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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

これはとある世界の噺

作者: ポコ太

 

 ピオネッタ。



 ピオネッタ・ラ・レストリアそれが私の名前でもあった・・・いえ、今はただの名無しの罪人。


 何故、罪人になったかと言うと。




 私の腹違いの兄であるレオン・ラ・レストリアを殺害しようとした罪に問われていたからだ。兄を殺そうとした事実は無い。






「罪人ピオネッタは王太子でもあるレオン殿下に毒を盛るって殺害しようとした罪・婚約者であられるフィオーネ侯爵令嬢への度重なる嫌がらせによる精神苦痛をさせた罪は重たいっ!」


「毒物は罪人ピオネッタの寝室にあるベッドの下に隠されていた。証人は侍女のマーサ」


「嫌がらせはフィオーネ侯爵令嬢からの告発」




 ああっ!あああっ!


 そんなっ



 わたくしはお兄さまを殺そうとした事も!フィオーネ様を嫌がらせをした事も無いっ!!

 あの日はいつも通りお兄さまとのティータイムで、侍女のマーサの実家から『隣国から取り寄せた茶葉』を使って紅茶を飲んでいただけ。

お兄さまが紅茶に口を付け、少し飲んだら急に真っ赤な血を吐きそのまま倒れてしまったのだ。


 違う違う!と何度も首を横へと振るが執行人達はそれを無視して続ける。曰く、狂った嫉妬によって行った犯行だと。

 弁明の隙もなく執行人達がただ言葉を進めて行き、周りの壇上には白い目線や突き刺さる様に汚物の如く見つめる観客。








「「「よって、罪人ピオネッタ」」」








「「「その者を北の離宮へ生涯幽閉にするっ」」」

















 北の離宮。



 そこは罪を犯した王族が押し込められた場所。


 食事は一日に2回。固いパンと残り滓が浮かんだ野菜スープと生温い水が運ばれて来る。湯浴みはさせてもらえるが、外に出される事は一生無い。

 ピオネッタは格子窓の向こうにある本宮を見つめながら祈った。



(お兄さまが早く良くなります様に…)






 幽閉されて何ヶ月経ったかしれないが突然離宮が騒めく。なんとフィオーネがこの離宮に来たというのだ。驚くピオネッタだったが、すぐさま自身で身支度をしてフィオーネが居るだろう応接室に向かう。


「ピオネッタっ!」



「フィオーネ・・さま」


「ごめんなさいピオネッタ!宰相と皇弟殿下に脅されてピオネッタが私に虐めたと嘘を言う様に言われたのっ」


 ぽろぽろとエメラルド色の瞳から大粒の涙を流しながら謝るピオネッタ。こんなにも感情を露わにしたフィオーネの様子に初めて見たピオネッタだった。彼女はこのレストリア皇国で一番の淑女と言われるほどの人物。

 二人はたわいもない話をしながら兄であるレオンが未だにベッドに臥せていると伝えられ顔を真っ青にさせる。

 誰がお兄さまに毒を盛ったの?まさか・・・


 マーサが。



「大丈夫、きっと無実が証明されます」


「っ!」


「それに、ピオネッタ。顔色が悪いと聞いたから東国から取り寄せた茶葉を使った紅茶を飲んでみる?私が絶対にこの離宮から出してあげるわ」


「あ、ありがとう御座います・・・」


「ふふっ良かった・・アグニスの謹慎も解けそうだし、あとはレオン様が目を覚ますのみね」


「アグニスさま(小声)」

 ボソッ




 思い浮かぶのは夜の神“エニス”が纏う黒曜の髪に、彼を見つめると吸い込まれそうなピジョンブラッドの瞳。まるで彼から滴り落ちる血の様に。

 アグニスはお兄さまの護衛騎士でもあり、この国の忌まわしき楔でもある人造人間ホムンクルスだ。

 彼は私と違う。

 何故なら自然の理から生まれたのではなく、人の手によって生まれた禁忌な存在。


 数百年前にとある錬金術師が産み出したとされている。


 元々は愛する娘を熱病で亡くし、失意のどん底から悪魔の囁きで偶然にも【賢者の石】と【星々の契約魔法】を創り出す。

 賢者の石を使って娘を甦らせるが、娘は娘では無かった。何故ならこのモノには心が無い。その後、賢者の石と星々の契約魔法はいつの頃かこの国“レストリア皇国”に流れ着き今に成り立っている。

