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11話

やっと今書いてるシリーズに移行した...。

「おい、ナツ。起きろ、この木偶の坊。...卜部夏凛、起きろ」

「うわっ!?」

耳元で恋の声がして、俺は驚く。...見上げると、そこには何もいなかった。夢だったようだが、その代わりなのか俺の腕の中では凛華が平和そうに寝息を立てて眠っていた。

少し笑みを浮かべて寝ている幼馴染の頭を弾きたくなる欲求を抑えて、俺はその寝顔を見ていた。

昨日、親友であり悪友でもある保史恋が刺された。俺たちはその際に救急車を呼んで病院へと連れて行ってもらったが...恋は心肺停止状態のまま運ばれていた。俺たちが入れた30分程度の中でもずっと呼吸はしていなく、脳のみがかろうじて生きている状況だったのだ。

その後俺たちは共に眠り...今に至っている。

というかいい匂いがする。寝顔はあどけないし、俺を抱き枕扱いしているのかしっかりと密着して、その...意外と大きな胸が俺に触っていて、ハッキリ言えば妙な反応をされれば理性が吹き飛ぶ可能性すらある。「幼馴染カップル」なんてものを忌避していて、その幼馴染が凛華だから万が一...いや億が一でも過ちを起こすことはないと思っていたが...ヤバい。


「ん...。」

小さく声を出してからさらに密着してくる凛華に、俺は本当に焦る。これ以上近づかれると、手が頭ではなく唇に出てしまいそうだ。...というか、改めて見ると凛華の唇って柔らかそうだな...。って、何を考えているんだ、俺!?

と内心1人突っ込みつつも視線は唇に釘付けであり...だからこそ、だろうか。俺は、凛華の口角がわずかに上がったのを見逃さなかった。

急激に、俺の心が冷静になっていく。恋が稀に見せたような酷薄とした表情で、凛華に()()()()()()気取った口調で言う。

「あー、もう朝だなー。寒いし、早めにストーブにでもあたりに行くかー」

凛華が起きているのに気づいていて、「今のお前とは一緒にいれない」と暗に告げていたとは気づかずに俺は布団を出る。...いや、出ようとする。

しかし、凛華はなぜか俺に手を伸ばしてきた。


「...ナツー」

この期に及んで寝たふりをし続ける気らしい凛華の手を、無理矢理引き剥がす。正直、少しイラついていた。恋が刺されて、一緒に寝たのは互いに心の支えになって欲しかったからだ。だというのに、なんで凛華はその必要のなくなった今一緒にいようとしているのか。だからこそ、少し手荒になった。

父さんに血抜きしてもらった制服を着て、俺は学校に行く。いつもよりも早足になっていたのは、きっと凛華がいなかったからだ。...だというのに、俺が学校に着いてから教室に上がるまでの道のりの足は非常に重かった。

「...凛華め」

お門違いだが、俺は少しだけ凛華を呪った。


「...凛華?」

「...」

「え、と...」

「...ストーカー」

「家が隣なんだから仕方ねえだろ!?」

帰り道。学校で一言も喋らせてもらえなかった凛華と喋ろうとしたが、凛華は俺に冷たく当たっていて話せなかった。

「俺の何が気に入らないんだ?凛華が俺を怒ることなんて何もなーーー」

いはずじゃないか、とは言えなかった。酷く傷つけられたというような表情をした凛華が俺の頰を張り、舌を噛みそうになった。


「な、何すんだよ!?」

激昂する俺に、しかし凛華は俺の怒りに倍するような憎悪の視線で俺を睨んで吐き捨てた。

「あんなことして、よくもいけしゃあしゃあと言えたもんだね!」

「あんなこと?...朝のか?でもあれは...」

「うるさい!ナツなんて顔を見たくもないよ!」

「あ、ちょ、おい待てよ!」

慌てて追いかけようとしたが、頬の痛みと凛華に初めて向けられた憎悪の視線に動けなかった。

左手側...いつもなら恋がいるところを反射的に見て、俺はがっくしと首を落とし...

「クソっ!」

苛立ち紛れに、小石を蹴飛ばしたのだった。

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