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5-4:煌人の生命力

 フィルに連れられて船の外に出ると、まず目についたのは膝をついたスイキョウと、膝先に横たえられている、見知らぬ二人の娘。

「え……」

 見知らぬ娘、ではない。よくよく確かめてみると、間違いなくプラウディアとユスティシャニアだった。

 半ば凍結して、髪の毛は燃え尽きたような真っ白に染まっているが。

「二人トモ、お疲れ……て」

 スイキョウの陰からやってきたコウセイは、サクラを目にするなりおかしそうに吹き出し、

「オマエ、ソンナ格好、ドウした?」

「どうしたって……貴方が寄越した服でしょうにっ!」

 今の自分の姿を思い出したサクラは、恨みがましくコウセイを睨む。

 上下一体型の服は全身黒で染められ、材質は布とは明らかに違うが、肌触りは悪くない。しかし、胴回りはもちろん、腕や足も、丈が長く幅も太いものだから、完全に余っている。

 仕方がないので、端々を捲ったり結んだりしているものの、お世辞にも〝格好いい〟には程遠い姿であった。

「こんな時ですから、別に贅沢は言いませんけどね。でも、せめてもっとこう」

「サクラ様……そのような言動を、俗に〝贅沢〟と称するのです」

「うっさいわっ! フィルこそ他人事だと思って……って、ちょっと? コウセイ、何やってるんですかっ?」

 フィルに噛みつこうとするサクラに、いつの間にかコウセイが寄って来て、服の詰められた部分を手早く解いていく。

 おかげで──袖や裾と言わず、全身二回りは膨れ上がった上にだらしなく垂れ下がり、何とも滑稽な姿になる。

「改めて見ると……漫才芸か怪談芸が、一席出来そうでございます」

「オバケみたいって言いたいんですかっ?」

「ソノママ、動くナ……×××××」

 フィルの感想にサクラは噛み中、コウセイは異星語で何かを呟く。

 すると、空気の抜けるような音がサクラの体から発せられ、垂れ下がっていた服が見る間に縮んでいく──サクラの全身を、ギチギチに締め付けるくらいに。

 その結果、

「え、ちょっ? 何これっ? ホントに何ですかこれぇっ?」

 体の線が丸裸同然に浮き上がってしまったものだから、サクラは体を抱えて屈んだ。

「コレがこの服ノ、本当の形ダ」

「な~にが〝本当の形〟ですかっコウセイ貴方私のカラダ見たさでこんなモノを渡したんでしょうそうなんでしょういやらしいっ!」

『補足します』

 割り込んだマオシスの声が、サクラの喚きを遮った。

『サクラが現在着用しているのは、スイキョウとの思考神経接続を行う仲介機器であり、機外での活動を想定した通信機能、更に耐熱、耐刃、耐弾、恒温等の着用者の強化、保全維持機能を有し』

「つまり、トテモ便利で頑丈ダってコトだ」

「なるほど。こちらの方が、余程贅沢品ということでございますね」

 コウセイが淡々とマオシスの説明を要約する一方で、フィルが無表情のままもっともらしく頷いた。

「サクラ様。そういうわけですので、もう観念なさいませ。そもそも、丸裸を晒すよりはよほど良いでしょうに」

「うぅ~」

 サクラはぎこちなく立ち上がり、自分の姿を改めて確かめる。

「丸裸より恥ずかしいですよ、これじゃ」

「よくお似合いです、サクラ様」

「それはどうもちくしょうっ!」

 サクラは涙目で、半ばやけくそで吐き捨てた。


*****


「……それで?」

 サクラは、足元の二人──横たえられたプラウディアとユスティシャニアを、改めて確かめる。

「どうしてこの二人を? ていうか、あんな状況でよく連れて来れましたね?」

 二人の総重量は五百ルギスには届くだろうし、あの龍がいる中で拾ってくるなど至難の業だ。

「スイキョウが来たカラ、簡単ダッタ……それに、二人トモまだ生きテル(・・・・・・)

「生きてるって……」

 サクラは、二人をもう一度確かめる。

 凍傷か火傷か全身爛れているだけ(・・)のプラウディアはともかく、ユスティシャニアは両腕も首も完全に切り離されている。ちなみに、切り離された部位は、ご丁寧にも繋がれていたはずの場所の傍に置かれていた。

『補足いたします』

 通信画面がサクラの目の前に投影され、マオシスの声が響く。

『紫月煌人──ユスティシャニア氏の生命反応は、極めて微弱ながら健在。細胞単位での生命維持が行われています。適切な処置を施せば、蘇生できる可能性は高いと判断します』