 我が国では賢者の石と星々の契約魔法は皇宮の奥深くに厳重にされて、代々皇族の血を引く者のみしか見ることが出来ない。らしい…

 そんな私も皇族の血を引いているが卑しい身分という理由で父上…皇王からダメ出しを喰らう。



「フィオーネさま、お持ち致しました」


 スタスタと現れたのはフィオーネに付いているお付きの侍女。希少な茶葉を使ってピオネッタの為に紅茶を淹れてきたのだ。

 高価なティーカップに薄らと桃色の紅茶の中に浮かべられているのはティフの花で侍女がそれぞれピオネッタとフィオーネの前に置かれる。

 ふわりと優しく漂う甘い香り。




「ありがとうテテラ。さぁ・・・どうぞ」



 ゾワッーーー…


 フィオーネのその笑顔が何故かゾッとした。

 どうしてそう思ったのだろう。

 辺りを見渡すが、ニコニコと微笑ましくしているフィオーネと黙って主人の様子を見ている侍女と従者。それに。

 彼女の護衛騎士である人造人間ホムンクルス。名をディオス。茶色の髪と瞳をして爽やかそうな表情は無く、変わりに悲しそうな表情を一瞬見せたがまた戻る。


(ん?どうしたんだろう・・・ディオスさま、いつもだと微笑みながら私にお菓子を渡してくれるのに)



 侍女が用意してくれたティーカップを手に取り、そっと口に運ぶピオネッタ。先程の匂いが更に濃くなる。甘く、甘く・・・思考を鈍らせる。

 コクッーー


「この茶葉はね、面白い特性があるの。ティフの花を入れてお湯を注ぐとあまぁ〜い匂いがするの、嗅ぐとまるで中毒になるみたいに」


(フィオーネ・・・さ、ま?)



「次にこれらを合わせると・・・・・ふふっ。それを摂取した者はどうなるかしら」


 フィオーネはティーカップを持ち、パシャリと絨毯に零すように茶を流し手を離すと“パリンッ!!”と破損。





 頭が、ぼんやりする。


 掠れゆく瞳に映るフィオーネさまの姿は…



 ニンマリと唇を三日月の弧描くようにしてエメラルドの瞳は見下すような冷たい目線で私を見る。





「口にした者はっ!苦しみながら毒に冒され、ゆっくり。ゆっくりと死にゆくのですわぁッ!!アッハハハハハハハハハァ!」





 ガダンッーーー!!!


 座っていた椅子を勢いよく立ち上がるとそのまま椅子は倒れ、したにも関わらず周りの人達は無の状況。

 ピオネッタの額からは大粒の汗を流しながら段々と息が苦しくなってゆく。心臓の音も煩い。ハァ…と、重々しく酸素を吸い込もうとすると頭痛がしてきた。


「フィ、オ・・・ネさ」


「・・・汚い手で触るな」

 バシンッ!


 フィオーネに助けてもらおうと手を伸ばす。しかしその手は最も簡単に跳ね除けた。ギロリと睨み、触れられたレースの手袋を脱ぎ侍女に渡し捨てるように指示を出す。懐から美しい装飾をした扇子を取り出し口元を隠すフィオーネ。

 彼女が言うには。



 ピオネッタの母親は身分が低かった。


 母親のリファは何処にでもいる平民の娘。だが彼女の美貌は周りの男達を虜にし、他の女達はそれに負けないように美しくなろうと努力するほどに。

 たまたま『星華祭』で街中がお祭り騒ぎで身分を隠してお忍びて訪れていた皇王(当時は皇太子)と母親が恋に落ちて生まれたのが私。

 貴族は血を重んじる。

 貴族は貴族と結婚して子を授かる。それを一番高貴な血筋と平民の血筋から生まれた私生児ピオネッタは貴族からは爪弾きにされていた。

 頼りの父親、皇王はその様子を静観し。皇妃は怒り狂ってピオネッタを蔑ろにしていた。唯一の味方は腹違いの兄でレオンとレオンの護衛騎士アグニス、そして婚約者のフィオーネと侍女のマーサは違った。


