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6-3:〝煌人〟という生物

『まずはこちらを』

 表示されたのは三つの記録映像──流されているのは、月煌化して我を見失ったサクラ達の姿だった。

「な、何じゃこれはっ?」

「何だと言われても見ての通りです。紛れもないユスティシャニア殿下の醜態でございます……覚えていらっしゃらないとは思いますが」

 と、フィルみたいな言い様をしつつ、サクラは自分の映像を、見たくもないが横目で見る。

 奇声、あるいは咆哮を上げ、狂った餓獣のごとく灼凍龍に真正面から突っ込んでいく自分の姿──薄らとしか覚えていないから夢だったのかとも期待したが、こんなはっきりした記録の前に、淡い期待もあっさり崩れた。

「我ながら何とも見苦しい姿だ……それで、これが何だと?」

 ユスティシャニアが、ひきつった笑みで先を促す──さすがにいい気はしていないらしい。

『では、次にこちらを……先日、サクラが行った計算問題における実験において、〝月煌化中は論理的思考が著しく低下する〟という結論に至りました』

 動画と入れ替わりで投影されたのは、サクラの計算問題の答案。〝通常〟と〝月煌化〟に分けられており、正答率と解答率の差がはっきりと表われていた。

『数百ルギスという重量体を軽快に動かす強靭な膂力、高度且つ大規模な月路、膨大な月精を生み出す炉心──これらは複雑かつ密接に連動しており、地民や還人のように脳が一つでは、制御は不可能。そのため煌人は二つの脳を内包し、常に並列処理しています』

 新たにマオシスが投影したのは、煌人の身体構造──脳や炉心が、簡素な図で描かれている。

『加えて、〝月煌化〟──炉心駆動の臨界突破による爆発的強化は、二つの脳でも処理能力を大きく超えてしまう上に、体温の無制限に上昇させます。これらの条件が重なり、二つの脳でも処理能力を大きく超え、論理的思考は強制排他、闘争攻撃本能に侵食されます』

「……えっと……」

 サクラはマオシスの小難しい用語と話を頭の中で必死に整理し、

「つまり、月煌化すると理性を失って本能だけで暴れ回るようになってしまうってことですか?」

『概ね肯定します。また、全身に発生した火傷も内的要因──際限なく上昇した体温が原因です。白髪化も、色素としての側面であった月精が消費されたことによる脱色によるものとなります』

