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殿下に原因を話しました

一頻り笑った殿下は「それで」と話を再開した。

「前にも言った通り、俺はこの繰り返しの原因が君にあると思っている。まあ俺も同じように繰り返しているのだから、正確には俺と君に、かもしれないが」

「……はい」

殿下は笑いを引っ込めてこの場を設けた理由の核心に触れる。

「だが俺には全く心当たりがないんだ。だから君にも心当たりがないと言うならお手上げ、なんだが」

殿下はそこで言葉を区切ると少し伏せ気味だった目を真っ直ぐ私に向けて、

「君には心当たりがあるんだな?」

疑問形ではあったがほぼ確信を持った声で私に問うた。

そして、私はその問いに頷いた。

「……はい」

顔には出さないようにしていたのだが、何故か殿下にはバレてしまったらしい。

ならばしらを切るのは下策だ。

私は素直に心当たり、自分の一度目の人生での出来事を語った。

「一度目の人生…、初めてファビアン殿下に婚約を破棄された私は牢に入れられてその後国外追放になり、ジャスパルへ捨てられました。着の身着のまま放り捨てられた私は街を彷徨いましたが運よく親切な女将さんに助けられ、その方が経営する食堂で働けることになったのです。そして5年後、そこでマリシティの滅亡を聞きました」

私はゆっくりと思い出される記憶にあまり出てくるなと蓋をするように早口で語りながら、無意識のうちにぎゅっとドレスの裾を握り込んでいた。

それには向かい側の殿下も気がついていただろう。

だが私も殿下もそのことには触れなかった。

「その後、食堂の常連さんの紹介で結婚が決まりました。半年後に私はささやかな結婚式を挙げることになったのです。ですが、そこで問題が起こりました」

「問題?」

「はい。別の常連さん…どうやらジャスパルの騎士職にある方だったらしいのですが、その方が突然結婚式に現れ、「アンネローゼと結婚をするのは私だ」と言って旦那様になるはずだった方を斬り殺しました。そして私がその方を拒否すると「では来世で結婚しましょう」と言って、その方は私のことも斬り捨てたのです」

「!!」

変わらず要点だけを早口で語る私の話に殿下は目を見開く。

何か言いたげにも見えたが、もうすぐ話が終わるのであとちょっとだけ待ってほしい。

今言い切ってしまわないと私はまたこの記憶を思い出さなくてはいけなくなってしまう。

それは私にとって紛れもなく苦痛だった。

「けれど私はすぐには死にませんでした。それから何日間か朦朧とする中、少し意識がはっきりしている時に聞いた話によれば、私を斬った騎士は騎士団から除名されてガルディアナへ行ったそうです。あの国は戦争のために多くの兵士を募っていましたから。その後私はひと月程度治療を受けていましたが、回復することなく死にました」

その瞬間、身体が内側からひっくり返されたような激痛を感じたのを思い出す。

死んだ後に死ぬかと思うような痛みを感じて悲鳴を上げたがすぐに痛みは引き、私は婚約破棄の場に戻ったのだ。

私が話を締めくくると殿下は不思議そうな顔をし、

「それだけ持ち堪えたのに死ぬというのは些か不自然にも感じるのだが。傷の他にも何か原因があったのか?」

と私に質問する。

その質問は的確なものだとは思うが、普通ならまず「辛い経験をしたのだな」と女性を慰める場面であろうに「そういうところですよ?」と思いつつ、けれど深く突っ込まれたくない私には好都合だったのでそのまま質問に答えた。

「どうやら私はあの騎士に呪われたらしいのです」

「……呪われた?」

「はい。私の手当てをしてくださった司祭様が仰ってました。傷口が塞がらず血が止まらないのは呪具による傷だからだろうと」

「そうか……」

私の答えに殿下は考え込む様子を見せる。

今の話で私が人生を繰り返す理由の心当たりを察してくれたのだろう。

私を殺した武器は呪具だった。

そして私を斬る時、騎士は「ならば来世で結婚しましょう」と言った。

つまりそれが叶うまでこの繰り返しは続くのではないか。

私はそう考えていた。

「……君は呪いを解くためにその騎士と添い遂げる気はあるのか?」

ややしてやはり同じ結論に達していたらしい殿下が顔を上げる。

同時に放たれた遠慮がちな言葉に、しかし私はきっぱりと「いいえ」と返す。

「そんなことをした相手と結婚などしたくありません」

「そうだろうな」

「…ですが」

「ん?」

けれど否定したものの、引っ掛かっていることがないわけではない。

「ですがもしそのせいで殿下も生を繰り返され、苦しまれているのであれば、今はそうするしかないとも考えています」

それは殿下を巻き込んでしまっていること。

理由はわからないし原因が同じとも限らないが、もしこれだけが原因で繰り返しが起きているのならば将来大国の国王になる人を私の都合で巻き込むことなどできない。

「なにを…っ、君は俺に自分のために女性を犠牲にするような男になれというのか!?」

私の言葉を聞いた殿下は一瞬言葉に詰まったがすぐに怒りを滲ませた。

確かに殿下にすればそういう話になるのだろう。

「だって、これは私とあの騎士の因縁なんです!そこに関係のない殿下を巻き込んでいいはずがないじゃないですか!!」

しかし私にとってみれば関係のない人を自分の都合で巻き込み、何度も終わりのない生を繰り返させているということだ。

そんなの、絶対におかしい。

だから私にできるせめてもの罪滅ぼしは、あの騎士と結ばれて呪いを解くことだろう。

それに殿下もそう思ったから「添い遂げる気はあるのか?」と聞いたのでしょう?

「ふざけるな!君は今世俺の妻になるのだろう!?なのに何故他の男と結婚するという話になるんだ!」

けれど殿下はそれを受け入れてくれない。

先ほどの自分の言葉など忘れたように私に強い目を向ける。

何故?

だって私は、ただこの繰り返しの原因を逃さないためだけに結婚を申し込まれただけの女であるはずだ。

そこまで食い下がる価値なんてないはず。

「悪いが俺にそれを受け入れる気はない。諦めて他の方法を考えろ」

「そんなっ!!?」

殿下は「この話はここまでだ」と言わんばかりにそっぽを向く。

どうやら理由を説明してくれる気も折れてくれる気もないらしい。

その態度に、私の中で瞬間的に何かが切れた。

「……そうですか」

私はそっと立ち上がると窓に近づき、レースのカーテンを寄せてから窓を開ける。

入り込んできた風が私の髪を揺らし、次いで弱った風が殿下の髪を擽った。

それでもこちらを見ようとしない殿下を振り向き、

「…まだお庭の木は切られていませんから、私の逃走ルートはありますね?」

と言って窓枠に足を掛け、慌てて振り向いた殿下の「は?」という気の抜けた声を聞きながら外に向けて身を躍らせた。

読了ありがとうございました。

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