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マリー様を怒らせてはいけないようです…

「馬鹿な…」

殿下はすぐに一蹴しようとした。

けれどそれが『彼らを信じられないから』ではなく、『彼らに信じてもらえないだろう』という考えからだということが察せられたので、私はさらに言い募る。

「この3人はつい先ほど私に誓ってくださいました。今後裏切らず忠誠を以って仕えてくれると」

「だが」

「この3人なら絶対に信じてくれる。私はそう思いますよ」

そう言ってはみるが殿下はまだ不服そうに見える。

ならばと私は見方を変えて再度提案する。

「殿下、この大国でも1,2を争う大貴族のライスター公爵家、そしてモンドレー侯爵家の協力があればより情報の収集は楽になるでしょう」

「……それは」

確かにそうだろうが、と殿下は僅かにたじろぐ。

「そして優秀と名高い一族で『珠』と呼ばれるほどの知能を持つアゼリアが加わってくれれば、より早く解決できる気がしませんか?」

「……否定はできないが」

今度は言葉に出して、しかし体は逆に少し引いた。

私の意見は何の確実性もないものだが、それでも可能性は大きいと殿下も感じているからだろう。

「ならば頼りましょう」

段々と私の説得に絆されかけている殿下に私は詰め寄る。

ここが押し時だと感じた。

「私たち2人で解決するには手が足りません。現に今まで殿下お一人でやられていた期間に成果はなかったのでしょう?であれば今回は手を増やすべきです」

「しかし」

私はそれでも何事か言おうとする殿下の手を掴んで言葉を止める。

そしてその手を私の胸元でしっかりと握り、意識して最上の笑みを浮かべた。

何も心配いらないと言うように。

「だってダメだったらその時はその時、最悪2人揃って死ねばいいだけじゃないですか」

今後に差し支えるような事態になったらやり直せばいいだけだと。

私たちには『繰り返し』という最大の切り札があるのだから、どんなことになってもどうとでもなると、そう伝えた。

だが私は説得に集中するあまり失念していた。

この場にいるのが私たちだけではなかったということを。

「アンネローゼ様…?」

「あの、それはどういう…」

「あ」

アゼリアと侯爵の声にハッとする。

顰めてもいない声は当然彼らにもしっかり聞こえただろう。

拙い、と思った瞬間、

「……ローゼ様、今のお言葉の意味を私にご説明いただけますか?」

物凄く静かで、なのにこの場の誰よりも存在感のある重い声がそう言った。

「ほえ…?」

その声の主はまさかのマリー様である。

彼女の背に真っ黒い炎が揺らめいている幻が見えそうなほどに重い空気と鋭い眼光を内包した空恐ろしい笑みを伴って、彼女の薄青い瞳は真っ直ぐに私を射抜いていた。

「殿下も、もちろんご説明くださいますわね?」

「あ、ああ…?」

かと思えばぐりんと音がしそうなほどの勢いで首を巡らし、殿下をキッと睨む。

常の彼女からは想像もできない苛烈さだ。

ていうか普通に怖い。

殿下ですら冷や汗をかいているように見える。

そしてマリー様の気迫に押されるように私と殿下は9度の繰り返しについて3人に語った。


「……俄かには信じがたいですな」

「ですよね」

私と殿下が互いに不足を補いながら長い時間をかけて話を終えた後、疲れ切った様子の侯爵の口から洩れた言葉に私は苦笑と共に頷きを返す。

私だって自分が4度だと思っていた繰り返しが9度だったと知った時には「まさか」と思ったのだ。

繰り返しという現象自体知らなかった彼らがすぐに信じられないことぐらいは想像に難くない。

ちなみに話し始める前にガーデンパーティはお開きにした。

始まってすぐメアリーたちが来たから他の令嬢たちとは全く関われていないが、だからと言って彼女たちを長時間待たせてしまうよりは仕切り直しをした方がいいと思ったからだ。

「そうですね…」

顎に手を当てているアゼリアも真剣な顔で考え込んでいるようだ。

賢い彼女でも非現実的なことをそう易々とは受け入れられないだろう。

「けれどそれは、殿下方のお話しが信じられないという意味ではございません」

「というと?」

しかし顔を上げた彼女に戸惑いの色は少なく、その真意を目で問えば、

「私は『人生をやり直せる呪具』の存在を知っておりますので」

アゼリアは少し困ったような顔で私と殿下を見た。

読了ありがとうございました。

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