1話
最初の戯言はどうかお忘れください。あと、これで一本にまとめれました。ドヤッ
深い闇に囚われた鐘楼の鐘が鳴る。
蒼き空より舞い降りた剣が,それを切り裂いて落ちていく。
それは、どこまでも落ちていく。全てを恨む男を貫き,血に満たされた大地を貫き,星さえ貫き,どこまでも。
それはいつしか深く深く堕ちていくようになり、全ての始まりの「特異点」にまで達した。
それは特異点を貫きそして,一つになった。
特異点はその存在を、剣を核とした星になった。
「...おーい、ナツー!」
外から聞こえる幼馴染の声に、俺は今日も起こされる。昨日は遅く寝たので、いつも通りの時間に起こしに来るその声がいつもより不快に感じる。
「...おーい、ナーツー!卜部夏凛ー!」
「うるせえ!」
無視してやるとさらに五月蝿くがなり立て始めたので、俺はつい窓を開けて家の外にいるそいつに怒号を発してしまう。
「なあんだ、起きてんじゃん。早く降りてきなよー」
「うるせえ。ていうか、毎日俺を起こすために周りから変な目もらっていいのかよ」
「うん?当たり前でしょ。僕は君が大好きなんだからさ」
「...かわいくねー」
「あはは、褒め言葉として受け取っておくよ」
「言ってねえ!?」
相変わらず、テンションが掴みにくいやつだ。それに、恥ずかしがりもせず俺に「大好き」なんて言って来る馬鹿はアイツぐらいしかいない。
「じゃ、待ってるからー」などと言いながら、いつもの笑顔をくれた茶髪の女...卜部凛華は手を振ってくる。それに心を少し乱されながら、俺は仕方なく手を振り返した。
早い話、凛華は俺の幼馴染的立ち位置にいる奴だ。それこそ子供の頃は良く遊んだが、流石に思春期に入っても「ぼくたち,仲良くいようね」なんて事は小っ恥ずかしくて出来やしなかった。
...だからだろうか。アイツが、「僕は君が好き」などと言い始めたのは。
凛華には、親がいない。正しく言えばいるが、正月や盆でさえ碌に家に顔を出さないような...親としては失格の奴らだ。正直、結構アイツと長い時間一緒にいる俺でさえ見たことは一回ぐらいしかない。
だから、1人の家が寂しくてしょうがないのかもしれない。だが、アイツにもそれなりには友達がいるだろうしもしかしたら...万が一程度ではあるが、恋人がいるかもしれない。それなのに俺がアイツに付き合ってやる謂れは、正直言ってない。
なのに...なんでだか、結局はアイツと一緒にいることが多い。俺たちの仲は、腐れ縁以外に表せる言葉が無かった。
身支度を終わらせて下に降りると、やはりいつも通り凛華が朝食を食べていた。見慣れた光景なので、もはや何も言うことはない。
「やっほ。今日はちょっとイラついてたみたいだけど、寝不足?」
「俺の声聞いてそんなのが分かるのはお前ぐらいだよ」
「えへへ、今日はナツがいっぱい褒めてくれて嬉しいな」
「だから褒めてねえよ!?」
「照れなくて良いんだよ?...まあ、ずっと毎朝こうやってれば分かるんだよね」
その言葉の裏に、身支度中に考えた寂しさが滲んでいるような気がして、俺は二の句を告げずに黙り込む。
俺があまり良くない感じの空気を作っていたのだろう。「ま、まあでも」と努めて明るくしたような声で凛華が言う。
「僕はこうやって一緒にいれるだけで幸せだよ?それに、起きてすぐなら僕の可愛さに見惚れて真っ赤になったナツも見れるし」
「うわっ、趣味悪い!」
「ふふ、僕に見惚れてることは否定しないんだー?」
美少女ともいうべき凛華の意地悪な笑みを向けられ、しかし俺は視線を逸らす。背後で忍び笑いが聞こえた気がしたが、これが狙いだったと気づくのはいつも俺が反応してからだ。
だが、いつまでもやられっぱなしというわけにはいかない。俺は、側から見ても繕った笑みに見えるだろう笑みで凛華に顔を近づける。そして、言葉を続けようとして凛華の顔を見て...硬直する。
そこには年頃の女の、何かから顔を逸らすような真っ赤な顔があった。
「...え?」
それは、俺と凛華のどちらから出たのだろうか。2人してしばらく硬直し...そして、凛華が先に立ち直った。
「な、何顔真っ赤にしてんの?もしかして...ほ、本気にしちゃったとか?」
なんとか余裕の笑みを浮かべようとしている凛華だが、その顔は少しは笑みの形を作れてもまだ赤面したままだった。
「な、な訳ねえだろ!?仮に好きだとしても、お前みたいなのとは付き合いたくねえよ!」
俺も焦って言い返す。しどろもどろになりそうだったが、思わず赤面したのに対する恥ずかしさもあってかいつもよりも棘のある言い方になってしまっていた。
そして、俺の最大の誤算。それは、凛華がどれだけいつもは飄々としても結局のところ、「一人の人間」だということを忘れて「ただ煽って来る女」としか認識できていなかったことだ。
「...!」
俺の言葉に、初めて見せる顔...恐怖と絶望がないまぜになったような表情をした凛華に俺は何かを言おうとしたが、立ち上がった凛華を止めることはできなかった。
「お、おい!」
引き止めようとして声をかけても、その背中は既に家を出て行っていた。