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「「ひえー!」」
勇次と弥生が、ひしと抱き合って怯える。
鎧たちから発散される邪気の強さに、腰が抜けてしまっていた。
玲香は冷静さを失わず、落ち着いて両手に2枚の護符を構える。
その刹那。
「おりゃあぁぁーーーー!」
叫びと共に、ものすごい勢いで飛び込んできたセーラー服姿の娘の猛烈な右ストレートが、先頭の甲冑の胸に叩き込まれた。
激しい打突音を響かせ、壁へとぶっ飛ばす。
衝撃で禍々しい鎧は粉々に砕け散った。
「ふおぉぉぉ」
セーラー服の少女が、大きく息を吐く。
黒髪のロングヘアーが僅かに揺れた。
「あ、あなたは!」
弥生が口を開いた。
「ええ!? この娘も有名なの!?」と勇次。
「握るは護符か正拳か。剛腕JK、荒鬼凶子さんですよ!」
「そ、そうなのか…」
「もうー! 柊さん、業界に疎すぎですよ!」
弥生が頬をプクッと膨らませる。
残った甲冑たちと向かい合う凶子の背後に玲香が立った。
「凶子さん、協力しましょう」
「どりゃああぁぁーーー!」
凶子が突進し、5体の悪霊に次々と強力な左右のコンビネーションパンチを浴びせる。
全ての敵が、瞬く間に破壊された。
「ちょっ…霊力じゃなくて素の打撃で倒してませんか?」
玲香が呆れる。
凶子がパンパンと両手のホコリを落とし「さあ、次は親玉だね」とコレクションルームに歩きだした。
玲香も慌てて、後に続く。
部屋の中ではフォン・パッパ・バウムクーヘン王の冠が、中世の王の衣服に身を包んだ体格の良いガイコツの頭上で、まばゆく輝いていた。
この悪霊こそ誰あろう、バウムクーヘン王、その人である。
全身から放たれるすさまじい邪気が、天井の高い室内に充満していた。
強力な負のオーラに、さすがの玲香と凶子も表情を曇らせる。
「こいつは…ちょいと骨が折れそうだね。相手が骨だけに」
「…よく、そんな冗談言えますね」
玲香が、またも呆れる。
「凶子さん、今度はちゃんと連携しましょう。さもないと…」
「分かったよ」
敵の尋常ならざる実力を2人とも、ひと眼で見抜いている。
「あたいが突っ込むから、サポートよろしく」
「あ、あたいって…了解です」
玲香が護符を構える。
アイコンタクトを交わした凶子が右手を振りかぶり、悪霊へと突撃した。
「ん?」
バウムクーヘン王の眼球のない暗穴の双眸が、凶子に向けられた。
「我に逆らうつもりか…この愚か者めが!」
腰の大剣を抜き、凶子に斬りかかった。
凶子はその攻撃には眼もくれない。
王を目がけて、最短最速で突っ込むのみ。
王の剣の刃が凶子の首をはねる寸前。
玲香の両手から飛んだ2枚の札が、斬撃を甲高い金属音と共に受け止めた。
「おお!?」
戸惑う王の懐に凶子が肉迫する。
「くらえ!」
凶子の咆吼。
「仏潰し!」
高速の猛烈な右フックがバウムクーヘン王の顔面に叩き込まれる。
「「やったーー!」」
2人についてコレクションルームに入ってきた勇次と弥生が抱き合って喜ぶ。
「フフフフ」
低音の笑いが響いた。
凶子の渾身の一撃を受けた王のしゃれこうべが、カタカタと顎を鳴らす。
白い髑髏には、傷ひとつ付いていなかった。
「ぐっ」
凶子が片膝を突く。
「あたいのパンチが、まるで効かないなんて…」
「余への非礼は命で償ってもらう!」
斬撃を受け止めた護符を弾き飛ばし、再び凶子の首へ剣をなぎ払う。
「危ない!」
玲香の両手から飛んだ新たな札が、今度は凶子の背に貼り付き、後方へ引っ張った。
王の刃は、すれすれで空を切る。
「すまねぇ」
凶子が玲香に謝った。
「気にしないで。それより」
2人がバウムクーヘン王を見つめる。
「どうやって、こいつを除霊するかです」
「こうなったら、あたいが捨て身で…」
「ダメ! 何か他の方法を考えないと…」