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6-1:ようやく人心地

「いつつ……」

 その場に座り込んだサクラは、思い出したようにやってきた全身の痛みに呻きつつ、翠月精を施す。

 後になって気付いたが、右足の欠損だけでなく、骨折だの筋肉断裂だの臓器破裂だのと、全身が酷いことになっていた。

「その服ジャなかったラ、バラバラだッタ……あと、コレ」

 と、得意げな顔のコウセイが差し出したのは、千切れたサクラの右足だった。

「思ったよりキレイに切れたカラ、オマエならすぐ治るハズ」

「……それはどうも」

 投げやりに返事しつつ、受け取った右足を千切れた部分に密着させながら翠月精で施術を開始──強化された煌人の回復力が、泣き別れた右足を見る間に癒着。

 感覚が戻ってきたところで、指を動かし足首を回して動きを確かめながら、コウセイに支えてもらいつつ立ち上がり、自力で少しばかり歩いてみた。やや違和感はあるが、踏ん張りは効くので、歩き回るのに問題はなさそうだ。

 そんなサクラを見て、コウセイはふと思い立ち、

「……言っとくケド、暴レルのはダメだぞ」

「そんなこと、言われなくたって分かってますからっ」

「それが怪しいカラ言ってるンダ……見ろ」

 と、コウセイはサクラの前に画面を一枚投影する。

 映っているのは鏡──サクラの今の自画である。

「うわぁ……」

 今の自分の姿に、サクラは思わず呻く。

 澄んだ蒼一色だった髪は、今は白がまだらに混じった歪な色彩に変わっていた。

「分かってましたけど、意外と白くなるんですね~」

 サクラは背中に手を回し、髪を一房つまんで確かめてみる。

 白というよりも、燃え尽きたような灰のようだ。先ほど目にした、プラウディアやユスティシャニアのように。

「時間が経てバ、元に、戻ル……タブン」

「多分て貴方……まあ、戻らないなら戻らないで、名誉の負傷と思うことにしますけどね」

 サクラは、倒れ伏した灼凍龍に目を向けた。


 ラヴィーネが思い付きで言った、灼凍龍の〝弱い所〟──そのまたと無い機会が、熱光線を放った直後だった。

 熱光線を放つ際の灼凍龍の体は、集めた熱を体外に逃がさず効率よく発射口である角へ集めるために、体組織の結合を強める。

 当然、この時の灼凍龍の体はより強固になり、あらゆる攻撃を受け付けないので阻止は不可能。そして哀れな愚者は為す術も無く、絶対的に強大な熱光線でもって、跡形も残らないずに焼き尽くされる。

 絶対的である故に──熱光線を放った後の反動も多大である。

 莫大な熱量の全てを体内に抑え込むため、負担と消耗もそれ相応であり、余熱の放散のために、体組織の結合を大きく緩める必要がある。それも、熱光線を使う前よりも更に大きく、広く。

 つまり──熱光線を放った直後の灼凍龍の体は、著しく脆弱化し、こちらの攻撃も、決定打になり得るということ。

 しかし、その時間も十数秒という僅かなもの──勝機は一度であり、ただの一撃のみ。

 それで狙えるのは、明確な急所である目──その奥にある脳だけ。

 そこで、正面切って真っ向から対抗するスイキョウを隠れ蓑にしつつ、サクラは決定打となる月精術を用意してトドメ──というのが、コウセイの出した策だった。


「そりゃまあ、こうなる様にやったんですけど……やれば出来るんですねぇ」

 サクラは屍を晒す灼凍龍の姿を、半信半疑で確かめる。

 脳があった場所を中心に、両目諸共顔の半分が吹き飛び、未だ残る高熱が血と肉の臭いの混じった湯気を立たせていた。

「……何だか、まだ生きてるみたいですね」

「生きてルわけじゃ、ナイ。死んでいない、ダケ……マオシス」

『現時点における、灼凍龍の解析情報がこちらになります』

 灼凍龍の立体図が、大写しで皆の前に投影された。

『脳の欠損によって思考を失い、意識的な活動は不可能となっております。しかし、代謝などの自律的な生理機能により、残存の養分や生成される月精などで生命維持を行っています』

「生成されるって……じゃあ、炉心はまだ動いてるってことですか?」

『肯定します。ただし、繰り返しますが、意識的な活動は不能です。したがって、生命維持を目的とする行動が不可能ということになります。また、飢餓状態にあって先ほどの戦闘……特に立て続けの熱線放射により、極めて消耗した状態にありました。生命活動が完全停止まで、約百時間前後と予想されます』

「つまり……動くことも考えることも出来ないから四~五日放っておけば衰弱死するってことですか?」

『肯定します……ただし、あくまで現状から考えられる推論です。以後、死滅が確認されるまでは、調査を兼ねて監視を継続します。不用意な行動は控えてください』

「……と言いつつ、マオシスはどこに行ったんですか? スイキョウの姿は見えませんけど」

『現在、遺跡の外で中断していた作業を再開。まもなく終了します』

「……ドンパチの後なのに、大丈夫なんですか? いくらなんでも無傷ってわけじゃなかったんでしょう?」

『機体損傷は極めて軽微。自己修復機能で完結する範囲です』

「そうですか……」

 自己修復する機械──今更ながら、改めて埒外の巨大人形だと再認識する。そしてそれ以上の事は、考えて仕方がない。

「というわけで、そこのヤンチャ娘っ」

 サクラは、灼凍龍の鼻先──無邪気に登っていたラヴィーネに目を向ける。

 灼凍龍の頭が吹き飛んで倒れ伏すなり、ラヴィーネはすぐに制御室を飛び出してサクラ達を無邪気に賞賛しながら、灼凍龍の体の周りを駆け回っていたのだった。

「今の話を聞いてたでしょう。悪戯もお遊びも、もう少し我慢しなさい」

「ちぇ~」

 ラヴィーネは、口を尖らせながらも言うことを聞いて灼凍龍の鼻先から降りた。

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