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情報共有は大事ですよね、でもそこは言わなくてよかったのに!

「そんなことがあったなんて…、俄かには信じられませんが、しかしお二人が嘘を吐く理由はございませんし、嘘にしてはあまりに荒唐無稽すぎる…」

「そうね、あり得な過ぎて逆に信じられるでしょう?」

「確かにそうですね…、あ、いえ、決してお二人の話を疑っているわけではないのですが」

「信じられないのも無理はないさ。俺だって経験していなければ世迷言だと思うだろう」

度重なる脱線を経て私たちとあの騎士の因縁とも言うべき今までの人生を伝え終えた頃には、空が薄く赤く染まっていた。

ルード様は眩しそうにそれを眺め、窓からの光が彼の黒髪を仄かに赤く染める。

緑色の瞳にも赤が差し、アレキサンドライトのような不思議な色を見せていた。

つられるように私も窓の外へ視線を転じる。

本来であれば初夜を迎え胸を張ってルード様の妻に、つまりオークリッド国王太子妃になったのだと言える日の朝がこれか。

一度目の人生でよく『結婚は終わりじゃなくて始まりなのよ』と女将さんが言っていたが、私の王太子妃としての始まりは随分と波乱含みのものとなってしまった。

この先どう転んでいくのか、まだ誰もわからない。

けれど確実に賽は振られてしまったのだ。

空は一層赤味を増していく。

オレンジがかったそれは血のようなと形容するような不吉なものではなかったが、希望に満ちた明るいものにはとてもじゃないが見えなかった。


婚礼準備のために疲労が溜まった体で襲撃者を退け徹夜したマイラに「落ち着く時間も必要だろう」と本日の暇を言い渡した後仮眠した私とルード様は朝食兼昼食を済ませるとすぐに動き出した。

マリー様とアゼリアとモンドレー侯爵を呼び出し、昨日の出来事とマイラに事情を説明したことを報告したのだ。

「なんと、お怪我などはなさいませんでしたか?」

「せっかくの晴れの日になんて、ローゼ様がお可哀想です!!」

「御身が無事であったことは不幸中の幸いでした」

三人は私を囲んで言葉を掛けてくれる。

その顔には気遣いの色が色濃く浮かんでいた。

「私は大丈夫よ、……ありがとう」

三人の手を取って安心させるように笑顔を見せれば、侯爵はやれやれといった顔で、マリー様はまだ少し不安そうな顔で、アゼリアはいつもと同じに見えてほんの少し眉を寄せた顔で私を見たが、同時に息を吐くと何かを諦めたような顔で一歩身を引いた。

何故かしら、妙に釈然としないわ。

「おい、誰か俺の心配をしてもいいんじゃないか?」

肩を竦めたルード様のその呟きには誰も答えなかった。


「ところで何故その騎士はアンネローゼ様のお部屋に入り込めたのです?」

円卓に私、ルード様、侯爵、アゼリア、マリー様と一周する形で席に着き紅茶を一口飲み下したところでアゼリアが口火を切った。

しかし答えを求められている私はその答えを知らなかった。

「わからないの。疲れてつい転寝をしていたところだったし、部屋には私しかいなかったから」

もちろん部屋の外にはいたが、あの時誰もあの騎士を見ていないという。

暢気に寝てしまった自分の行いを悔やんで、つい膝の上の手を握りしめる。

「寝ていたのは五分くらいだと思うのだけど、気がついたら抱きしめられて口づけられていたから、恐らく侵入にかかった時間はそれ以下だと思うのだけど…」

窓からだろうと思っていたが、思い返してみればあの騎士は去り際に窓を開けていた。

侵入した時にわざわざ閉めたとは思えないので、きっと別の経路があるはず。

自分の眉間と握りしめたドレスにぎゅっと皺が寄った。

膝に置いた自分の手が白くなっているのが見える。

いけない、無意識に視線が下に向いていたようだ。

せっかく何でもないと告げたのに、これでは余計な心配をかけてしまうだろう。

私は下げていた視線を上に向けた。

「ん?」

まず目に入ったのは珍しく驚き、というよりかは引いた顔をするアゼリアだった。

その隣を見ればマリー様は顔を青くしている。

そしてアゼリアの方へ戻り、通り過ぎて侯爵へと視線を転じれば固唾を飲んだような表情で隣のルード様を見ていた。

そう言えばマリー様もアゼリアも視線はルード様の方を向いているような…、

「アンネローゼ?」

そう思ってルード様の方を見ようとした瞬間、まるで地の底を這うような、低く重い声に名を呼ばれた。

気のせいか昨日マイラに感じた類の怒気による真っ黒な揺らめきが見えた気がする。

何故、と思ったと同時に理由に思い至った。

そうだ、あのことは怒られると思って内緒にしていたのだった。

「俺にまだ報告していないことがあったようだな?」

「いえ、その、……ハイ」

私はうっかりあの騎士にされたことを話してしまった自分の迂闊さを呪った。

読了ありがとうございました。

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