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眼前の悪霊は2人に考える時間を与えなかった。
体格に似合わない俊敏な動きで、玲香と凶子に突進してくる。
突き出した広刃の剣が2人の首を一気にはねようと唸りをあげた。
「「ひーー!」」
今度こそ、もうお仕舞だと勇次と弥生が両手で顔を覆う。
その瞬間。
突如、投げ込まれたデッキブラシが、王の剣の切っ先に激突した。
狂える刃は後方へ弾かれ、玲香と凶子の首をはね損なう。
クルクルと回転したブラシが、その持ち主の元に返った。
メイド服姿の少女が右手でパシッと受け止める。
「オッス。オラ、冥土ちゃん」
赤味がかった髪の少女が名乗った。
「あ、あなたは!」
弥生のテンションがアップする。
「し、知っているのか、新!?」と勇次。
「霊式特殊清掃人の冥土雅さんですよ! ヨーロッパの古城には怨霊や地縛霊が多いため、霊式清掃術が産まれたんです!」
「お前、詳しすぎじゃね?」
「柊さんが知らなすぎですよ!」
2人の騒ぎを他所に、玲香と凶子が雅に駆け寄った。
「雅さん、自分のことオラって…」
「オラはオラだ。細けぇことは気にすんな!」
「そ、そうですね…とにかく助かりました」
「すまねぇ」
凶子も頭を下げる。
「線が雑だったり、ベタ塗りだったり、ブラシゆがんでるけど、あいつを倒すぞ」
「え!? 何の話ですか!? 最後しか分かりません」
「細けぇことは気にすんな!」
「そ、そうですか…とにかく、3人で協力しましょう」
雅と凶子が頷く。
「オラに合わせろ!」
「よっしゃーーー!」
「ちょっ、いきなり!?」
雅がバウムクーヘン王に突撃し、すぐ後ろに凶子が続く。
玲香は慌てて護符を2枚、構えた。
「バカ者どもめが!」
王の大剣が、接近する2人を横なぎに斬りつける。
雅はジャンプして、その攻撃をかわした。
残った凶子は回避せず、その場で渾身の右ストレートを剣に打ち込む。
飛んできた護符の1枚が凶子の右拳を包んだ。
玲香の霊力によってパンチが強化される。
「仏潰す!」
高速のコークスクリューブローが、王の刃を粉々に破壊した。
「な、何ぃ!?」
驚いたバウムクーヘン王の動きが一瞬、停止する。
「ほああぁぁぁ!」
その隙を見逃さず、空中から雅が落下してきた。
右手のデッキブラシが唸りをあげ、振り下ろされる。
玲香のもう1枚の護符が、ブラシの頭を包み込んだ。
こちらも攻撃の威力を増幅した。
「部屋を清めよ! 天使が立ち寄れるように!」
雅が叫ぶ。
「はぅっ! それはS・デッサウのお掃除格言!」
弥生が興奮する。
「S・デッサウって誰だよ!?」と勇次。
「よく知りません!」
「ズコーーー!」
気合と共に激突したデッキブラシは輝く王冠もろとも、王の髑髏を粉砕した。
「ぐあああぁぁぁーーー!」
悪霊の全身が、あっという間に霧散していく。
着地した雅に、玲香と凶子が駆け寄った。
「やりましたね!」
「やべぇ勝負だったぜ」
雅が無言で頷く。
「それにしても…デタラメな威力ですね、雅さんのブラシ」
凶子の拳とデッキブラシに付いた護符を回収した玲香が呆れた。
「ブラシはブラシだ。細けぇことは気にすんな!」
「そ…そうですね。除霊できたから良しとします」
「腹減ったから、何か食いに行こうぜ!」
「オラ、賛成!」
「わたしも、ご一緒します」
3人はペチャクチャと喋りつつ、部屋から出ていった。
勇次と弥生だけが取り残される。
「ふー。何とか助かりましたね」
弥生が、額の冷や汗を拭う。
「そうだな………あーー!」
突然、勇次が大声を出した。
「わ! ど、ど、どうしました!?」
「王冠がーー!」
雅のデッキブラシで破壊された王冠を勇次が拾い上げる。
もはや修復不可能なレベルであった。
「これは依頼主に怒られるぞ…始末書…いや、下手すりゃクビになるかも!」
「ええーー! いやーー!」
2人の絶望の叫びは、並んで屋敷を出ていく3人娘たちには届かない。
「何、食う?」
「オラ、寿司食いてぇぞ」
「雅さん、その格好で和食ですか?」
「細けぇことは気にすんな!」
「そ、そうですね…じゃあ、回転寿司にしますか?」
「「すっしっ、すっしっ!」」
この時はまだ誰も、後に彼女たちが「退魔3人娘」として名を馳せるなど、想像もしていないのであった。
「ところで、お2人はお金は持ってますよね?」
「すまねぇ! 今月、バイトのシフト少なくて金欠だぜ」
「細けぇことは気にすんな!」
「ちょっ、ちょっとー!」
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)
大感謝です\(^o^)/
ご許可をいただきました、たまりんさん、ホントにありがとうございました(≧▽≦)