幽霊やら人外やら
だいぶ遅くなりましたが、ゆっくり更新を再開して参ります<(_ _)>
翌日城は大騒ぎになった。
私が部屋にいなかったことに驚いたメアリーが大声で叫んだことが発端で、それを以前私のことを猿呼ばわりしたどこかの馬鹿な騎士がたまたま聞きつけ『ブチ切れた私にメアリーが殺されそうになっている』と勘違いした挙句に許可なくルード様の部屋に入ったために下着に上着を羽織っただけの私と目が合い、あろうことか「アンネローゼ様が殿下の寝所に化けて出た」などと大音声で叫んでくれやがったからだ。
そのせいで数時間ほどだが私は死んだことになっていたし、数週間後にマリシティの陛下から直々に私の生存を確認するための手紙が届いたりする事態にまで発展した。
私に非はないがすぐにルード様と連名で誤解だったと釈明する羽目になったので、罰として彼がマリシティへの伝令役をすることにもなった。
なお、それ以前に私のあられもない姿を見たとしてルード様から態度と言葉で、マイラからは肉体言語でそれぞれ罰が下されたそうだ。
さらに事情を知ったリリとエルとマリー様からは軽蔑を、リチャード様とアゼリアからは嘲笑を、モンドレー侯爵からは実家の伯爵家に圧力を、ハリスからは同情を向けられたらしく、ジスはハリスと友情を築いたらしい。
そのせいでマリー様がハリスに激怒して冷戦状態になったりもした。
騒動の余波が広がっていく度に申し訳ない気持ちでいっぱいになっていく。
そもそも私がちゃんとルード様とそうなっていればこんなことにはならなかったのに、と。
だがそれはそれとしてジスには大いに反省してもらう必要はある。
もしこの話があの騎士の耳に入ってしまったらどうなるのかなど想像もつかないのだから。
「全くとんだ目に遭いましたわ!あの方は何も学習しないのではありません?」
「そうだな、流石に今回は俺も庇えない」
「いやはやなんというか、あいつの粗忽さはいつまで経っても治りませんね」
「あれこそが不治の病というものでしょうか」
事件から数時間後に私はルード様に呼ばれて彼の執務室にお邪魔していた。
するとそこには補佐であるリチャード様の他にアゼリアもいたのだ。
そのことに首を傾げていると「今朝は済まない、ジスがまた君に迷惑を」とルード様が困ったように眉を寄せながら苦笑気味に謝罪をしてきたので、呼ばれたのはその件だったのかと思い軽口で応じると、三人が次々とそれに続くものだからつい可笑しくなって笑ってしまった。
けれどお陰で場の空気は和んだように思う。
今なら昨夜ルード様に話そうとしていたことを伝えられるのではないか。
「ところで君を呼んだのは昨日の件についてなんだ。俺が遮ってしまったが、何か話があったのだろう?」
そう思っているとまるでそれが伝わったかのようにルード様に水を向けられた。
「あ、はい、でも…」
けれどそれには一つ問題がある。
私がルード様に相談したかったのはリチャード様に関することだったからだ。
いくらなんでも本人を目の前にしては少々厳しい。
「ああ、それはそうですね」
どうしようかと迷っているとアゼリアがポンと手を打った。
あ、そうだ、人の心が読める彼女にならもしかしてこの状況でも相談できるかもしれない。
「ねえアゼリア」
「私は人の心が読めるわけではありませんよ?」
「いや読めてるわよ。じゃなくて!!」
私とルード様の繰り返しについてリチャード様にもお話ししようと思うんだけれど、貴女はどう思う?
私はアゼリアの目を見つめながらそう考えた。
果たして答えは。
「必要ありませんよ」
「え?」
アゼリアは一度目を伏せるとため息を漏らしながら肩を竦めて至極あっさりと言い切った。
思わず私はぽかんと口を開けてしまう。
いやでもこんなにあっさり必要ないと言われると思っていなかったのだから仕方ないのではないだろうか。
だって彼は絶対に戦力になるし信頼もできる。
味方に引き入れない理由はないではないか。
「えっと、どうして?」
だから私はアゼリアに問うたのだが、
「アンネローゼ様ならそう仰るだろうと思ってすでに私から話してあるからです」
アゼリアは当然とばかりにそう言って紅茶を啜った。
なんということだ、アゼリアはとうとう心を読めるばかりか未来が見えるようになってしまっている。
「人を人外の生き物みたいに言わないでくださいますか?」
アゼリアは呆れたような顔でそう言うが、その後ろではルード様とリチャード様が苦笑していたので、そう思っているのは私だけではないようだった。
ですよね!!
読了ありがとうございました。




