17話
「最っ高に似合ってるよ、夏凛くん!僕よりも女装があってる!」
「どういうことだよ」
「...!?つまりスズ×ホク...!?」
「その通り!僕こと神木凉は男の娘、北斗はそのままの女の子!つまり...?」
「結婚できる同性愛!?」
「その通り!...まあ実際には北斗が僕に強要した女装にハマっちゃっただけだけど...。」
俺を抜いて勝手に仲良くなっている、女装が最高に似合う(何回言われても、メイクしなくても女子にしか見えない)2人の話を適当に流して俺は店頭に立つ。
十一月十六日土曜。明日と今日の二日で行われる文化祭だが、今日は俺がツンデレ喫茶...?に並ぶ日だ。といっても俺は無理にツンデレにする必要はない。女装枠だからだ。
「こっち見ないで、気色悪い」
「うわ、胸元見てる。セクハラ野郎だ」
「ほら、あんたの餌。さっさと受け取れ、豚野郎」
「ありがとうございましたー。...そのままくたばっちまえ」
以上4行を含めた罵詈雑言の数々は、凛華の口から出たものだ。しかも、しっかりとした理由があった。
他の奴らの語彙の貧弱さ。加えて、罵詈雑言を吐きまくる精神力。それがあるのが他には谷町と、北斗という名のやつしかいないのだ。
お手本として俺がくらってみたが...泣きたい。しかも、ここにくる奴らはそれに懲りずに...寧ろその言葉を待っているように、わざと言葉を欲しがる。ただ、凛華曰く「無視してないから。ツンデレ喫茶は罵詈雑言だけど、ツンドラになると基本全無視、大声で何回も呼んでようやく面倒くさそうな店員がダウナーボイスで聞いてくるんだよ」おい、どこでその情報仕入れた。谷町、サムズアップすな。お前かよ、犯人。
そんな感じで、比較的マシだった一日目は終わる。...これでましだと思えるのは二日目があったからなんだよなあ。
「さあ、ナツ!どうせ暇なんだし、今日ははっちゃけちゃおうよ!」
「それよりも先に服装をちゃんとしろ!絶対風邪引くだろうが!」
はしゃぐ凛華の服装は、もう寒くなってきているというのにtシャツの上に私服登校にも関わらず持っているガチガチ改造セーラー服(サイズは明らかに大きく、カーディガン風にするために真ん中が破られている)を着ており、足もデニム地のショートパンツに黒のストッキングと明らかに寒そうだ。
「えー。せっかくナツを惚れさせるチャンスなのにー」
「...そのネタで俺を散々揶揄うと?」
「いや?僕は単純に、ナツに可愛いって言ってもらいたいだけだよ?」
「...え?」
「?」
「...?2人とも、何かあった?」
「いや、特に何も」
「僕も何もないよ?あ、谷町くん、33-4コスくれない?」
「ああ、前言ってたしね。あれはモノトーンのゴスロリパーティドレスだし、表裏がないって意味で相応しいと思うよ」
「ありゃ、お上手。...たまに着てくるから」
「ありがたいね。今日はすずさんも62-4コスを着てるから、ゴスロリ系で黒基調だとこのくらいかな?」
「あ、じゃあ僕が特注していい?結婚式用で、若干黒が刺している感じ。白を映えさせるぐらいでさ」
「1001-3...でいいかな?」
「りょーかい。あ、予算は7万八千円で。振り込んどくから」
「...分かった。僕の腕の中で最高級にいいもの、作るよ。...昨日の2人のカップリングに免じて♪」
「わ、忘れろよ!」
教室に入ると、早速谷町に声をかけられた。というか、意外と鋭いな。
...変わってないとはいうが、実際には俺たちは少し変わった。
「...前、ナツに言われたことあったよね?『それって恋じゃないのか?』って」
「ああ、あったけど...それがどうしたんだ?」
「確かに、ってあのとき思ったんだ。君が照れたようにしてる時とか、とっても愛おしくって...。だからさ?僕が恋心を抱いている人には、そのこと自覚していてほしいなって。ただそれだけだよ」
あまりにも平然と言われたので、歩くついでと思って「そうか」と答えたが、今となると恥ずかしい。...と同時に、少しだけ嬉しい気がする。
「もう、何ニコニコしてるの?さあ、僕たちの旅はこれからだ!」
「打切り漫画の終わり方やめろ!」
終始笑顔の凛華に軽くツッコみ、俺は苦笑しつつも後を追う。...この苦笑も、凛華が俺に好意を持って...しかも恋愛感情を持って相手するということに先んじて気づいていた、恋の慧眼に感心していることや俺がそれに気付かなかったことに対する呆れ、そして...
(ま、俺も人のことは言えないか)
...そして、俺も案外凛華に惹かれていることに対する呆れ。あとはまあ...よくそんなに笑顔でいられるなあ、という。
ニコニコしっぱなしの凛華を追いかけながら、そのうち退院する予定の恋に良い報告ができそうだと少し喜びながら、俺は苦笑を漏らしたのだった。
終わりそうですが終わりません。