 違った筈だった。



 それ・・・・・なのにぃっ。


 ギリリッ。と、歯を食いしばりながら何とか視線を上に向けようとするがピオネッタの視界は霞んでいた。




「やぁ〜っとくだらないお友だち“ごっこ”も終わりだわ。レオン様もどうしてこんな卑しい子に優しかったのかしら?それに・・・・・アグニス」


 アグニスと呼ばれた際に体全身に鳥肌が立った。

 ピオネッタは瞳が霞んでフィオーネの様子が分からなかったが、周りの者から見たら彼女の顔は悪魔そのものだった。

 ふ、ふふふふふっと低音を出しながら。


「人造人間って目麗しいのが多いけど、アグニスは格段に違うわね。本来であれば私の様な高貴な者に付けるのが当たり前な事を・・・あの男はっ!」


 ミシリと何かが折れる音。

 フィオーネが持っていた扇子の芯が折れたのだ。




「あろう事かあの男!私が指名する前に自分からお・・に志願したそうではないか!な・ぜ!身分が低く卑しいお前がっ!」

 ガッ!ゴッ!ドガッ!!



 我を忘れたのかフィオーネはハイヒールを履いた足でピオネッタを蹴り続けた。それを止めようとする者は居なかったが一人、ディオスは涙目になりながら大きな体を震わせ青白い顔を。

 ピオネッタは体を守ろうと丸くなりながら耐える。


 ハァ・・ハァハァッ・・・・・


 荒い息が終わり冷静になったのかフィオーネはクルリと踵を返し、ドアの近くまで歩いてピオネッタに微笑みかけ。




「あとはレオン様さえ崩御すれば、この国で次に継承権があるのはこのっ『フィオーネ・ルラ・トレーシー』で皇国初の女皇になるのよ!そして、あのお堅い・・・ああぁっアグニスを組み敷く事が出来る///」


 まるで初恋した様に頬を染めるフィオーネ。

 応接室に残されたのは、余命幾ばくも無いピオネッタと泣き腫らしているディオス。

 ディオスは恐る恐るピオネッタを抱き上げ近くのソファーに寝かせ、ぴとりと頬に大きな手を当てて懺悔の言葉を交わす。


 彼を安心させる様に“私は大丈夫、です”と、最後の力を振り絞って微笑んだ。


 ピオネッタとディオスが交わした最後となる。










 レオンの護衛騎士でもあったアグニスは皇宮の地下にある監獄迷宮塔にて身柄が拘束されていた。

 それが数ヶ月後、やっとの事で地上に出された事は愛しい愛しいピオネッタの冤罪が晴れたのだとこの時思っていアグニス。

 とりあえず主人であるレオンの元へ向かうとすると服装と容姿からみて近衛騎士団がアグニスの周りを囲う。


「なんだ、お前ら」



「護衛騎士団所属のアグニスだな」


「女皇がお呼びだ。直ぐに正装服・・・に着替えよ」


 何故正装服を?

 それと団員が言っていた女皇とは・・・と考えながら彼らに促されるままアグニスは着替え部屋へ。

 そこでは既に侍女達が待ち構えておりあれよあれよと正装に。

 周りの女性陣達は“ほぅ”とため息をはきながら頬を染める。アグニスは気持ちが悪いと思った、この姿を見てもらいたいのは世界にただ一人だけ。

 アグニスの脳裏に浮かぶのは此方に笑顔を向けながら手を差し伸ばして、花が舞ってる中で美しい銀色の髪と・・・




『アグニスっ』











「今・・・なん、と」


 美しい顔が瞬時に青白くなりギュッと拳を握り締めながら前に座っている女性、女皇フィオーネが足組みをしながらアグニスを見下ろしていた。

 自身がこれまで見てきたフィオーネの姿と全く違っていた。彼女は大人しめの服装に装飾を付け、それが今目の前にいるフィオーネは茜色をした髪を引き立てるかの様な紫の色をしたなんともセクシーなドレスに大粒の宝石などが散りばめられた装飾品。

