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1-3:太古の記憶とビカビカでグラグラでドカーン

 山に入ってしばらく進むと、見慣れた様相は一転──地面は一体諸共ひっくり返したかのように荒れ果て、木々は土に呑まれるかなぎ倒されている。地震に加え、土砂崩れも起こったのだろう。

 頻繁に足を踏み入れていた山は、すっかり見知らぬ場所になっていた。しかも、地面はすっかり荒れているから、歩きにくいことこの上ない。

「だっていつもは何ともなかったんだよ~」

 そんな荒れた地面など気にもせず、お喋りまでしながら身軽に進んでいく。生まれついての山育ちは、ダテではないらしい。

「だから今日もそうだって思ってたら、スゴくビカビカ~ってなってとてもグラグラ~ってなってさ」

「デッカイ人がドカ~ン、ですか……」

 ため息交じりに被せるサクラの顔は、疑念一色に染まっている。

 そんなサクラの分かりやすい反応に、ラヴィーネは涙目で頬を膨らませ、

「ほ、ホントなんだってばっ! 何だよ~サクラまで疑うの?」

「う~ん……いえ、さすがに、ちょっと、ねえ~」

 どうにか言葉を濁したものの、事実、全くもって信じていない。ラヴィーネの語彙の貧しい擬音だらけの話をそのまま解読するなら、

強烈な光(ビカビカ)強烈な揺れ(グラグラ)、終いには巨人(デッカイ人)現れた(ドカーン)

 ということになる。

 仮にも姉貴分としては可愛い妹分の訴えを疑いたくはないが、何せ先日十代にようやく手をかけたばかりの小さな娘の言う事である。嘘や誤魔化しでないにせよ、大げさに言っている可能性は、否定できない──というか、〝何かの見間違い〟というのが、正直な感想であった。

「……とはいえ」

 サクラは、向かう先に鎮座するそれを見上げる。

「〝デッカイ人〟はともかく、放っておけるような問題じゃないから、来たんですけどね」

 まだそれなりに距離があるのに、ここからでは目一杯仰いでみても、頭頂部を見ることのできない圧倒的な巨体に、サクラは嘆息した。

大栄紀(グラジェニス)時代の遺跡、ですか。今じゃ想像もできないような高度な文明とは聞いてましたけど……」

 地表に現れた分だけでも、五百ヌーラは下らなさそうな巨大な姿を今は晒しているが、つい昨日までは周りの木々にも隠れるほど埋もれていた状態だった。

 それが突然動き出し、地表に出てきた──言葉にすればそれだけだが、これほどの巨体である。しかも、ラヴィーネの話も含めると、今見えている部分もごく一部だろう。

 そんな巨大なモノがいきなり動き出したのだから、局所的な地震が発生しても不思議ではない。

 などと考えていると、

「あだぁっ!?」

 ラヴィーネが、突き出た石に躓いて派手に転んだ。

「いって~あ~ちくしょ~」

 そしてぶつくさとぼやきながらも、すぐに立ち上がった──膝にしっかりと擦り傷をこさえて。

 元気が有り余っていつも駆け回っているラヴィだから、この程度はいつもの事である。とはいえ、今はストリフから『傷一つ付けるな』と釘を刺されている身である。

「仕方ないですね……今回は特別ですよ」

 サクラはラヴィに駆け寄ると、膝に出来た傷に手を添える──月路に翠の光が走らせて。

 翠月精が司るのは肉体と生命──サクラの意志を受けた翠の光は、ラヴィの代謝を治癒を強化する。膝に出来た真新しい傷は、瞬く間に塞がっていき、やがて完全に消えた。

「いいな~、月精術って」

 ラヴィーネは、目を輝かせた。

 生粋の地民(オルデナ)であるラヴィーネには月路が無いため術が使えず、またふもとの村に住む者も、サクラの他はもう一人を除いて皆が地民である。

 術を使うこと自体が滅多に無いから、好奇心旺盛な幼い少女が目を輝かせるのも無理はないだろう。

「ね~ね~、もう一回」

「また今度です。ほら、行きますよ」

「ちぇ~」

 ラヴィーネは口を尖らせながら立ち上がると、また軽い足取りで荒れた坂道を登り始めた。


*****


 遺跡の足元までやって来たサクラ達を出迎えたのは、その巨体に見合う巨大な入口と、その奥へ伸びる巨大な通路だった。

 つい昨日までは、地中深くに埋まっていたせいで、身を屈めないと通れないような、小さなほら穴でしかなかったのに。

「この大きな道は、ずっと先で行き止まりになってる」

 言いながら、ラヴィーネは横の壁に設けられている小さな開けた。

「だから、こっちから入るんだよ」

 そこからは、それまでの巨大な通路とは打って変わり、狭くは無いが入り組んだ複雑な通路が続いていた。途中で、壁や床に印をつけておくが、そうでもしないと位置はおろか、方向も見失いそうになる。

「こんな迷路、よく分かりますね」

「だっていつも来てるんだよ~」

 サクラの感心に、ラヴィーネは歩きながら胸を張って見せた。ここを遊び場にしているラヴィーネとっては我が家も同然のようで、迷うことなく進んでいく。

「ここだよっ」

 やがてやってきたのは、横長の部屋だった。見慣れぬ機器類がいくつも立ち並び、低い駆動音と光を放っていた──つまり、動いていた。千年という長い時を感じさせないほど、しっかりと。

 思えば、ここに来るまでの通路にしても、傷みも劣化も見受けらない。床や壁、天井には継ぎ目すらも無い。しかも、光源となる灯りすら見あたらないのに、視界が確保できる程度に明るい。一体、如何なる建築技法か、あるいは材質か、サクラには想像もつかない。

「星々を渡り、あらゆるものを生み出し、死すら超越した、ですか……」

 かつて学んだ歴史を、感心と呆れ、そして畏怖を込めて暗唱する。

 つい先ほどまで欠片も信じていなかった〝デッカイ人〟が、急に真実味を帯び始めていた。

「サクラ。ほら、アレだよ〝デッカイ人〟っ!」

 ラヴィーネが興奮気味に指さしたのは、部屋の奥にある壁一面の窓の向こう側。

 そこに広がるのは、とても広大な──千人の巨人が、一斉に飛んで跳ねて駆け回るには充分すぎるほどの、巨大な空間。

 そのおかげで、中央に横倒しになっているそれ(・・)は、周囲の広大さと相まって普通の大きさと錯覚しかけた──錯覚しかけるが、紛れも無かった。

「ほら、ラヴィの言った通りじゃんか~!」

「本当にいましたね……あそこにはどうやって?」

「え~っと……こっちこっち」

 と、ラヴィーネは窓の一枚に触れる。すると、窓は素早くせり上がり、向こうへすぐ出られるようになった。

「……よく知ってますね?」

「だっていつも来てるんだよ~」

 と、自慢げに胸を張るラヴィーネ。恐らく、こんな調子でこの部屋をあれこれ弄った結果、ビカビカでグラグラでドカーンだったのだろう。

 とまれ、その追及は後回し──サクラはラヴィーネに続いて広場に出て、空間の中央に横倒しになっている、それに駆け寄る。

 それは紛れも無い──〝巨人〟だった。

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