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オークリッド国侍女の嗜み…?

ドンドンドンッ!!

「アンネローゼ様!?いかがなさいましたか!!?」

目の前が真っ暗になる中、扉を激しく叩く音と焦ったようなマイラの声が私に正気を取り戻させた。

恐らく私の怒鳴り声を聞いた衛士がマイラを呼んだのだろう。

爆発音など明らかに命にかかわるような事態にならない限り男性衛士は許可なくこの部屋に入ることができないからだ。

「マイラッ!!侵入者よ!!」

私は扉の外のマイラと衛士に確実に伝わるようにと声を張り上げる。

さっさとそうしていればよかったのに、気が動転していて今まで気がつかなかった。

「なんですって!!?」

マイラの驚いた声が聞こえる。

直後にドバァンという凄い音が聞こえた。

「え?」

呟き背後を振り返ったが、

「っつあ!!」

「くっ!?」

首を巡らせる最中に影が通り過ぎ、私の視界に蝶番が外れた入り口の扉が映ると同時に背後からマイラと騎士の声が聞こえた。

「へ?」

慌てて首を戻せば、マイラの振り上げられた右足があの男の顔の横にあって、彼は何とか腕で防いだようだがその顔は苦痛に歪んでいた。

どういう状況だと驚いていると、マイラは防がれた足を引き、いや、引いたと思いきやその足を軸に回し蹴りを放つ。

男は一歩引きつつ上体を反らしてなんとか躱すが、流れるような動きで繰り出されたマイラの後ろ蹴りを足に受けて体勢を崩した。

けれども倒れるには至らず距離を取られる。

「えええ……」

というか、マイラの動きが常人離れしすぎている。

マリシティでも侍女は多少の護身術を習うし当然私も習ったが、だからこそマイラが明らかに嗜み以上の実力であることがわかってしまった。

下手をしたら体術だけならその辺の騎士より余程強いのでは?

「アンネローゼ様、ご無事ですか!?」

「え、ええ」

素早く私と男の間に立ち、目線だけを寄こしたマイラに不覚にもときめきそうになる。

それくらいマイラは圧倒的に強くそしてかっこよく美しく私の目に映った。

一方の男は忌々し気にマイラを睨んだものの、突然ふと笑みを浮かべた。

勿論にこやかなものではなく、ニタリとした粘度を孕んだような不快になる笑みだ。

すると俄かに廊下の方が騒がしくなり、バタバタと複数人が走っているような音が聞こえてくる。

「何事だ!?」

歪んだ扉に驚いた騎士たちの「うわっ!?」「なんだこれ!?」「猿じゃなくてゴリラだったんだ」という声と共に一際大きなルード様の声が聞こえて私の肩から少しだけ力が抜けた。

それは決してジスであろう騎士の言葉に怒ったからではない。

ないが、それはそれとしてまた奴とは話し合いの場を設けなければならないだろう。

覚えとけよ。

とはいえ少しばかりはそのお陰で私に気力が戻ってきた。

今ならあの男にも臆さずに向き合える。

それよりも私の度肝を抜いたのはマイラのような気もするが、さておき。

「ルード様、あいつです!私たちに短剣を刺した騎士が!!」

「は?」

だが私がそう叫んだ瞬間に反応したのはマイラだった。

「この男がアンネローゼ様と殿下に短剣を…?」

「あ」

私がしまったと思った時にはもう手遅れだった。

この話を知っているのは私とルード様の他にはマリー様とアゼリアとモンドレー侯爵だけだったのに、他に説明方法がなかったからつい言ってしまった。

私はやはりまだまだ気が動転しているらしい。

じゃなくて!

「マイラ!待っ」

「私の主たちになんてことを……この痴れ者がぁ!!」

私の制止の声は間に合わず、マイラはまた疾風の如き勢いで男に向かって行く。

そして飛び蹴りからの振り向きざまの下段蹴り、体を捻って床に手をつき後ろ上段蹴り、からの回し蹴りとくるくると回るように連続して足技を浴びせる。

男は躱したりいなしたりしているようだが、ぱっと見で優勢なのは明らかにマイラだった。

強すぎる…。

ちらりと入り口を見れば、勢いを削がれたというかマイラに先を越されて感情の行き場を無くしたルード様が何とも言えない顔で立ち尽くし、その後ろで騎士がマイラの動きを見て明らかに引いていた。

やはり並の騎士では彼女に勝てそうにない。

マイラの秘密を知って、こんな時なのに「凄い、かっこいい…!」と胸を高鳴らせてしまう私もどうかと思うが。

読了ありがとうございました。

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