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隠し事はやめてくれませんか?

「アンネローゼ様、そんなにご結婚が、殿下がお嫌ですか?」

「だからって窓から身を投げるなんて…!!」

「殿下には私たちからよく言い聞かせますから、どうかもう一度お考え直しくださいませ!!」

あの後、よく考えたらどちらへ逃げれば外へ出られるのかわからず庭を走り回っている最中に捕まってしまった私は今、仲良くなった3人の侍女、リリとエルとマイラに泣きつかれていた。

ドアを開けていたので外に控えていた彼女たちには途中から言い争うように声を大きくした私たちの会話が一部聞こえていたらしく、「騎士」「他の男と結婚」「諦めて」「そんなっ!!?」などの漏れ聞こえた単語から、私がマリシティの騎士に片想いしていたのに殿下が無理やり連れてきたという話が彼女たちの中で出来上ってしまっていて、そのせいで私が不本意な結婚から逃れるために身投げしたと思われているらしい。

何度も「違う、そうじゃない」とは言っているのだが、聞く耳を持ってもらえなかった。

そして殿下の方もなにやら騒がしく、聞き耳を立ててみると「あんなの聞いていない」「物凄く美しい猿とかじゃなくて令嬢ですよね?」「結婚を断られているのなら近衛騎士に推薦しては?」などと結構失礼な言葉が聞こえてくる。

……美しい猿って言ったお前、絶対許さないからな。

「アンネローゼ様、ちゃんと聞いていらっしゃいます!!?」

「この際殿下のことは殴り飛ばしても構いませんから!」

「でも結婚だけはやめないでぇ!!」

「あ、貴女たちねぇ…」

私が彼女たちから視線を外したせいか、腕を掴まれ腰に抱きつかれ顔を掴んで視線を固定され、私は3人の懇願を正面から浴びせられた。

確かに仲良くなれたとは思っていたが、一体いつの間にこんなに懐かれたというのか。

「アンネローゼ様は希望なんです!!」

「…希望?」

リリの言葉に私は首を傾げる。

実際には顔を固定されているので気持ちだけだが。

「アンネローゼ様がジェラルド殿下とご結婚くだされば、皆が幸せになれるんです!!」

「…皆が幸せ?」

今度はエルの言葉に目を瞬かせる。

「アンネローゼ様にこの国の存亡がかかっていると言っても過言ではありません!!」

「…存亡」

そして最後の私の頬を掴んでいるマイラの言葉に目を閉じる。

3人の言っていることは抽象的で具体性はないが、必死さだけは伝わった。

だが同時に気になることもある。

「ねえ、リリ」

「はい」

ゆっくりと目を開けた私はリリに問う。

「その希望は私も抱けるものかしら?」

「は…い?え?」

「エル、貴女の言う『皆』の中に私はいるかしら?」

「それ…は…、もち、ろん…」

次いでエルにも問い掛ける。

彼女は肯定しつつも目を背けた。

それを視界に収めながら正面にいるマイラにも問う。

「ねぇマイラ。どうして私程度の令嬢との結婚の成否が国の危機にまでなるのかしら」

「アンネローゼ様…」

私に問われた3人は先ほどまでの勢いはどこへやら、すっかり青くなって呆然としている。

その様子にため息を吐いて、何気なく殿下たちの方へ視線を向ければ、彼らも途中から聞いていたのか殿下以外は3人と似たような顔で私を見ていた。

「なにか?」

私が意図して私を「美しい猿」と評した騎士を睨みつけながら言葉を発すれば、騎士は肩をびくりと跳ね上げ「い、いえ…」と答える。

周りの騎士や衛兵も顔を引き攣らせていた。

「アンネローゼ、そう周りを威嚇するな」

「あら、威嚇などしておりませんわ。猿じゃあるまいし」

そんな状況を見て殿下は気まずげに頭を掻くが、そもそもの原因は殿下にある。

だから私が折れる必要などない。

不敬と言われようが何だろうが、例え後で死ぬほど後悔しようとも今は自分の意志をはっきりと伝えなければならない時だ。

「リリ、エル、マイラ、それから騎士の皆様。私は確かにこちらに嫁いできただけの小国の、それもたかが侯爵令嬢ですわ。ですが、私にも矜持というものがございます。明らかに何かを隠していると態度で示しておきながら何の説明もいただけないのでは疑心暗鬼にもなりましょう?」

私の言葉に3人の侍女と騎士はバツが悪そうな顔をする。

それだけで自分たちが言えない何かが私にあると言っているようなものだ。

「そして殿下。私は確かに求婚に対して頷き、マリシティの国王陛下からも了承をもらっています。しかし、逆に言えば私たちの間にあるのはそれだけなのです。ですから求婚の理由が原因解明なのだとしたら、私の案が一番いいはず。なのに殿下はそれを理由も言わずに拒み、且つ態度で話し合いを拒否されました。思いの行き場を失った私が逃げ出したくなっても仕方がないとは思いませんか?」

「う、ううむ…」

次いで殿下にも自分が感じたこと、行動の理由を包み隠さず告げる。

多少大袈裟にはであったけれど。

それをわかっていてなお殿下はそれでも自分にも非があると認めるように呻いた。

「……おわかりいただけたのであれば、まずは貴女たちに説明してもらいましょうか?」

私は一度全員に向けてにっこりと笑い、そのまま侍女3人に向けて笑みを深める。

後にその笑みは『氷薔薇の微笑』と名付けられたらしいが、それを知った時は顔から火が出るかと思った。

恥ずかしいので本当にやめてほしい。

読了ありがとうございました。

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