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もう逃げられないと思いました

あの後アゼリアからの報告は旅の疲れと怒涛の展開によって疲弊した心を休めてからにするということにしてすぐに帰らせたのでまだ聞いてはいない。

なのでこの隙にやるべきことをしようと思う。

「さてルード様、こうなったからには早めに手を打ちましょう」

「ん?」

いつものように就寝前のおしゃべりにとルード様の部屋を訪ねた私はお茶の準備もそこそこにルード様に詰め寄る。

しかし前置きもなく話始めたので彼はきょとんとしたような表情ながらも優しく私を見返した。

気のせいか甘さを含んだようなとろりとした目をしている。

私が来るまでの間にお酒でも召し上がったんだろうか。

「リチャード様ですよ」

けれど私がそう言った途端彼の目からは甘さが消える。

代わりに拗ねたように目が眇められたから怒っているわけではないようだ。

「あいつがどうかしたのか?」

そう思っているうちに徐々にルード様の表情がむすっとしたものに変わっていく。

その理由はわからないが、もしかしたら今日はリチャード様と喧嘩をなさったのかもしれない。

だとしても私は関係ないのだからそんな顔をしないでほしいのだけど。

「どうかというか…きゃっ!?」

話しを続けようと口を開いたが、言い終える前にルード様の手が伸びてきて腰を掴まれる。

そして驚く間もなく私の体はルード様の膝の上に移動させられていた。

「何をなさるんですか!」

今までにも何度かこういったことがあったがいまだに慣れない私はふいうちでの出来事につい大きな声を出してしまうし、顔に熱が集まっていくのを自覚している。

つい後ろにいるルード様を振り返りそうになったが、今の位置関係にままならば私の顔はルード様に見えていないためぐっと我慢した。

いつまでもこんなことで顔を赤くしていること知られたくない。

私はぎゅっとドレスの裾を握りながらその皺を見ていた。

ややして「はぁ」という小さくはないため息が聞こえ、後ろから伸びてきた大きな手が私の手に重ねられる。

「………ルード様?」

「面白くない」

そろりと名を呼べば間髪入れずに不機嫌な声が返ってくる。

「面白くない」

しかも二回も。

本当に、突然どうしたというのだろうか。

「あの」

「知っているか、アンネローゼ」

私の問いかけを遮るルード様は不機嫌な様子を隠すことなく低い声で言う。

「子どもは天からの授かり物だというが、なにもせずには生まれないんだぞ」

「んふえっ!?」

そしてその予想外の内容に私は久々に令嬢として出してはいけない声を発していた。

でもこの場合仕方なくはないかしら?

だって私は明らかに平常心ではなかったし、この状況でルード様の言葉の意味を理解できないほど鈍くもなかったのだから。

「あの、えっと、そのぉ…」

私はルード様の膝の上であたふたと身を捩ったり手を動かしたりしたが、彼が解放してくれる気配はない。

むしろ両腕でぎゅっと抱きしめられ逃げ場を失った。

お願いだからコルセットを巻いていないお腹には手を置かないで。

「最近リチャードの奴がな、これ見よがしに俺に言ってくるんだ。こうなったからには意地でも自分の息子を王子の側近にすると。もしくは娘を王女の友人にすると。でも婚約者にはしたくないらしい」

「は、はぁ」

「だからなるべく早く結婚して『努力』するのだそうだ」

「あ、はい…いえ、あの!」

この流れは拙い。

私は決定的な一言を言われる前にと口を開くが、

「なあ、俺達にはその『努力』が足りないんじゃないか?」

それよりもなお早くルード様は私が避けていたことを口にした。

いや待って、避けていたわけじゃないの。

ただ、その、初夜を迎えるはずだった日にあんなことになったからどうするべきかわからなくなって、そうこうしている内に機会を失ったというか、ちょっとどうしたらいいのかわからなくなったというか。

王族に嫁いだ身として避けられない問題だとは思っていたけど、それは問題が山積みになっている今じゃないと思っていたのよ!!

などという言い訳が頭の中をぐるぐると回る。

ていうかホントなんで突然こんな話になっているのかしら!?

私が破裂しそうな程に頭を悩ませているとルード様の声が頭上から降ってきた。

「なのに君ときたら部屋にくるなりリチャードの話をする。目の前にいるのは俺だろう?」

今は後ろですけどね。

なんてそんな軽口を叩けるような図太い神経はしていないわけではないけど今はちょっと難しいので無言を通す。

だってなんて言ったらいいのかわからないんだもの。

ここで「それなら今から『努力』とやらをしましょうか」と言える程私は腹を括っていない。

くそ、リチャード様め、恩を仇で返すなんて酷いわ!!

私は無言を貫いたまま、しかしそれとは裏腹に姦しいほどに無駄な言葉が溢れて止まらない脳内で必死にどうするべきか考えを巡らせた。

このまま流されてもいいけれど、でもなんていうか。

もうちょっとこちらの都合とか情緒とか、とにかくもっと色々と考えてほしいのよ!!

もちろんそれが自分のわがままでしかないことはわかっている。

でも初めてを捧げるって、女の子にとっては崖の上から飛び降りろって言われたくらいの出来事なのよ?

まあその感覚は人によると言われればそれまでだけれど、でもでも、私にとってはもの凄く覚悟がいることなの!

……でも、いつまでも先延ばしにできない事実は変わらなくて。

私は今日相談するはずだった諸々を飲み込み、全てをルード様に委ねることにした。

読了ありがとうございました。

この作品は全年齢対象なので次回は朝チュンです。

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