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2-7:今後の方針/弟子入り

『×××××、×××××』

「×××。×××××」

 サクラ達を遺跡の入口まで運んだスイキョウは、コウセイの指示を受けたマオシスの操縦で、そのまま夕空の向こうに飛び去って行った。

「そういえば、さっきも飛び回ってたみたいですけど、何をやってるんです?」

「コレヲ、ミル。マオシス、×××××」

『×××××。現在のフォルセア大陸の映像を表示します』

 通信を介して指示を受けたマオシスは、皆の前に大きな画面を投影した。

「これって、フォルセア大陸の地図……ですか?」

 形としては、フォルセアの大陸図である。陸の部分には緑やら茶色やら灰色が混じり、周囲の海は青く彩るなど、非常に凝った描かれ方である。奇妙なのは、その図面の上から白い色が撒き散らされていることだ。とてもゆっくりだが絶えず動き回って形を変えているため、大陸図が完全に隠れるということはないのだが。

『惑星外より、現在のフォルセア大陸の映像を表示しています』

「惑星外って、ていうか現在のって……」

 コウセイに代わってマオシスが説明すると、サクラは、目を丸くして映像を何度も確かめる。

『この星の周囲に複数の小型支援衛星を設置しました。ご覧いただいている映像は、フォルセア大陸直上に配置したからのものになります。また、これの画像を組み合わせたものが、こちらになります』

 大陸図の画面が縮小され、代わりに表示されたのは、大きな球体。緩やかに回転するそれは、郷星の球儀だった。フォルセアを含む四つの大陸と絶えず動く雲が、精密に描かれている。

 否──マオシスの話を真に受けるなら、それは〝描かれている〟のではない。

「コウイウノ、モ、デキル」

 コウセイが擬似投影された操作盤に指を走らせると、球儀図がフォルセアの南東部に拡大される。

 北側の切り立った山岳地帯、南側の円状に切り取られたような断崖絶壁の海岸線。その中にあって、僅かに見える砂浜と、小さなサルベル村。目まぐるしく動き点は、村人だろうか。

