6-2:そういえばこんな連中もいた
「でも、凄いよっ!」
ラヴィーネはむくれ顔は一転、目を輝かせてサクラとコウセイに駆け寄る。
「こんなデッカイのをやっつけてっていうかポーンだよポーンってっ!」
大きく手を振って興奮気味に語るラヴィーネ。
「ポーン?」
「コレだ」
首を傾げるサクラの前に、コウセイは画面を投影して見せる。
弾き飛ばされて動けないサクラに迫る灼凍龍の前にスイキョウが割って入り、機械の腕が軽い動きで払われる──灼凍龍の巨体は、木の葉のように宙を翻った。
「これって……」
サクラの脳裏によぎるのは、コウセイに木の葉のように払いのけられるバーラや自分の姿。
「……そりゃまあ、スイキョウのおかげってのもあるんでしょうけど、何かもう〝戦技〟なんて可愛いモノじゃないですよこれは」
『そもそも、〝戦技〟という括り自体が、極めて限定的な一側面であり』
「あらゆる形に変わる故に極みは無く果ても無く、あらゆる形に化ける故に全てが極みであり果てになり得る……でしたっけ?」
マオシスの補足に、サクラは以前聞いた概念を暗唱して見せた。
「……これでも、一応記憶力はあるんです」
と、サクラはドヤ顔で言ってやった──理解の方は、相変わらずできていないが。
「別に、分かろウト思う必要はナイ」
コウセイが、色々と見透かしたような笑みで言った。
何だか妙に引っかかるが、直弟子のラヴィーネも、何とも言えない顔で目を泳がせているところを見ると、やはり頭で理解するものではないのだろう。
「よく分かんないけど、いつかラヴィにも出来るようになるかな?」
「ソレはラヴィ次第ダ」
分からないなりに目を輝かせるラヴィーネに対し、しかし、コウセイは甘やかさない。
「デキるようになるノカ、デキないまま終わルカ、もしかしたら別ノ道を進ムカ……コレからの、ラヴィの生き方デ、見つケル」
「ああ、えっと……うんっ」
一瞬迷う素振りを見せながらも、ラヴィーネは思い出したように頷く。
ここで何も考えず無邪気に頷くような真似をしないあたり、分からないなりに何かを察したようだ。
サクラは、ふと思いつき、冗談めかして言ってみた。
「その、龍をやっつける程の戦技を悪用したりして? あるいは、欲の張った連中に利用されたりして?」
「ソレなら、ラヴィがそういうヤツだった、というコトダ」
事もなげにコウセイは言ったものだから、サクラは思わず言葉を詰まらせた。
「ドンナ未来でも、それがラヴィの決めた道ナラ、迷わず進めばイイ……ダカラ」
コウセイは、ラヴィに向き直り、
「オマエにしかできナイ、オマエにならデキる道を、まずは見つケロ。ラヴィーネ・クラーゼ」
「う、うん……っ」
いつになく真摯なコウセイに気圧されて、思わず頷いて見せるラヴィーネ。
しかしサクラは、その言葉に込められた奇妙な気配に気づく。
それは、まるで、
「お話中失礼します」
問い質すかどうか迷っているうちに、フィルが声をかけてきた。
「まずは大勝とご無事をお喜び申し上げます……それにしても」
フィルは、やや冷めた目でサクラの白くなった髪に目を向け。
「急に老けられましたね?」
「うっさいわっ! 何があったか知ってるでしょうにっ!」
「ふむ……お元気そうで何よりでございます」
「どういたいまして……貴方も元気そうですね。何やってたか知りませんけど」
「そのような言は、甚だ心外でございます。動けぬ姫君方をお守りするよう命じられたのは、サクラ様でございましょうに」
「姫……あ~そういえばいましたね」
すっかり忘れていた二人の存在が、今になってようやく頭に浮かんだ──本当に、すっかり忘れていた。灼凍龍との戦いが、あまりにも強烈過ぎて。
