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5-6:天災への挑戦

『……概要は以上です』

「これはまた、何と申しますか……」

 マオシスの通じてコウセイの〝意見〟を聞き終えたフィルは、深々とため息を吐き出しながら、コウセイに冷たい目を向け、

「恐れながら、コウセイ殿は馬鹿でございますか? 阿呆でございますか? いえ、恐怖と錯乱の余り思考の配線が千切れた挙句、乱雑極まりない形に繋がれたのでは?」

 フィルの言い様はともかく、サクラも全く同感で、短い話が半分も終わらない内に頭を抱えた。

「……これ、作戦て言うの?」

 ラヴィーネですら唖然として、そんなことを言ってきた。

 コウセイの策は──今からやろうとしていることは、それ程までに無茶であった。ラヴィーネでも、無茶だと理解できるくらいには。

 それでも、

「……やりましょう」

 サクラは、その無茶に乗った。

 無茶ではあっても、無策無謀ではないから。

 決して、不可能ではないから。

「と言うか、もうやるしかないんですから」

「そうだね」

 ラヴィーネが、勇ましく拳を握りしめて頷いた。

「父ちゃんも、いつも言ってたよ。逃げられないなら、ヤっちまえって」

 可愛い娘に、何ということを吹き込むんだ──などと思うが、今に限っては、正論極まりない。

「……畏まりました。皆様の御心のままに」

 フィルが、深々を息を吐き出しながら、重々しく承諾した。それはもう、心底不本意で、嫌々な、仕方なしとばかりに。

「フィル、別にそこまで無理をしなくても」

「……そのようなお気づかいは、〝自重〟という言葉を、せめて砂粒の一つでも覚えられてから仰っていただきたいのですが」

「その事について、後でじっくり話し合うとして……早速バケモノ退治を始めましょうか」


*****


「××××、×××××」

『×××。××××××××××、×××××』

 スイキョウに乗って主回廊を進みながら、コウセイはマオシスと異星語で何やら話し合っている。

 その後ろの席で、サクラは投影された画面に目を通して、段取りを再確認。

『サクラ、コウセイ』

 その画面がずれ、ラヴィーネの顔を映した画面が投影される。

『用意できたよ。いつでもやっちゃって』

「分かりました……フィル、そっちの様子は?」

『……ご覧の通りでございます』

 投影された画面には、横たわるプラウディアをユスティシャニアが映っていた。先ほどよりも解凍は進み、顔色も良い。

『お目覚めになるのも、もうすぐかと』

「分かりました。しっかり見張っててください」

『畏まりました。それでは』

「……フィル?」

 通信を切ろうとしたところで、コウセイが割り込んだ。画面が回って、フィルの顔が映し出される。

『コウセイ殿、何か?』

「サクラは、ココで、イイのか? 本当ニ?」

「私のやることを考えれば、ここが良いと思いますけど?」

 なぜフィルに訊くのか──と言う疑問も案に込めて、サクラは言った。特等席を独り占め出来たという喜びは、ひた隠しにつつ。

『正直、私めも迷いましたが……』

 何やら含ませながら、フィルは言った。

『まず、サクラ様の仰る通りです。お役目に基づく配置と言う意味では、正当かと』

「ソレダケか?」

『まさか……サクラ様の極めて堪えの無いご気性を考えれば、今にも心配のあまり気が遠くなりそうでございます』

「ちょっと」

『コウセイ殿』

 口を挟もうとして、しかしサクラは言葉を呑みこんだ。

 画面の向こうにあるフィルの無表情──更にその裏から、いつになく真摯な気配がにじみ出ていた。

『万一の時は、どうかよろしくお願いします』

「……期待はスルな」

『承知しております……何せ、サクラ様でございます故に』

 フィルの真摯が苦笑に変わる──口の端を僅かに釣り上げただけの、とても小さな、よく気を付けなければ絶対に気付けないような、小さな変化だったが。

『ではお二方、ご武運を』

「ええ、フィルも」

 通信画面が消える。サクラは、小さく息をつき、

