2-6 次にコチラへ来るのは
アイスランドの船員ブライドソン、イスレイフソン、ケティルソン。三人の男が小舟に乗って、エルディ島に近づきました。
彼らの狙いはオオウミガラス。
私たちが命懸けで守った子を、マリーエとイェンスを殺そうと。いえ、居るとは思わなかったのでしょう。ただ一攫千金を夢見て。
「オイ、居たぞ!」
興奮しながら叫ぶ、ブライドソン。
「番か。」
イスレイフソンがニヤリ。その口元は醜く、歪んでいました。
「ツイてるな。アレ、卵だぜ。」
ケティルソンの目が、赤く光ったように思います。
マリーエは抱卵中。側でイェンスが、男たちを威嚇。二羽とも解っています。コイツらはバケモノ、鳥殺し。
オオウミガラスは人に対して、警戒心を持たない。逆に好奇心を持って、自ら人間に近寄ってくる。それは昔の話。
私たちは学習しました、人類は敵だと。
イェンスはマリーエを守るように、前に乗り出しました。マリーエは卵を抱いたまま、守りの姿勢を取ります。
必死に『来るな』『近づくな』『ココから離れろ』と叫ぶ二羽を睨みつけながら、三人の男が舟から降りました。
マリーエを守ろうと、声の限り叫ぶイェンス。卵を残して海に逃げず、必死に守ろうとするマリーエ。
あんなに小さかった子が、立派に。あなたたちは私の誇りよ。でもね、逃げてほしかった・・・・・・。
「ギャァギャァ、ギャァギャァ。うるせぇなぁ。」
ブライドソンが棍棒を振り上げ、イェンスを攻撃。バタッと倒れました。
「ほら、どけ。」
卵を守ろうとするマリーエの首を、イスレイフソンが掴みます。それでも必死に踏ん張って、卵から離れようとしません。
「うわっ!」
グワッと起き上がったイェンスが翳む目で、イスレイフソンに襲い掛かりました。マリーエは首を締められたまま、諦めず暴れ続けます。
「死ねぇぇ!」
そのままグッと力を強め、マリーエを絞殺。
「くたばれぇぇ!」
ブライドソンが力いっぱい、イェンスを撲殺。
「さて、と。卵・・・・・・。」
イェンスとマリーエ。二羽との闘争中にケティルソンがブーツで、卵を割ってしまった事に気が付きました。
「どうした。」
棍棒を握ったままのブライドソンに尋ねられ、何も言えないケティルソン。
「あぁ~あ。割れてらぁ。」
乱暴にマリーエを舟に投げ入れてから、卵を確認したイスレイフソン。
「なんだ、これじゃ売れねぇな。」
イェンスを舟に投げ入れたブライドソンが、不貞腐れた態度で言います。
己の失敗を隠すように、ケティルソンがチッと舌打ち。ブライドソンからヒョイと奪い、海に投げ捨てました。
マリーエが産んだイェンスの子を、卵を。叩きつけるように、冷たい海へ。
これがオオウミガラスが確認された、最後です。
私は今もショーケースに入れられ、展示されています。
オオウミガラスを絶滅させた人類は、私たちに対する興味を失ったのでしょうね。チラッと見るだけ。
たまに、社会科学習か何かでしょうか。教師に引率され、児童や生徒が来館します。
絶滅種にも人気、不人気が有るんですよ。
人間の乱獲によって絶滅した動物の中では、オオウミガラスは最も有名な生き物の一つ。それでも、恐竜さんには敵いません。
学芸員から説明を受ながら、児童生徒が私の前を通り過ぎます。
稀に二人ほど立ち止まり、見つめられますが直ぐにプイッ。その度に、複雑な気持ちになります。
一羽だけ入れられ、モノとして展示される。そういう運命だったと考え、受け入れる事にしました。
けれど、ふと思うのです。エーネやマリーエ、イェンス。カールやカーンは今、どこに居るのかと。
娘たちを殺した件の男たちは、極悪人として糾弾されたトカ。
けれど私にとって人類は皆、極悪兇猛。もうね、『滅んでしまえ』とさえ思います。
そうそう今のところ、絶滅したペンギン類は居ないそうですね。
けれど営巣する環境を奪われたり、魚網に引っ掛かって落命したり、気候変動の影響を受けて危機に瀕している種が多いとか。
フフッ。次にコチラへ来るのは、人類かしら。
写真でしか見た事は有りませんがエルディ島、寂しそうにポツンと浮かんでいるんです。
本当に小さいんですよ。