 それが僅かに北側にずれると、遺跡が画面に入る。そこから更に拡大され、見覚えのある頭が、合わせて四つ──遺跡の前に立つ、サクラ達だった。

 試しに手を振ったり見上げたりすれば、しっかりとその動きも映されている。

 紛れも無く、たった今の自分たちの姿──今、郷星の外から見ている(・・・・)映像だった。

 郷星の外に出られる──それはつまり、

「じゃあ、スイキョウに乗っていれば、月まで行けるってこと?」

『スイキョウの速度では、最長でも一時間以内に到達可能です』

 ラヴィーネの問いに対するマオシスの明確な答えは、サクラとフィルに緊張が走らせた。

 天上を統べ、地を睥睨する四大月──郷星の守護神であり、煌人の父祖誕生の地であり、死した煌人が回帰する、何人も侵してはならない絶対の聖域。

 煌人としては鼻摘み者のサクラだが、月への畏敬は心の奥底に根付いている。〝(聖域)を侵す〟どころか、〝近づく(・・・)〟という考えすら躊躇われる程に。

 その聖域へ、コウセイ達は容易に(・・・)踏み込める。

 〝踏み込む〟という考えに、何の抵抗(・・・・)も無い。

 異星人だの戦技だの文明だの──それ以前に、精神性や思想からして根本的に異質であり異端だ。

「凄~いっ! ねえ、じゃあ今度連れってよっ!」

「ラヴィ様」

 無邪気にせがむラヴィーネの肩を掴みながら、フィルはサクラに目配せする。彼女も、同じ事を考えているようだ。

「コウセイ、マオシス」

 サクラは毅然と、そして冷徹に告げた。

「村から出て行きなさい」


*****


「……え」

 ラヴィーネが呆気にとられるが、サクラは更に続ける。

「今すぐに、とは言いません。でも、出来るだけ早く」

「ワカッテ、イル」

 当のコウセイは、さも当然のように頷いた。

「ワタシ、デテイク。イセキ、ナオシテ。イツカ……マオシス、×××××」

 続けようとして、しかし急に言いよどむと、コウセイは舌打ちしながらマオシスに話を預けた。

『我々の存在は、この星においては極めて異質な存在であることを理解しています。したがって、可能な限り速やかに退去する事が最善であると判断します』

 辺境の小さな村と言っても、余所者の出入りが無いわけではない。年に数回とはいえ交易船は立ち寄るし、遺跡目当てでやってくるモノ好きも、数年に一度くらいはやってくる。コウセイや、ましてやスイキョウのような埒外の代物を、いつまでも隠し通せるはずはない。

 明るみになれば、サルベルは確実に狙われる。

 そして──確実に潰される。

「立場や状況は、ちゃんと分かってるみたいですね。それで、実際に出ていくのはいつ頃に? 〝異層次元跳躍門〟でしたっけ? あれを動かせるまで、どれくらいかかるんですか?」

『約一ヶ月を目途に計画を立てています。今後の作業や状況によっては、多少前後は充分あり得ますが』

「一ヶ月……」

 サクラは、その数字を繰り返しながら、横目で遺跡──あらゆる意味で巨大すぎる建物に目を向ける。

「こんな大きなモノを直すのに、一ヶ月そこらは早すぎませんか?」

『重要部分の状態が極めて良好であったため、必要部分のみに限定集中して作業を行えば、達成可能です。なお、作業効率化の一環として、コウセイは原則遺跡内に常駐します』

「それって……つまり、私達の家から遺跡に引っ越すってことですか?」

『肯定。なお、主な生活拠点としては、先ほどの船の居住区画を整備、再利用しています。なお、居住環境は村より格段に良好なので、心配は無用です」

「サクラ、フィル。ヘヤ、アリガトウ。ワタシ、キョウカラ、イセキに、スム」

 と、コウセイは拙く礼を言いながら、深々と頭を下げた。

「どういたしまして……何か引っかかりますけど」

 ちなみに──サクラの家は、いまだにあちこちから隙間風が吹いている。月精術も使って補修しているのだが、直した瞬間何故か別の場所が壊れるものだから、キリが無い。

「遺跡と貴方の住処は良いとして……ラヴィの方はどうするんです? たった一ヶ月で、しかも遺跡を直すのと片手間じゃ、大した指導なんて出来ないでしょうに」

「そ、そうだよっ! ラヴィ、まだ何も教えてもらってないのに~」

「……ラヴィ」

 むくれるラヴィーネに、コウセイは向き直り、

「マオシス、×××××……ラヴィ、××××××××××、×××××」

『通訳します』

 淡々としたコウセイの異星語を、すかさずマオシスが通訳を始めた。

『一ヶ月しかないから、みっちりガッツリ鍛錬する。特に、最初の十日くらいは、虐め同然になる』

 コウセイは、ラヴィーネの正面に立つと身を屈め、

『それでも、やるのか?』

 ラヴィーネの肩に手を置いて、淡々と──だからこそ、重たい事実を告げながら、ラヴィーネに問いかけた。

「うんっ! ラヴィやるよっ!」

 ラヴィーネは、コウセイから目を逸らさず、即答した。その無邪気な目に、コウセイは諦めたようにラヴィーネの肩から手を放し、

「……ラヴィ、アシタノアサ、イセキ二、クル」

 短く告げて、遺跡の中へ戻っていった。

「うっしゃあっ! ラヴィ頑張るよっ!」

 気合の入った雄叫びを上げるラヴィーネ。

 それまで黙ってみていたサクラとフィルは、

「……本当に大丈夫なんでしょうか?」

「……差し当たり、ストリフ殿への弁明を考えておいた方がよろしいかと」

 これからの面倒に対して、ボソボソと話し合うのだった。

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