「貴方達……随分と好き勝手言ってくれましたね~?」

 サクラは席から身を乗り出し、コウセイの首に腕を回す。

「誰が堪え性も考えも無いすぐにカッカするお短気女ですって~? ん~?」

「話が進まナイから、ソコまで言ってナイ……でも、その通りダロ」

 一方のコウセイは、首と胴の角度を僅かにずらして極まり切らないようにしながら、鼻で笑った。

「見当違いノ罪の意識と、小さな自尊心を満足させるタメニ、あんなバケモノに真正面から特攻なんてスル、考えナシのバカ女だかラナ」

「な……っ」

 嘲りと侮蔑、そして幻滅を隠そうともしない罵倒に、サクラの頭に、血が一気に駆け上がり、

「何を言って、いるんですか……っ」

 しかし吐き出されたのは、怒声には程遠い弱々しいモノだった。

 見当違いの罪の意識、小さな自尊心──コウセイのその言葉が、深々と突き刺さってきたから。

「自分は煌人ナノに村のミンナを守れなカッタ、せめてラヴィ達だけデモ命を捨てテ守ってヤル、罪ほろぼしのタメニ……違ウか?」

「……っ」

 否定も反論も、出てこなかった──自分でも驚くくらいに。

 コウセイの首を絞める腕から、力が抜けていく。

「オマエは、チョット大きな力を持ってるダケの、タダのバカ女だ。バカ女一人とサルベル……釣り合い取レルと思ウか? むしろ〝死んで逃ゲル〟じゃナイのか?」

「それ、は……そん、なの……」

 気づけば、乗り出していた体は座席に座り込んでいた。

「今度コソ、頭が冷エタか?」

 そう訊ねるコウセイの言葉からは、冷たく突き刺すような侮蔑は消えていた。

「灼凍龍ハ、頭に血ヲ上らせて勝てる相手ジャナイ。〝死ぬ覚悟〟なんて後ろ向きナ甘エで戦えば、本当に死ヌ。ソレに」

『お話し中失礼します。所定位置に到達しました』

 割り込んできたマオシスの声を受けたコウセイは、スイキョウを止める。正面には、遺跡の出入り口である巨門が、固く口を閉じていた。この分厚い扉の向こうには、灼凍龍が待ち構えている。

『戦闘行動開始に伴い、危険ですので強制着座、固定します』

 サクラの体は背後から強烈な力で引っ張られ、席に押し付けられた。服に内蔵された機器と座席に設置された器具が、強力な磁場で固定し合うらしいが、サクラの膂力と体重でもビクともしないのだから、凄い力である。

「ラヴィ、用意ハ?」

『もちろん!』

 投影された通信画面には、ラヴィーネが映っていた。

「それじゃ始メル。ラヴィ、扉を開けル」

『うん!』

 スイキョウの前を塞ぐ隔壁が、重々しい動きで隔壁が左右に開いていき、霜の混じった空気が入り込んできた。

『発進します。現在、戦闘出力にあるため、急な加減速による衝撃や圧迫に注意を』

 マオシスの警告が終わる前に、スイキョウは爆ぜるように飛び出し、瞬く間に遺跡の頭上へと上昇する。

『サクラっ! コウセイっ! マオシスっ! いつでも開けるから、ガンガンやっちゃってっ!』

 拳を振り上げ、この上ない気合の入った激励を最後に、ラヴィーネの通信画面は消えた。

 眼下に広がるのは、熱量を奪われて凍り付いた地上──山、森、そして村。

 その元凶たる存在は、我が物顔で遺跡の頭頂に張り付き、飢えに任せて必死に外殻をこじ開けようとしている。

「ソレに……どうせ罪ほろぼしするなら、勝っタ方がイイに決まっテルだろ」

「……そう、ですね」

 龍の姿を目にしたサクラの背筋に、怖気が走った。

 それ以上に──色々な事を源に、怒りが沸々と湧いてきた。

「色々と、きっちり落とし前はつけなきゃいけませんね。最初の仕掛けは、しっかり頼みますよ、コウセイ……コウセイ?」

「え? あ、ああ……」

 コウセイの反応は、明らかに遅れていた。どうやら上の空だったらしい。

「ちょっと、余裕ぶるのは良いですけど、こんな時くらいしっかりしなさい」

「自信ナイナ~」

 などと、コウセイはわざとらしく怯えて見せるが、明らかに楽しんでそうな笑みを浮かべて制御球に触れる。

 途端に、スイキョウは急降下──龍目がけて、真上から突っ込んだ。

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