停止が長時間に及び、一時的に脳波すら停止したらしいが。後遺症が一つもないのは、もう俺が完璧超人ということなのだろうか。


凛華からのメールでは、素直になることを決めたと送られてきた。俺の作戦が成功したのか、とぬか喜びしたが...次の日送られてきた、「ナツは僕の思いに気づいていないかも」ってのは驚いた。鈍感系主人公、ってやつらしい。正直、呆れて言葉も出なかった。

して、今日。特に何もない、ただ外を眺めるだけの一日だった。


十一月一七日、日曜。明日が退院ということもあってか、親父が見舞いに来た。今日来るのが始めてだから、相当薄情だ。まあ、慣れっこだが。

その夜。俺の緩み切った心の隙をつくように、病室の戸が開いた。

「!?」

入ってきたのは...見覚えのある顔だった。俺を刺した、懐かしい顔。逆にホッとしかけた。

「...よう、久しぶりだな。俺が余計に生きていたから殺しにきた、ってことか?」

「いや?私はただ単純に、私に刺されて生きている変人を見に不法侵入したの」

怖え。ヤンデレかなんかなのか?...まあ、刺してきたりする時点で普通じゃねえのは確定してるが。


「...高城 北斗。私の名前は、そういうことになっている」

やがてポツリとつぶやいた女ーーー北斗に、俺は笑う。

「なんで笑えるの?さっき君が言ったように、私はあなたを殺すかもしれないのに」

「いや、信用されたもんだって嬉しくてな。今なら死んでも悔いはない。さっき、俺が命に変えても引っ付けたかった2人がくっついたってメールがあったからな。...そういや、アンタが刺してきたから関係が早く動いたのか。そういう点ではありがてえな」

まあ痛えけど、とつげて俺は北斗を見る。

その顔は、驚きに満ちていた。

「...消そうとした相手に、礼を言われるなんて初めて」

「そもそも消そうとした奴は俺以外全滅してんだよ」

「あっ」

指摘されたことが恥ずかしかったのか、顔を伏せる北斗。なんとなく、根っこは凛華に似ている気がした。


「...保史恋。あなたといると、楽しい」

「俺はいつ殺されるかヒヤヒヤだけどな」

「...意地悪。私は、心を許した相手には攻撃しない。...でも、もしあなたが他の人に懸想したりなんてして、私を愛してくれないのなら...その時は容赦なく、胸を刺す。抉って、最低2回は同じことを繰り返して腹を割いてーーー」

「ああいい、ようくわかったから」

「ならいい」

冷や汗が止まんねえ。ヤンデレってやつか?

そう思っていると、北斗は俺に頭を預けてきた。

「...恋。私が一番だよね?」

「いや?凛華が今までもこれからも1番だ」


「...え?」

間抜けヅラを晒した北斗は、焦り出した。

「な、なんでも?私といれば、たいていの戦力にはなるのにーーー」

「いや、殺されたらたまったもんじゃないからな。せめて素手でいるなら考えてやらんこともない」

「...わかった」

不承不承といった感じで頷いた北斗だが、その目にはありありと不満が浮かんでいた。それを和らげてやるためにも、そばに寄せて、軽く頭を撫でてやる。

「〜!?」

「こら、暴れんな。お前への正当な報酬だ」

「...報酬?」

「そうだ」

どこか縋るような視線は、いくら俺でも来るものがあった。確かに、可愛いことは可愛いが...命の危険を持ちながら恋人関係になるって怖えな。


「...じゃあ、恋達を守る報酬として私が恋の彼女になる。それでいい?」

「まあ、いいぞ。俺を陥せるかは怪しいけどな」

「意地悪」

「生憎これが素なんだよ。慣れろ」

「むう...。」

膨れつらになる北斗についにやけてから、俺は眠りにつく。明日になれば、再び俺の家で寝ることになるだろうが...ま、こんな日もあっていいかもしれないな。

「...じゃ、おやすみ。愛しい恋」

...正直、北斗が俺...もしくは凛華に危害を加えないかが心配だが、あくまで俺との契約で動いているんだから何かあっても裏切る目は極限まで低いだろう。と言っても完全に安心できるわけではないけどな。

...というか、こいつはもしかすると「恋の安全の保障のため」とか言って俺の家で一緒に寝ることになるのか?悪くはないが、こんな美人と一緒にいると俺も手が出るかもしれない。...ま、北斗もそれを望んではいるのだろうが。


考え事をしていると、本格的に眠気がやってきた。さっきの北斗の言葉に、

「...ああ。おやすみ、愛しい北斗」とわざとらしく(実際わざとだが)言ってやって、俺は眠りについた。無事に朝日を拝めるかは...今、俺を自由にできる北斗の匙加減だが...ま、何もしないだろう。

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