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1-1:長閑な村の大事件

本日より連載を開始します

完結まで可能な限り間を開けないよう頑張ります!

 その日の正午前──大地が震撼した。

 例えでも冗談でもなく、激しい地震がサルベルという小さな漁村を襲った。

 この地域──フォルセア大陸南東部においては、地震の発生は数年に一度に起こるか否かで、起こっても気にしなければ何でもない微震くらい。

 立っていられないような激震の経験者などいるはずもなく、村はたちまち大騒ぎ。幸い、揺れはすぐに収まり、大きな被害こそなかったものの、村は外も中も荒れ放題の散らかり放題で、村人達は総出で片付けに奔走中である。

「全員出ました~? 全部出しました~?」

 頭と顔を頭巾で覆ったその娘──サクラ・ソーディスもその一人で、潰れかけた物置小屋を支える(・・・)ことに精を出していた。

「誰もいませんね~、お目当ての物は全部運び出しましたね~」

「あ~……うむ、大丈夫じゃ」

 村長が小屋の中を確かめて、頷いた。

「ご苦労サクラ。もう離れてええぞ~」

「あ、はい……って、本当に良いんですか? 今離れたら」

「元々あちこちガタが来とってな、そろそろ新しい物置小屋をこさえようと思っとったところじゃ。取り壊す手間が省けた、と思うことにするわい」

「分かりました」

 サクラは、もう一度全員が離れたのを確認してから、小屋から手を離して飛び退く。

 途端に、サクラの手によって支えられていた小屋はぐらりと傾き、大きな音を立てて崩れ落ち、完全に瓦礫の山と化した。

「お~すげ~!」

「さすがだぜ~!」

「まあざっとこんなもんですってね~」

 期待通りの光景に、村人達が作業の手を止めて喝采と拍手を送り、サクラはそれにまんざらでもない笑みを返して見せた。

「まだ終わりじゃないぞ~。お前達、お片づけじゃ~」

「「「うぃ~っすっ!」」」

 村長の一声で、腕自慢の男たちが小屋だった瓦礫に群がる。細かく解体して、使えそうなものは再利用するのだ。

「ご苦労じゃった。助かったぞ、サクラ。後で今朝の釣りたてを届けるからの」

「珍しく気前イイですね?」

「いや、お前さんにはもう一つやってもらうことになりそうじゃからの」

「もう一つ?」

「細かい話は、ブツを届けた時に聞かされるはずじゃ。お前さんは家に帰って休むがええわ。ではの」

 言いながら踵を返すと、村長も解体作業に加わった。


*****


「お疲れ様でした」

 自宅の前までやって来ると、サクラより頭一つ分背の高い女──フィル・ブラーダが、無表情な顔を浮かべて出迎え、

「それと、サクラ様のご活躍はここからでもよく見えました。さすがの馬鹿力ぶり、御見それいたします」

「馬鹿力は余計です」

 表情通りの今一つ感情のこもらない賞賛にむっつりと返すと、サクラは家に入ろうとするが、フィルは玄関口に立ったまま。

「これは失礼いたしました。失礼ついでで申し上げれば……お入りになる前に、せめて埃くらいは落としていただければと」

「……ですね」

 サクラは、家の中をのぞき込む。家を出るときは、足の踏み場も無いほど荒れ放題だったのだが、今は──さすがにすっかり元通りとはいかないものの、倒れた家具は元の位置に戻され、壊れた諸々が一か所にまとめられている。

 フィルの仕事の速さと正確さ、そして勤勉さを如実に語っていた。

 対してサクラはと言えば、

「せっかくきれいに掃除したばかりですからね」

 力仕事をしたおかげで、すっかり埃だらけ──そんな自分の有様に肩をすくめるながら、サクラは頭巾を解き、上着を脱いだ。

 抑えられていた髪がばさりと広がり、膝裏まで下りる。その色彩は澄んだ蒼で染められ、その瞳は同じく蒼。露わになった容貌は、幼さを残しつつも凛としている。

 そして、分厚い上着を脱いでこぼれ出したるは、二つの巨大な果実──細身ながらも引き締まった体躯もあって、それはもう自己主張が激しい。

「相変わらず細々した仕事が早いですね、貴方は」

 サクラは、フィルの仕事ぶりに賞賛を返しながら、乱れた髪に指を通して軽く整え、上着の埃を叩き落とす──そのたびに揺れ動く二つの巨果を、フィルは細めた目で冷たく見据え、

「……また大きくなられたのでは? 気のせいと思っておりましたが、最近だいぶ食べ過ぎではないかと」

「そ、そんなことは」

「そう言えば……作り置きのスープや干し肉の減りが、妙に早いものでして」

「そ、それこそ気のせいじゃ」

「サクラ様……ただでさえ運動不足が続いておられます故、日頃からの生活を」

「んのバッキャローがぁ!」

 村中に響き渡らんばかりの強烈な怒号が、フィルの説教を遮る。続いて聞こえてきたのは、村中に響き渡らんばかりの幼い鳴き声。

「……これはまた、ずいぶんと派手でございますね」

 話を遮られたためか、不機嫌そうに──他の者なら気づかない程僅かに眉を顰めながら、声の方に目を向ける。

「まあ、今度ばかりはストリフも親バカじゃいられないでしょうね……まったく、あのワンパク娘ときたらもう~」

「お言葉ですが……サクラ様が、他の方を〝ワンパク娘〟と批判されるのは、無理があるかと思われます。ええ、それはもう、多分に」

「そういうあなたは、最後の一言がいちいち余計なんですよっ!」

「申し訳ありません。このフィルめは、正直者故に」

「それこそどの口が」

「そのような些細な問題は後ほどにして、話を戻しましょう」

 サクラの文句を遮りながら、フィルは壊れた品々に示す。よく見れば、大半が調理器具や食器類だ。

「恐縮ですが、今一つお力添えを。このままでは、お食事が否が応でも貧しいままでございます故……まあ、節制していただくには良い機会で」

「さあとっとと直しますよ~っ!」

 サクラは慌てて家の中に駆け込み、壊れた食器の山に手を伸ばした。

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