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三人目、かしらね

「ごめんなさい、マリー様。私の言い方が悪かったわ」

「いえそんな、私こそローゼ様の前ではしたないことをいたしました…」

「ハリス様もごめんなさい」

「いえ、元はと言えば自分の責任ですから…」

あれから気の済むまでマリー様に詰らせてやろうと思って見守っていたが、やはりマリー様は怒らせてはいけない人のようで、話が落ち着いた頃にはハリス様はすっかり小さくなってしまった。

背を丸めしょぼんと座っている姿には先ほどまでの軽薄な空気はない。

ただ、哀愁と悲哀は感じられる気がする。

「私が言ったのはあくまでハリス様の本質についての話ですわ。彼がこれまで培ってきた人間性までは知りませんから、彼が本当に軽薄なのかフリなのか、それとも単にそう装うのが性に合っているのか、その辺りはなにもわかりませんもの」

私は何とか取りなそうと懸命に言い繕う。

マリー様は気落ちしてシュンとしているが私の声はちゃんと届いていて、「ね?」と言うと小さく頷いてくれる。

「マリー様の方がハリス様のことをよくご存じのはずでしょう?」

「そう、ですよね」

「そうよ」

そして何の根拠もない私の言葉になんとか顔を上げてくれた。

まだ少しぎこちないが、それでもいつものように微笑んでいるので大丈夫だろう。

ならば次はこちらだとハリス様に向き直る。

そして口を開こうとしたのだが、それを侯爵に止められた。

「自分でも言っていた通り元々はこやつがアンネローゼ様を試そうなどと考えたことが発端。それ以上の謝罪は不要です」

むしろハリスの謝罪が足りないくらいです、と侯爵は腕を組んでハリス様を見下ろした。

とても先ほどまで彼に財務大臣としての仕事を引き継がせるなどと言っていたとは思えない。

そしてその前に自決すると騒いでいたとも思えない、何とも素早い身の変わりようだった。

「というか何故あんなことをしたの?昨日私も話したけれど、兄様ならそれ以前にマルグリット様からもアンネローゼ様の話を聞いていたでしょう?」

アゼリアがため息を吐きつつ額に右手を当てて軽く頭を振る。

兄の馬鹿な行いを悔いるようなその動作にハリス様がバッと顔を上げた。

「ああ、ああ勿論だとも!散々聞かされたよ!!手紙でもお茶会でも出てくる話題は全部アンネローゼ様のことだけだったからね!ようやく堂々と俺と出掛けられるようになったのに、話題に上るのはいつもアンネローゼ様のことだけで!!俺と、俺とお茶してるのに、ローゼ様がローゼ様がって、なんで……、うぅ…」

そうして次第に俯きつつ紡がれた言葉に「は?」と言ったのは私とアゼリアと殿下だった。

いや、それしか言えないでしょ。

だって、それって、つまり。

「兄様、アンネローゼ様に嫉妬していたの…?」

アゼリアの言った通り、マリー様が私のことしか語らないから嫉妬していたとしか思えない。

まさか、そんな理由で私を試したの?

未来の王太子妃に、延いては王妃に相応しいかを見るためとかじゃなくて?

「そうだよ!!悪いか!!?」

投げやりのような肯定の言葉の勢いとは裏腹にそろりと上げられた顔を見ると、彼の目からは次から次へと雫が零れていた。

なんということだ、この男ガチ泣きしている。

だからと言ってアゼリアのように「うわ…」とドン引きするほどではないが、やはり私には彼が殿下より素敵な男性には思えなかった。

だって嫉妬で未来の王太子妃になろうという私に喧嘩を売ったわけでしょう?

なに?こいつも馬鹿なの?恋は盲目って?

私はため息を吐きながら殿下を見た。

ちょっとこいつもやっちゃっていいですか?

言葉にしない私の意図は今度は正確に意味が伝わったようで、殿下は「ほどほどにな」と苦笑いしていた。

ほどほどで済むかどうかは彼次第だろう。

再度ハリス様に向き直り、私は口を開いた。

「悪いに決まっているでしょう?」

まさか彼のような人にまでこんな話をすることになるなんて思っていなかったが、マリー様はわたしの大切な友人だ。

彼女を悲しませることになるような可能性は見過ごせない。

「貴方、そんなくだらない嫉妬で私に喧嘩を売ったの?」

「え、いや、そんなつもりは」

「なかったの?人を試しておいて?ああ、バレないと思っていたから、バレた場合のことなんて考えもしていなかった?」

「は…あっ、いや…」

「それで後で一人溜飲を下げるつもりだったと?なんて見下げ果てた男かしら!しかも完遂できなかったばかりか全部バレて!ほんと、マリー様は貴方みたいな小物の何処がよかったのかしらね?」

「なっ!?」

私は敢えて捲し立てるように言う。

ハリス様は最初こそ気まずげだったが、私が彼を馬鹿にするようなことを口にする度に顔を険しくしていった。

だんだんこの状況に慣れて思考力が戻ってきたのだろう、元々嫉妬心から私に良くない感情を抱いていた彼は今にも不満をぶちまけそうな顔になってきた。

そろそろ頃合いだ。

「貴方は一体誰に何をして、その結果どうなるのか、ちゃんと考えたのかしら?」

私は挑発的に告げることで彼に水を向けた。

どんな考えでこんな行動に出たのか、言えるものなら言ってみろと。

「…マリーから聞いていた話とだいぶ印象が違いますね。貴女は随分と自分を高く見ているらしい」

「ハリス!」

私の言葉に反応してクッと嗤うと、マリー様の制止の声を無視してハリス様は私に牙を剥いた。

逆上した人間ほど御しやすいというのに。

私に牙を剥くのならば、私はそれを全て折るだけだ。

……でもその前にその情けない涙は拭った方がよろしくてよ?

読了ありがとうございました。

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