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2-4:この星にあらざる者達

『我々は、この星の原住民ではありません』

 マオシスの答えに、冗談めかして言ったサクラの笑みが、そのまま凍り付いた。そんなサクラに、マオシスは更に付け加える。

『尚、私は操縦者の支援という第一原則に基き行動しています。嘘や冗談を発言する機能は有しておりません』

 サクラは、ここまでの話を頭の中でまとめる。

 明らかに異なる彼らの言語や概念、スイキョウを始めとする埒外の文明──〝高度〟どころか、もはや〝埒外〟と言うべきか。

 巨大人形、水のように形を変える装甲、根本的に異なる言語、そして〝意思を持つ機械(マオシス)〟──どれ一つ取っても、サクラたちの常識を大きく超えたところにある。これらを目の当たりにした今となっては、嘘や冗談と疑う方が無理だろう。

「すご~い! じゃあ、コウセイ達って異星人ってことっ? ねえ、コウセイ達の住んでるところってスイキョウみたいな大きな人形がたくさんむぐっ?」

「ラヴィ様。申し訳ありませんが、その話は後ほどゆっくり致しますよう」

 大はしゃぎで質問攻めにしようとするラヴィーネの口を、フィルがすかさず押さえた。ラヴィーネが不満そうに眉根を寄せるが、サクラは気にせず話を進める。

「……異星人てのが本当だとして、どうしてこの星に?」

『我々は偶発、突発によってこの星へ転移しました。我々に、来訪の目的は存在しません』

「あくまでも事故だった、と?」

『肯定します。よって、故郷への帰還が、現状における我々の第一目的となっております』

「偶発、事故……」

「サクラ様、それは」

 フィルも同じ考えに至ったらしい。

 そもそも、思い当たる節など、一つしか無いだろう。

「? どうかしたの?」

 ラヴィーネだけは、よく分からないらしく、首を傾げている。

「ラヴィ、あのですね……いえ、その話は後にしましょう」

 言いかけたサクラは、しかしすぐに話を元に戻した。

「それで、どう思います?」

「ふむ……」

 話を振られたフィルは、しばし考えてから頷き、

「故郷に帰る、そのために遺跡を直してる……要は、そういうことでございましょう、マオシス殿?」

『肯定します』

「……まあ筋は通るかと思われます。しかしながらこれは、もはや我々の手には負えないかと。そもそもの話の規模が余りにも壮大過ぎます」

「でしょうね……」

『……間もなく合流地点に到達します』

 どうしたものかと迷っていると、スイキョウが主回廊を抜けて、奇妙な形の建物が立ち並ぶ区画に出た。

 否──それらは〝建物〟というより、

「船舶格納庫って言ってましたけど、これが船なんですか?」

 多少の違いはあるが、楕円や半円球が基本形で、遠目には平べったい。サクラの知る〝船〟とは、およそかけ離れた形をしている。

『現時点での調査では、人員や物資の輸送を主目的とした小型船と推測されます』

「……小型?」

 ざっと見てみるが、小さいモノでも七十ヌーラは下らず、中には百ヌーラを超えそうな代物まである。

「いえ……今更驚きはしませんけどね」

 何しろ、こっちは異星人の超文明に現在進行形で触れているのだから。

『到着しました。停止時の振動、および降下中の不安定姿勢に注意してください』

 スイキョウが静かに着地したのは、七十ヌーラ超の船の甲板。この中では中程度の大きさだろう。

「ミンナ、マッテタ。トテモ、マッテタ」

 船内に出入りする扉が開き、拙い言葉がでコウセイが出迎えた。そして、何やら真顔を浮かべ、

「オネガイ、ミンナ、フクヲ、ヌグ。ハダカ、ミタイ」

「……はい?」

 聞き違いかと思ったのは、どうやらサクラだけではなかったらしい。

 フィルもラヴィーネも、互いの顔を見合わせ、コウセイに視線を集める。

 コウセイは、真顔のまま更に続けた。

「アナタタチ、カラダ、ミタイ、ホシイ」

 真顔で、拙い言葉で分かり易いことを言ってくるものだから、サクラは、フィルやラヴィーネ共々、コウセイから大きく距離を取る。

「……マオシス、××××××」

 実に分かり易いサクラ達の反応に、コウセイは何とも言えない顔でマオシスに話を任せた。

『コウセイの提案内容を補足します。皆さんの身体構造、生体機能の情報収集にご協力ください。衣類の排除は、より高精度な情報の収集が目的でございます。尚、実作業は完全密閉空間で行います。外側からは観覧不可であることを、厳に確約いたします』