「煌人の肉体は限りなく不死身に近い……思わぬ形で証明されたようでございます」

 フィルが無表情で感心する横で、サクラは渋い顔を浮かべ、

「つまり、ティーシャ……いえ、ユスティシャニア殿下を治せるってことですか?」

『断言はできません。あくまでも可能性が高いというだけです』

「モチロン、このまま放っておケバ死ぬ。蒼いノも、今なら簡単にトドメを刺セル」

 つまりは、〝生かす〟か〝殺す〟か──〝感情〟を取るか〝理性〟を取るか、であった。

「……サクラ様。お気持ちはお察ししますが」

「分かってます……ええ、分かってますから」

 いつも以上に無感情に言うフィルを、サクラも無表情に遮った。

 二人を許すつもりなど微塵も無いが、それだけで突き動かされるほどの、強い感情でもない。

 冷静になった今は、どうしても〝今後〟を考えてしまう。ならばどうするべきかも、自然と思いつく。

 それが正しい──大人(・・)の判断だと。

「……でも」

 かと言って──〝正しい大人の判断〟で感情を蔑ろにできるほど、サクラは大人ではない。

 何より、

「私達はともかく、ラヴィは」

「ラヴィを言い訳にスルノカ?」

 鼻で笑いながら、コウセイは吐き捨てた。

昔のお友達(・・・・・)を殺スノも、本当の妹(・・・・)を殺すノモ、ラヴィのため」

 冗談めかして、しかしコウセイの声は乾ききっていた。

「いや……ラヴィのせい(・・)、ダナ。これジャ、ラヴィの方がよっぽどシッカリしてル」

「……っ!」

 コウセイの視線を追えば、船から降りてきたラヴィーネの姿が見えた。

「サクラ……そいつら、治して」

 こちらまでやってきたラヴィーネは、まだ疲れが取れない顔で、しかしはっきりとした意思のある目で言った。

 疲労困憊のままサクラと仕合った時のように。

「ラヴィ、分かってるよ……そいつらが死んじゃったら、すごく大変なことになるって。それに」

 ラヴィーネの二人に向ける目は、今まで見た事が無い程に冷たい。

「こんな奴ら、ラヴィにとってはどうでもいい(・・・・・・)よ」

「そう、ですね……」

 さっきまで何やかや迷ってた自分が、小さく思える。確かに、ラヴィの方がしっかりしているようだ。

「……マオシス。〝適切な処置〟というのは、私たちにも出来ますか?」

『あくまで応急処置程度であれば、可能です』

「分かりました」

 マオシスの答えに、サクラはすぐに肚を決めた。

「なら、この人達に絶対に生きて帰ってもらいます。そういう立場(・・・・・・)にありますから」

『了解しました。施術手順を表示、仔細については音声で伝達します』


*****


 千切れた首と両腕を元の位置にくっつけて翠月精の治癒を二人がかりで施す──〝施術〟と呼ぶにはお粗末なやり方だったが、ユスティシャニアの頭と腕の接着部分の傷は、少しずつだが、塞がっていった。

 つまり、ユスティシャニアはまだ生きて、治る見込みがあるということだ。フィルの言う通り、〝限りなく不死身に近い強靭〟という伝説が、奇しくも証明されたらしい。

『生体活動が安定域に入りました。意識が戻るまで、このまま安静を維持してください』

「とりあえず一安心ってことですね。プラウディア殿下の方は……見るまでも無いですね」

 プラウディアの全身の爛れは、翠月精の助けを借りた煌人の回復力ですぐに治った。しばらくすれば、意識も回復するだろう。

「……それにしても」

 サクラは、二人の髪に目を向ける。

「この真っ白けは、どういうことです?」

 煌人の象徴とも言える、紫と蒼──だったはずの髪が、今は真っ白に染まっていた。それと見なければ、プラウディアとユスティシャニアだと認識できないだろう。

『広義的には、〝燃料切れ〟に相当する現象になります』

「燃料切れ……燃え尽きたってことですか?」

『肯定。したがって、時間経過と共に元の色に戻ると考えられます』

「……命に関わるモノじゃないなら、とりあえずは良いです」

 もちろん気になることはあるが、今は後──どうにかしなければならない大問題が、まだ残っている。

「外にいる龍を、何とかしないといけませんからね」

 龍──その言葉に、全員の緊張感が高まる。

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