 極め付けはフィオーネの頭には王冠を模した様なティアラが添えられて。


「あら聞いていなかったの?貴方の護衛対象を夫のレオンからぁ、私に変更するのよ」


 礼をしているアグニスの靴周りに複雑かつ高度な魔法陣が幾重にもぼんやりとした光を放ち、そこを動こうとするが体から力が抜ける様にペタリと豪華な大理石に添えられた絨毯の上に跪いてしまう。

 体が逆らえない。



「ぐっ・・・ぅ、」


「強情だこと。でもね・・・あの卑しい子にもしもの事があったらどうします?」


 ピクッ

「ピオネ・・に、何を・・・したっ」


「アグニス。貴方が、ただ私の言う事を聞いていればあの卑しい子には手を出さないわ・・きっと」


 王座から離れてフィオーネは地に跪いて苦しそうにしているアグニスに、ほっそりとした手荒れの知らない綺麗な手を頬に添え唇を耳元に近づけ小さく囁く。



 これは悪魔の言葉。



 だが、俺にはーーーーーーーーッ!!





『アグニス』


「ねぇ・・・アグニス」


 ピオネッタとフィオーネの声が重なり、アグニスを惑わせる。自身の言葉一つでフィオーネの機嫌を損ね、ピオネッタに危害を加えるかもしれない。我々、人造人間ホムンクルス達に普通に接してくれた優しくてとても繊細で・・・・・俺の大切な。


 人造人間ホムンクルス、アグニスに無い筈のナニかが心でゆらりと揺めき始めた。



 ……………………………



 ……………………



 ……………







 これで呼ばれたのは何日目なのだろう。


 フィオーネによる脅迫という悪魔の言葉にアグニスは抵抗虚しく主人であるレオンの護衛対象から彼女になってしまう。そして今現在彼がいる所は。

 歴代の皇妃が住うある寝屋、大きな大きな天幕付きのベッドで上半身裸のアグニスと横でスヤスヤ眠っている茜色の綺麗な髪をした女性が柔らかな絹布を纏っていた。明らかに事後。


 アグニスに夜伽を毎晩命じられていた。


 フィオーネに命じられたのは主に【護衛対象変更】と【夜伽】を言われていたから。

 これが始まってからは一度もピオネッタに会っていない。会おうとするとフィオーネからの脅しを言われグッと耐えながら彼女と共に行動をする。

 アグニスの心の中はピオネッタしか居なかった。

 夜伽を命じられ相手にする際、アグニスは一糸纏わぬフィオーネに嫌悪感を抱く。


(ピオネッタさま、貴女にお会いしたいです。会ってその笑みを俺だけに向けこの汚い体を綺麗にしてほしいっ)



 ある日、フィオーネの護衛騎士としていつもの通り後ろに控えていると前の方から別の護衛騎士が歩いてきた。少しフラフラしながらまるで生気が無いような。フと視線があったかのように見えたらその人物は以前フィオーネの護衛騎士に任命されていたディオス。

 声を掛けようとしたが彼は此方を見ると手で口を塞ぎながら道に逸れてしまう。彼は誰の護衛騎士になったのだろう。そう思いながらこの時は特に気にもせずアグニスとディオスはすれ違った。


 狂った歯車が軋みだす。




「アグニスさん、ですね?」


「お前は近衛騎士団のロウ、か」


 偶々、フィオーネから離れられて少し一息ついているアグニスの元に人影が見え視線をそちらに移すと頭の上にピコピコと動く耳にゆらりと細長い尻尾が揺れ動く。

 アグニスの目の前に現れたのは近衛騎士団を纏めている団長で獣人族のロウだった。因みに護衛騎士団を纏めているのはアグニスである。


「はい。やっとお会いする事が出来ました・・・貴方に伝えなくてはならない残酷な事が御座います」









 ピオネッタの死




 レオン殿下・・が植物状態








 ロウから伝えられた言葉にアグニスは時を止めたかの様に動かなくなり。そして。


 ビシリッーーー

 と、アグニスの心の中でナニかがヒビ割れる音が。

この作品ですが本当は連載しようかなぁ〜と思っていたのですが、暫く置きすぎたので挫折する事に。

なので彼女らがどうなるかは読者さまのご想像にお任せ致します・・・

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