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5-2:勇敢と蛮勇は似て非なるモノ

 サクラは枝や幹を蹴って木々の間を飛び抜けながら、蒼月精術を月路に巡らせて術を構築。フィルとラヴィーネから充分離れたことを確かめると、稲妻を次々に放つ。

 枝葉の間を飛び抜けた稲妻の群れは二つに分かれ、頭上を席巻する巨体の左右の前肢にそれぞれ命中──頑強な鱗にあっさりと弾かれた。

「分かってましたけど、ご挨拶にもなってませんね……でも、そういう態度は」

 生成した稲妻をさらに集め、やがて一つの大きな光を作り出し、

「高くつきますよ!」

 撃ち出された光の塊は、龍の目元に命中した。

「──っ」

 場所のおかげで、目に対する丁度良い刺激になったらしい。短い呻きと共に煩わしそうに頭を振ってみせると、龍はこちらに目を向けてきた。

「っ!」

 背筋どころか、全身を駆け巡った怖気に、サクラの気は遠くなりかけ、足は止まった。

 動く災害とも畏怖され、あるいは、愚者を裁く断罪者とも崇拝され、この星の生ける物の頂点に君臨する絶対者──伝え聞いた与太話が、すべて真実だったと、本能が告げていた。

 邪魔されたことの苛立ちと怒り──それらが乗せられた龍の眼光に、それだけでサクラの意識は遠のきかける。

「……ええ、そうです……絶対者に噛み付く不届き物は、ここにいますよ!」

 サクラは、怒鳴りつけて意識を強引に引き戻すと、無理やりだと自分でもわかる笑みを浮かべながら再び駆け出す。

 それを龍は──旋回してすぐにサクラの頭上に追いつくと、巨翼を大きくはためかせた。

 発生した突風──否、衝撃波は土砂を派手に巻き上げ、周囲の木々を根元から軽々と吹き飛ばす。

「~~~~~~っ!」

 飛来する無数の破片を、サクラは分割した左右の剣をやみくもに振り回して払いのけながら、その場から飛び退く──直後、羽ばたきの勢いで跳ね上がった龍が、その場に落ちてきた。

 龍の超重量による急降下による衝撃によって、散らばった木々や土が再び宙に大きく跳ね上がる。

 それらを──比較的大きな破片を足場に、サクラは龍の頭上へと駆け上がり、

「今度は」

 生成していた電磁場で自身を打ち出し、龍の眉間目がけて双刃剣を突き立て、

「さっきよりも」

 しかし強固な鱗の前に貫くには至らず、隙間に引っかかった──おかげで、即席の手懸かりになった。

「強烈ですよっ!」

 炉心駆動を臨界突破──月煌化の蒼の光が弾けた。


*****


 目前での強烈な閃光に、龍は悲鳴を上げながらサクラを振り落とそうと首を振りたくる。その動きを見計らい、勢いに乗る形で剣を抜いて龍の頭を蹴る。

 月煌化で大幅に強化された膂力も加わり、サクラの体は、蒼の光跡を引きながら数百ヌーラの高さまで跳ね上がり、巨龍を眼下に捉えたところで、蒼月精術を展開。

 電磁場を纏って落下速度を抑えつつ、周囲の──否、周辺一帯の磁場や電離体を蒼月精を通じて全て掌握し、稲妻の塊を生成。

 その数は、瞬く間に十に、百に、千に上り、しかしまだまだ増えていき、さながら巨大な檻と化して、目を眩ませてのたうつ龍を囲う。

「……っ!」

 全身が焼け付くような熱に浮かされながら、サクラは術を止めず、少しでも、一つでも数を増やす。

 やがて──目が復帰したのか、龍の体が落ち着いたような動きを見せた。月煌化の光で目を眩ませてから、時間にして十秒足らず。

「……自信無くなりますよ全くもう」

 冗談半分、半分は本当に気落ちするようにぼやき、

「その借りも、きっちり返してもらいますからっ!」

 生成した大群の稲妻を斉射──光の檻は、無数の光の矢となり、雨となって龍に降り注いだ。

 高熱の塊が一ヵ所に殺到したことで飽和、大爆発が起こる。その衝撃で、サクラは弾き飛ばされた。木の枝をへし折りながらも、そのおかげで落下の勢いは押さえられ、

「がっ!」

 サクラは背中を打ち据える程度で済んだ。その衝撃に加え、今更のように襲い掛かってきた全身を焼き尽くすような熱に意識が飛びかけるが、どうにか堪えて双刃剣を杖に立ち上がり、

「……っ、冗談じゃ、ないですよ」

 突風で吹き飛ばされた煙の向こうから現れた巨体に、思わず舌打ちした。

「こっちは、全開でやったんですよ……」

 翼を広げて屹立する龍の体に、傷らしい傷は無い。無数の光の驟雨は、優美で美しい白燐を煤や土で汚しただけだった。

「~~~~~~」

 唸り声を響かせる龍の体が、不意に光を帯びる──否、全身を巡る幾何学的な蒼い光跡は、サクラもよく知る月路と蒼月精。

 つまり、

「月精術っ?」

 瞠目と共に、サクラは反射的にその場から駆け出し、

「っ?」

 つまずいた。

 足が──いや、全身が凍り付いたように、白い霜に覆われていた。焼け付くような熱さは、いつの間にか突き刺さるような冷たさに変わっていた。

 サクラだけではない。

 山も、森も──この一帯が、凍てついていた。

 蒼月精の輝きを放つ、龍を中心に。

 なのに龍は──触れてもいないのにじりじりと肌を焼きそうな灼熱に包まれ、優美な純白は、燃えるような紅蓮に変わっていた。

「……っ」

 今すぐ逃げろと本能が叫ぶが、全身凍り付いた今の状態では、逃げることも避ける事すらままならない。

 出来るのは、全力での防御──サクラは両手の剣を交差させ、更に全開の蒼月精術で分厚い障壁を展開。

 直後、

「────────────────────────────────────っ!」

 地の果てまで震え上がらせんばかりの咆哮と共に、目も眩む閃光がサクラの視界を覆った。

 それは、あらゆるものを灼き尽くす劫火の奔流。

 月路も炉心も全開にして、必死に障壁を維持するサクラを、嘲笑いながら。

 薄紙のように貫き、引き裂き、砕いていく。

「こん、のぉおおおおおおおっ!」

 サクラは、蒼月精で壊れる壁の補填をしつつ、壁の形と角度を調整──防ぐのではなく、上へと受け流すよう、滑らかな半球の形に。

「私は……ワタシはぁっ!」

 圧倒的な熱で瞬く間に削られながら、それでも障壁の方が僅かに勝った。

 光が収まり、龍の姿をはっきりと捉えたサクラは、障壁を解いて駆け出す。

「ワタシハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」

 人どころか、獣のような雄叫び──否、奇声を上げて。

『イイカゲンにシロ』

 何やら喚く声が聞こえると、目の前の龍が視界から突然消えた──その認識と、頭に受けた衝撃は同時だった。

『この××××』

 コウセイの異星語を最後に、サクラの意識は闇に覆われた。

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