「ソレで、結論……煌人は〝闘争に特化した極めて微妙で危ない均衡の中で生きてる種族〟ってトコロか」

 コウセイは話をまとめると、最後に鼻を鳴らしながらプラウディアに目を向け、

「大した〝至高の種族〟ダナ?」

「き、貴様ぁっ」

「よせ、プラウディア……お前もよく分かっているだろう」

 激昂しかけたプラウディアを、ユスティシャニアが諌めた。

「我々は、むしろ運が良かったんだ……一つ違っていただけで、我々はここで喚くことすら出来なかった」

 ユスティシャニアは、あるいは自分に言い聞かせるように言いながら、大きく息を吐き出し、

「与太話にしては、思った以上に面白いかった……だが、そろそろ与太よりも現実的な話をしたいのだがな」

「そうですね……長々と引き留めて申し訳ありませんでした。お二人とも、お帰りいただいて結構です」

 と、サクラは恭しく頭を下げながら、主回廊を示した。今は全ての隔壁を開いているから、まっすぐ進めば外に出られる。

「お帰りいただいて、か……簡単に言ってくれるが、船を全てやられてしまった以上、実質不可能だろう?」

「……だから? そこまで世話する義務や義理が、私達にあるとでも?」

「では、なぜ我々を助けた? 義務も義理が無いというなら、放っておいた方が手間は省けたろうに」

「……」

 サクラは舌打ちしかけるのをどうにか堪える。

 こんな時でも、ユスティシャニアはよく分かっている──自分たちの状況も、サクラ達の立場も。

 ユスティシャニア達が生きて帰らないと、後々に困るのはサクラ達の方なのだ。

「オマエ達が帰る方法ナラ、アル」

 と、コウセイが割り込んできた。

「浜辺に移動スル……ミンナ、スイキョウに乗ル」

 主回廊から飛んできたスイキョウが、皆の傍に静かに着地した。


*****


『──って、何じゃこの扱いはっ?』

『立場上贅沢言うつもりは無かったが……さすがに悲しくなってくるぞ』

 主回廊を進むスイキョウの手の中(・・・)で、プラウディアとユスティシャニアが喚く。

「我慢しなさい」

 小さな人形のように握られている二人を画面越しに見下ろしながら、サクラは有無を言わさず言った。

「そもそも定員が二人なのに、今は無理矢理四人も詰め込んでる状態なんです。運んでもらえるだけ、ありがたく思うことですね。そっちの機械狂いの蒼いお姫様は、特にね」

『ぐ……っ!』

 図星らしく、プラウディアは悔しげに奥歯を噛む。実際、スイキョウを見る目はラヴィーネの時以上に輝いている。

「というわけで、しばらくお人形ごっこをしていなさい。どうせ二、三分ですから」

 サクラのその言葉通り、スイキョウはあっという間に主回廊を抜け、一飛びで浜辺へと着地し、皆をその場に下ろした。

「これって……」

 まず目についたのは整然と並べられた兵士達──のなれの果てである大小の肉塊が、元の形が分かるよう、可能な限り正しい位置(・・・・・)に並べられていた。

「スイキョウがいないから何かやらせてるとは思ってましたけど」

 遺跡の前で倒れていた八人も含まれていることに気付いて、サクラは眉をひそめる。スイキョウに運ばせたのだろう──一人足りないのが気になるが。

「本当に、何のつもりで何をやってるんですか?」

「ソノ前に」

 コウセイは、まずはスイキョウに掴まれたままのプラウディアに目を向けた。

「オマエ、機械が得意……というか、この船を造ったノハ、オマエなんだロ?」

 壊れた二隻の輸送艇が、波打ち際に並べられている。こちらも、スイキョウが運んだのだろう。

「う、うむ……」

「二つの船、壊れテル。でも、オマエなら部品をやりくりして動カスことがデキる、ダロ。直シテ帰れ……マオシス、×××」

 コウセイの指示で、プラウディアとユスティシャニアは輸送艇の傍に下ろされる。

「で、こっちの兵士ダケド、このまま放ってオクのはマズい。だから」

 コウセイは、兵士の一人に歩み寄ると、首にかけられた鑑札票と呼ばれる身元を記した札を外し、

「コウイウのはドウだ? マオシス」

『了解……対象周囲の空間を封鎖します。危険ですので、決して近づかないでください』

 兵士は黒い膜に覆われ、球の形になった。

『空間閉鎖、完了。不純物の分解除去、完了。圧縮を開始』

 黒球が、緩やかに縮んでいく──中身の形状も体積も構わずに。

 黒球は、やがて小指大にまで縮まったところでようやく動きを止める。

『圧縮変成完了。空間閉鎖を限定解除、排熱に注意してください』

 しばらくすると、黒球の天頂部分に穴が開き、高熱の空気と蒸気が、甲高い爆音を上げて噴出する。

『排熱終了。続いて、空間閉鎖解除、冷却を開始します。表面はまだ高温のため、お手を触れないでください』

 現れたのは、綺麗な球形に象られた小さな輝石。高温の余熱と朝日で、揺らめくように輝いていた。

『肉体を分子の大きさまで分解し、必要成分を抽出し、それを高温で圧縮すると、このような輝石に変成します。こちらの言葉に変えれば、〝輝石葬〟とでも言うべき葬法にあたります』

「それで、デキたモノがコレだ」

 と、コウセイが皆に見せたのは、手製の網でくるんだ輝石を結び付けた別の兵士の鑑札票だった。足りない兵士は、既に実物に変成されていたらしい。

「き、貴様、我が軍の兵を」

「だが、願っても無い話だ。道義的にはどうあれ、な」

 激昂しかけるプラウディアを諌め、ユスティシャニアは肯定的に言った。プラウディアは尚も反論しようとして、しかしそれを呻くようにして引っ込め、

「よかろう……その案、受けよう。だが、扱いはくれぐれも丁重になっ!」

 最後は強がるように怒鳴りつけながらも、受け入れた。

「よろしい……しかし、遺跡の灼凍龍の方は?」

『遺跡の全隔壁の封鎖を確認……転送区画の灼凍龍は常時監視中。万が一、灼凍龍が復活した場合でも、脱出は不可能です』

「ツマリ、安心してお仕事デキるってコトダ」

「それじゃ、さっそく始めましょう」


*****


 遺体の変成処理はコウセイとマオシスに、軌跡をくるむ網を編むのはラヴィーネとフィルに任せた。ちなみに網については、倒壊するだけに留まった漁道具の物置小屋から引っ張り出して再利用。

 サクラも、ラヴィーネとフィルに付き合っていたが、ふと思い立って二人のその場を任せ、輸送艇の方に向かった。

「直りそうですか?」

「……」

 プラウディアは、声をかけたサクラに一瞬目を向けるが、すぐに作業を再開する。

「幸い、部品のやり取りでどうにか動かすことはできそう、とのことらしい」

 代わりに、席に座ってプラウディアの作業に目を光らせるユスティシャニアが答えた。首も腕も繋がったとはいえ、まともに動けるようになるまでには、まだ時間がかかる。細かい作業には手を貸せないのだった。

「よろしい……せいぜい急ぐことです。こう見えても、私はそんなに気が長い方じゃないんで」

 静かに吐き捨てると、サクラは輸送艇から離れる。

「ああ……知っている」

 という、ユスティシャニアの言葉を背中に受けて。

「さて……次、と」

 サクラは月路の調子が戻ったのを確かめると、蒼月精を巡らせて磁場を展開──遺跡の方へ跳んだ。そして遺跡の前で一度着地し、同じやり方で主回廊を飛び抜け、跳躍区画に入った。

 そこには、置き去りにされたままの灼凍龍の死骸が、静かに横たわっていた。

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