「ああ、そういうことですか……」

 つまり、不埒な目的ではないらしい。サクラは胸をなでおろした。

 とはいえ、

「タダでくれてやるほど、私達の〝身体〟は安くないですよ。見返りは、ちゃんと出してもらいますからね」

「ワカッタ」


*****


「……完全密閉と言うからどこでやるかと思ってましたけど」

 丸裸──の一歩手前の下着一枚になったサクラは、周囲を確かめ、

「まさか、スイキョウの頭の中とは……」

 球状の空間で、座席は前後に並ぶ形で二つ。内壁はそれ自体が外の景色を映し出しており、上下左右全周囲を一望できるようになっていた。

『当機は有人乗用物──操縦者による制御を前提にした設計となっております』

「人形というより、人型の乗り物ってことですね。でも、これだけで本当に動かせるんですか?」

 操作のための機器らしい機器と言えば、席の両脇に設置されている操縦桿──と思われる取っ手くらい。いくらなんでも少なすぎる。

 そのおかげで、二つしか無い座席は、大人が四人くらいは入っても、まだ余裕がありそうなほど広いから、乗り心地は良さそうだが。

『当機は、擬似的に操縦者の神経に接続する機構が組み込まれています。設置された操作機器は、あくまで補助であり、主な制御は操縦者の思考伝達によって行われます』

「思考伝達……頭で考えるだけで動かせるわけですか?」

 サクラは、マオシスの説明を頭の中でまとめながら訊ねる。

『概ね肯定します』

「考えるだけで良いってことは、ラヴィでも簡単に動かせるってこと?」

 小さい体を駆使して決して広くない操縦席を動き回っていたラヴィが、更に楽観的な方向にまとめて目を輝かせた──無邪気に下着まで脱ぎ捨て、まっさらの丸裸で。

『充分な実技訓練、及び関連する知識の修得が、第一条件となります』

「つまり、難しいお勉強をた~っくさんしないと、動かせないってことです」

「うぇ~」

 サクラが分かり易く言ってやると、ラヴィーネは嫌そうに呻いた。何しろ、簡単な読み書きや算術の勉強すら面倒くさがる娘である。

「あれ? てことは……がんばって勉強すれば、ラヴィも動かして良いの?」

 そのくせ、妙なところでは物わかりの良いラヴィーネだった。

『否定。当機の操縦者は、原則コウセイに限定されています。ラヴィーネ・クラーゼが当機を操縦する可能性は、限りなくゼロです』

「……〝原則〟と仰いましたが」

 サクラの後ろの席に座って黙って聞いていたフィルが、ふと訊ねた──ちなみに、こちらはサクラ同様下着一枚である。

「ならば、その原則から外れる場合……コウセイ殿以外が操縦できるような例外的な状況もある、ということですか?」

『肯定します』

「それは、どのような?」

『機密事項により、その質問には回答不能です』

「……どうやら、保安防犯は徹底しているようでございます。ラヴィ様、残念とは思いますが、ここは引き下がるべきかと」

「ちぇ~」

 口を尖らせるラヴィ。サクラも、少しがっかりした。正直、スイキョウを動かせるかもと、多少なりとも期待していたのだが。

「……時に、サクラ様。先日も申し上げましたが」

「うひゃぁっ?」

 後席から身を乗り出したフィルが、いきなりサクラの脇腹を摘まんできたものだから、サクラは小さく悲鳴を上げた。しかしフィルは気にせず、今度は二の腕のあたりを摘まみ、

「やはり少々不摂生気味では?」

「え」

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