2-4 悲劇の島、エルディ
人類は勘違いをしています。
確かに好奇心旺盛ですが私たち、学習能力を有しています。逃げますよ、生き残るために。
「人だ、人が来た!」
仲間の一羽が叫んだ。
「タイヘンだ。」
トタトタ、ピョン。
「急げ。」
トタトタ、ピョン。
私たちは泳ぎの名手、海に飛び込めば逃げられる。けれど、抱卵中は動けない。身を低くして隠れるのが精一杯。
「ヘンス、あなたも早く。」
「でも。」
「お願い、逃げて。」
カーラが卵を抱いたまま、祈るようにヘンスに言った。カーラの他にも、抱卵中の仲間が。
「カーラ!」
カールがトタトタ、急いで駆けてくる。その直ぐ後ろには、エーネの姿が。
「来るんだ、ヘンス。逃げよう。」
「お母さん、早くぅ!」
マリーエが海から呼んでいる。どうしよう、逃げなきゃ。でも・・・・・・。
「エーネ、ヘンス。イェンスを頼む。」
懇願するカール。カーラが祈るように、私たちを見つめる。
マリーエもイェンスも、まだ幼い。両親を失えば、この広い海で。守らなきゃ。私たちは見合い、頷く。
「また会おう。」
「イェンスの事は、任せて。」
そう言って、泣きながら飛び込んだ。
私はマリーエを、エーネはイェンスを守りながら逃げて、逃げて逃げまくった。心の底から願ったわ。残してきた二羽、カールとカーンの無事を。
夜。人が居なくなったのを確かめてから、島に戻ったの。
カールもカーンも、抱卵していた他の仲間たちも見つけられなかった。残っていたのは割れた卵や、踏みつけられた殻だけ。
何も言わず、ソッと海へ。このまま干乾びるより、海で眠る方が良いと思ったの。だから・・・・・・。
「飛び込め、また来た。」
エーネが叫ぶ。
私たちはトタトタ急いで、海に飛び込んだ。その直ぐ後、大きな音が響いたわ。何度も、何度も。
ズドン。ズドン。ズドン。ズドン。ズドン。ズドン。
あの日、人類は気づいた。私たちが近寄って来ないと。
棍棒が使えないなら、銃を使えば良いと思ったのね。海に逃げられては、分が悪いもの。
滅んだと思っていた鳥が数十羽も残っている。
『コイツら、幾らでも増えるカモな。値崩れする前に狩って狩って、高値で売りつけよう』とでも、考えた?
弾丸の速度が早ければ早いほど、水からの抵抗力が大きくなる。
幸か不幸か、人類が選んだのはライフル銃。水深30センチ程度で止まるから、1メートルも潜れば安心。
モチロンそんな事、知らない。だから撃ちまくった。
海に向かって撃って撃って、多くの仲間が被弾。光の方へ導かれるように、ゆっくり浮かんで波に揺られる。