「で、その姫君方はどうしたんです?」
「先ほどお目覚めになられたので」
と、フィルがそちらに視線を向け、
「僭越ながらお連れしました」
フィルの後ろから、蒼と紫の娘がやってきた。
*****
いざその姿を目にした途端、サクラの気分は一気に急降下しかける。それを鞭打って強引に留めると、粛々と立ち上がり、
「これはプラウディア殿下にユスティシャニア殿下。意識を取り戻されて何よりでございます……と、申し上げたいところですが、あまりご無理はされないほうがよろしいかと」
恭しく頭を下げつつ、二人を窺う。
プラウディアは、さすがに体はだいぶ治ったようだが、見るからにボロボロ。そんなプラウディアの肩を借りて、ようやく立っていられるユスティシャニア。そして、二人の髪は、いくらか色は戻ってはいるものの、燃え尽きたような灰色の方が未だに濃い。
「特に、ユスティシャニア殿下は、まだ首が繋がって間もないですから」
「……そういう貴様こそ」
ユスティシャニアは、プラウディアから離れてその場に座り込むと、ひきつった笑いを浮かべ、
「随分と酷い様だな。色々な意味で」
「そ、そうじゃっ!」
ここぞとばかりに、プラウディアが喚く。
「何じゃその卑猥極まりない恰好はっ? こんな掃き溜めに折るからそのような誇りの無い汚れた姿に」
「卑猥で恥ずかしいのを我慢した甲斐はありましたよ」
プラウディアの喚き声を遮って、サクラは優しく微笑み、
「この服のおかげで、私はアレにバラバラにされず、右足が千切れるだけで済みましたから」
サクラは、右足を無造作に踏み鳴らしつつ、灼凍龍を指差した。
「そもそも、殿下の仰る〝誇り〟というのが何なのか、この身には分かりかねます……そもそも、高貴な方とは住む世界が違いますので」
張り付けたような笑みで、慇懃無礼な態度でつらつらと述べる。
「というわけで、誇り高い方々はふさわしき場所へお帰りください。それだけ喚ける元気があるなら、あまり心配はなさそうですし」
「オマエ、人ノことヲ言えナイゾ」
ポツリと、しかししっかりと聞こえるような声で、コウセイが茶々を入れてきた。
「はぁっ? 貴方ねぇ……」
と、サクラは睨み付けるが、珍しく真摯な目を返してきたコウセイに、怒声を引っ込めた。
「あと一時間は、黙って大人シク我慢しテロ……ソッチの二人モ」
と、コウセイはユスティシャニアとプラウディアに目を向ける。
「どういうことですか?」
「オマエ達の体は、オマエ達が思ってるヨリも、傷、ついテ……マオシス」
噛み始めたコウセイは、すかさずマオシスに話の続きを押し付けた。
『以降の具体的な説明を引き継ぎます……前回の実験と、これまでの戦闘で得られた情報を分析した結果、煌人の種族的な特性が判明しました』
「特性?」
『〝弱点〟、あるいは〝欠点〟と言い換えて差し支えないでしょう。〝宿命的〟、あるいは〝致命的〟という但し付で』
「た、戯けたことをっ!」
プラウディアが喚き声で割り込んできた。
「我ら煌人は、至高の種族っ! 故に」
「……恐れながら」
その喚き声を、フィルがため息交じりに遮る。
「ああも散々な醜態を晒された方が仰られても、何ら意味を持たぬかと」
「……っ、そなたは確かブラーダ卿の娘じゃったか。武術指南役の娘如きが、妾を侮辱するなど」
「いい加減黙れ……話が進まん」
と、ユスティシャニアが手を叩きながら割り込んだ。
「むしろ、実に興味深い。じっくり聞かせてもらおうではないか……我ら煌人の、〝宿命的〟で〝致命的〟な〝弱点〟とやらをな」




