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女三人寄れば姦しいというけれど、おっさん四人寄れば…

その夜。

コンコンコン

「アンネローゼ、ちょっといいか?」

何の前触れもなくジェラルド殿下が部屋を訪ねてきた。

もう侍女は下がらせているので部屋には私以外誰もいない。

音が響かないように注意しながらそっと扉を開けた。

「こんな時間にすまないな」

「いえ、それは構わないのですけれど…」

中へ入るよう手で示しながら体をずらし殿下を招く。

そして日中に陛下を通したソファに殿下を座らせ、まだ暖かかったお湯でお茶を淹れた。

「どうぞ、少し温いかもしれませんが」

「いやなに大丈夫だ」

殿下はくぴりと一口飲むと「陛下…父から今日の話は聞いた」とため息混じりに話を切り出す。

私はごふっと噎せかけたが何とか紅茶を飲み下し、「さ、左様ですか…?」と引き攣った笑みを殿下に向けた。

「ああ。あの人はなんとも楽しそうに君のことを語っていたよ」

そう言い、殿下は再び紅茶を口に含んで、そのまま一気に飲み干した。

殿下は猫舌ではないと思うが、もしかしたら温めの紅茶の方が飲みやすいのかもしれない。

「もう一杯お淹れしましょうか?」

「いや、……ああいや、やはりもう一杯頼む」

「はい」

殿下はおかわりを問う私に一度否やを返そうとしたが頭に手を当てると思い悩むように二杯目を依頼した。

勿論思い悩んだ内容はおかわりについてではない。

だが私は陛下との会話を思い出しつつ、何かそこまで殿下を悩ませるような話をしただろうかと振り返った。

『…そちは不思議よな。女に興味がないと思っていたジェラルドがすぐに結婚を申し込んだかと思えば偏屈で気難しいモンドレー侯爵や珠姫までがいとも簡単に手懐けられた』

『いえ、手懐けただなんて』

『なによりもそこに控えるマイラがすぐに姫を認めたことに一番驚いたわ』

『……え?マイラ?』

『へ、陛下!!』

『はっはっはっ、こやつは私などより余程あれと関わっておるからな。マルグリット以外の令嬢に対しては我が子を守る獣の母が如き勢いで睨みを利かせておった。そのマルグリットとて認められるのに5年はかかったというのに』

『……そんなにはかかっておりません。精々4年10ヶ月くらいです』

『いやそれほとんど一緒じゃないかしら』

なんて会話をしたくらいしか思い出せない。

なにせ陛下は忙しい。

元々予定に組まれていなかったのだから分刻みの予定の中で15分も時間が取れたことの方が奇跡だ。

だから殿下が頭を悩ませる理由はこの中にあると思うのだが…。

「君に会った後、父は私とモンドレー侯爵、ライスター公爵、そしてイツアーク伯爵と会議をする予定だった。だが」

私の頭の中の疑問に答えるように殿下が話を続ける。

次第にその顔は苦虫を噛み潰したようなものへと変わっていった。

『ジェラルドよ、お主いつまで姫と部屋をわけておく気だ?』

『……は?』

『マルグリットのように不都合があるわけでもなし、いつまでも姫に淋しい思いをさせるのはどうかと思うが』

『いや、あの、陛下?突然何を』

『そうですな。いや私共も失念しておりました。相思相愛にて結ばれた二人ならば何の不都合もない、今日は無理でしょうが明日にでもアンネローゼ様には殿下の隣室に移っていただきましょう』

『モンドレー侯爵!?』

『なるほど、さすれば我が娘も後顧の憂いなくハリス殿と結婚出来ましょう。伯爵もそう思われませんか?』

『然り。我が娘など自分がアンネローゼ様の御子の家庭教師になるのだと今から教材を見繕っておりますよ』

『おや気が早い』

『なんの、早めに準備して悪いことなどありますまい』

『『『『はっはっはっ』』』』

「…なんて会話をして、今日の会議は終わったよ」

「はぁ、それはまた…」

項垂れる殿下から4対1の状況でゴリ押しされるように決まった部屋の移動について説明されるが、私の頭はまだ話を理解できていなかった。

殿下の隣の部屋に移動するということについて問題はない。

結婚すればそうなる予定なのだし、早まることに対して異議などない。

では殿下のこの様子の原因は何だと考えた時、ふと頭にある言葉が蘇った。

『我が娘など自分がアンネローゼ様の御子の家庭教師になるのだと今から教材を見繕っておりますよ』

それはイツアーク伯爵が言った言葉だったそうだが、私はこれの何に引っ掛かったのか。

単に自分の名前が出てきたからではない。

「……『おこ』?」

その言葉が意味するところはなんだっただろうか。

『お』はきっと御だろう。

では『こ』は……。

まさか。

「ああ。つまり4人は寄って集って俺と君に早く世継ぎを成せとせっついて来ているということだ」

何度目かもわからないため息と共に吐かれたその言葉で、私はようやく何故殿下がこんなにも動揺しているのかを理解した。

その瞬間上げそうになった悲鳴を喉で止めたことを誰か褒めて。

読了ありがとうございました。

タイトルは不敬と理解しつつどうしてもおっさんと言いたくなったアンネローゼの心の叫びw

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