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殿下に提案してみました

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

「ミンディが誰かに変な話を吹き込まれたと言ったけれど、その誰かって、誰なのかしら?」

「さあ、残念ながら会ったのはミディのみで私はその誰か、男性とのことでしたが、その彼からされたという助言の内容しか聞いておりません」

私がアゼリアへ問えば、アゼリアはそこまでは知らないと首を振る。

本人が言った通り知らされていなかった殿下と侯爵、そして当然知らないマリー様も首を傾げた。

「ちなみになんと言われたの?」

「それが…」

アゼリアはここで初めて顔を曇らせる。

そして私と殿下を一瞥すると、一つ息を吐いて再度口を開いた。

「正直意味がわからない箇所もあります。それでも一応ミディから聞いた通りにお伝えしますね」

アゼリアはもう一度小さく息を吐いて、ゆっくりと深く吸うと私を見る。

「『アンネローゼが結婚すべき相手はオークリッドの王太子などではない。代わりの王太子妃が必要なのであれば今まで通りライスター公爵令嬢、もしくはモンドレー侯爵令嬢と結婚すればいい。お前がモンドレー侯爵令嬢に王太子妃となってほしいのであれば、アンネローゼとライスター公爵令嬢を同時に陥れるための策を授けよう』と…って、アンネローゼ様?どうなさいました、お顔の色が…」

「アンネローゼ様!?」

けれど私はその言葉を最後まで聞いていられなかった。

私が結婚する相手は殿下ではない。

殿下はマリー様、もしくはメアリーと結婚すればいい。

ミンディに何事か吹き込んだ男が言ったことは現時点ではただそれだけだ。

けれど『今まで通り』、ですって?

少なくても今まで、つまりここに至るまでメアリーが王太子妃候補に上がったことはないはずだ。

何故ならマリー様がいたから。

でも私は殿下から最近『過去にメアリーが王太子妃候補になったことがある』という話を聞いたことがあった。

しかしそれは『消えてしまった未来の話』、繰り返しを経験した中でのどこか1つの生での話だったはずだ。

「殿下…」

私が小さく呼ぶと、殿下は「ああ…」と応えを返した。

けれどその顔は私ほどではないが強張っている。

殿下も気づいたのだ、その発言の違和感、おかしさに。

「その男のこと、詳しく探らせなければ」

表情を険しくした殿下は失礼すると言い残して足早にサロンを去る。

その背を見送る私の不安げに揺れる瞳に、残された侯爵とマリー様とアゼリアはどうしたものかと顔を見合わせていた。


それから数分で殿下は戻ってきた。

あまりに早い帰還に、何故か嫌な汗が背を伝う。

「急にすまなかったな」

「いえ、それは構わないのですが、一体…」

殿下の謝罪に侯爵が何事なのかと目で問う。

しかしそれに殿下が答えあぐねていると、サッと近寄ったアゼリアが口を挟んだ。

「殿下、アンネローゼ様のお顔の色も戻りませんし、恐らくお二人だけしか知らないことなのだろうと推察いたします。先ほどの私の話、いえ、あの男の言葉の何に引っ掛かりを覚えられたのですか?」

「いや…」

その問いにも殿下は答えられない。

まさか私と殿下が何度も人生をやり直しているが、あの男の言葉にその中の一つの生に言及するような言葉があったから気にかかっているのだなどと言えるわけがないからだ。

けれどアゼリアの追及は止まらない。

「私があの男の言葉で意味がわからないと思っていた箇所は『アンネローゼが結婚すべき相手はオークリッドの王太子などではない』という部分と『今まで通りライスター公爵令嬢、もしくはモンドレー侯爵令嬢と結婚すればいい』という部分です。そしてお二人は明らかに後者に反応されていた。その理由はお教えいただけませんか?」

「それは…」

「私には殿下がアンネローゼ様とご結婚されるに至った経緯にその答えがあるように思えるのですが」

口ごもる殿下に対しアゼリアは的確に核心を突いてくる。

というかなんであれだけの情報でこの短時間でそこまで辿り着けるのか。

彼女の頭の中を覗いてみたい気もするが、きっと私では理解できないだろうなと思った。

「アゼリア、そう殿下を責め立てるものではない」

だから侯爵が止めに入ってくれて、本当にほっとした。

私や殿下が止めては後ろ暗いことを隠したようになってしまうから。

「別に責めているわけでは」

「しかし殿下のお顔を見ろ。そしてアンネローゼ様のお顔も。お二人とも苦しんでおられるのだ、そう何でもかんでも暴いてはいけないよ」

「あ…」

アゼリアも侯爵の穏やかな言葉にハッとしたようだ。

本人の言う通りアゼリアはただ疑問と自分の推測の答えを知りたかっただけなのだろう。

けれど今の状況でそれをしていいのかどうか、客観的且つ冷静に判断するにはまだ経験が足りないといったところか。

アゼリアはその頭の良さで相手の思考を読んでしまうが故に心の機微には疎いのかもしれない。

天才と呼ばれる人間がそうであるという描写は物語でよく見かけるが、あながち大袈裟でもないのかと思える。

「……失礼しました、殿下、並びにアンネローゼ様」

けれど言えば察して慮ってくれる辺り、物語の人物とは違ってちゃんと血が通っているのだと感じた。

「気にしないでいいわ。私と殿下に秘密があるのは本当だから」

「おい?」

だからと言うわけではないが、私はアゼリアにそれを隠さないことにした。

隠し事などないと言えば嘘を吐くことになるが、秘密はあるけれど暴かないでほしいと言えばそれはただのお願いになる。

そしてアゼリアはそれを受け入れてくれると信じられる気がした。

たった数時間の付き合いだが、彼女と本質的な部分が似ているからか自然とそう思えたのだ。

「ねえ殿下」

そう思った、からだろうか。

私はさらにアゼリアを、そして侯爵とマリー様を信じてみようと殿下に言う。

「私たちの秘密、この3人にも共有しませんか?」

読了ありがとうございました。

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