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18、無力なフォーセ

 だが、カンナもフォーセの気持ちが分からない訳では無かった。


 目の前に自分が守るべき相手がいる。だから助けに行く。英雄的思考ではあるが、何かと責任が重い皇族であるのなら尚更、助けに行かねばならない、そう考えるのが自然であろう。だが、この目の前で起きている惨事は決して金や権力ではどうにもならず、もっと直接的な力が必要だという事が彼女にはまだ分からなかったようだ。


 英雄的行動を取るなら、英雄に勝るとも劣らない力を付けるべし。さもなければ、ただ、死体を増やすのみである。


 師匠が昔、こんなことを言っていた気がする。自分自身、特に英雄志望の人間ではもともと無かったが『雷霆』として英雄に祭り上げられた前後関係なく、否が応でもその現実を突き付けられ続けた。あともう一歩、もう一声で助けられる、というところで目の前で死んでいく仲間を、バン・マリでの傭兵時代に嫌という程見てきた。それこそ、夢にも出てくるほどに。


 初めのうちは、自分の非力さを嘆いた。ああどうしてこんなにも俺は弱いのかと、どうしてもっと鍛錬に励まなかったのだろうかと、とにかく自身の力不足に腹を立てた。だから鍛錬に励んだ。もう自分の傍にいる人間が居なくならないように。


 そうしていくうちに―――この詠唱を必要としない特異体質のおかげもあり―――高位の冒険者パーティですら苦戦を強いられる魔物や、それなりに悪名が知れ渡っている盗賊山賊団相手にも、単騎で挑み勝利という結果を持ち帰られるほどに成長することが出来た。しかしながら、その努力を以てしても、眼前の大切な人々を失わなくなるまでには至らなかった。


 それからはもう、嘆くことを止めた。それは自信から来たものではなく、どれだけ頑張っても手が届かないモノがあると悟ったからだ。


 今無我夢中で後先考えずに駆け、自分が救うべき、救いたい人間のもとに向かっているフォーセの背中が、カンナがまだ人を守るのがどれほど大変かを知る前の姿と重なって見えた。考えもなしにただ駆け寄って助けられる命ばかりなら、苦労はない。だが、彼女はそれを理解できていない。それもそのはず、目の前で人命が危機にさらされているのを、今までお城暮らしだったお嬢様が目の当たりにすることなど無かったのだから……


 カンナはそんなフォーセに対して、境遇的に仕方ないとはいえ呆れていた。力を持たない一人の少女が何もできずに、その上自分の身を危険にさらすというのは愚かなことだとわかっているから。だが、心のほんの隅で彼女に期待を寄せていた。


城を出た後から―――その前からこうだったかはわからないが―――フォーセの周りには『幸運』が渦巻いていると感じていた。日中城下町で偶然声を掛けられあの商人と出会い、その夜にルコウが瀕死の重傷を負った際に偶々近くを通りかかった彼に助けられた。その後も病院を紹介してもらい、なんと診察、入院費はタダでいい、そういうことになっていた。陽光隠しの森でグリズリーに襲われていた時も間一髪助けが間に合い、運良く徹夜鳥も発見できた。


 どうせまぐれだろう、そう考えたが、どうしてもそういう『幸運の運命』の恩寵を賜っている、そんな感覚を拭いきれなかった。


 「ちっ、今はそんなことどうでもいい」


 頭を振って雑念を払う。


 「とにかくクライアントの身に何か起こったらまずい。まだ村内の状況がどうなってるか全くわからないけど、仕方ないか……」


既にかなり小さくなってしまったフォーセの背中を追い、轟々と火の手が上がるフットヒルの村へ向かう。



 村に入ったときには既にフォーセの姿が無く、中央に進むにつれて体にはっきりと熱波を感じられ、その火災が単なる人災ではないことを決定づけるように、空気中に魔力が迸った形跡が見受けられた。


 「こいつは……想像以上にやばいことになってるな……」


 熱風が顔に当たるのを手で遮りながら、周辺を見回す。今にも燃え落ちそうな民家に、地面には幾つもの村人だったものが転がっていた。その中に金髪の少女が混ざっていないことにとりあえずの安心を覚える。


 うつ伏せになっているそれの内の一つに近づいて膝をつき、仰向けにさせどのような状態かを確認する。


 「ん?焼死……じゃないな。煙の吸い過ぎだとしたらもっと服が煤だらけでもいいだろうし……やけに顔色が悪いな……」


 近くにある他の死体の顔も良く見ると蒼白で、服からのぞく手や首もいやに青白い。


 「それになんだ?この首元の……噛んだ後みたいなのは……!?」


 これじゃあまるで、あのオカルトの……!!


 背筋が凍り全身から冷や汗が滝のように流れ出すほどの悪寒が走ったところで、村の中心部から轟音が鳴り響く。


 「ちっくしょ、ビビってる場合じゃないか……!」


 悪寒で固まった太腿を手で叩き、活を入れ立ち上がる。


 「お姫様も早く見つけないと、こいつらが動き始めたら危ない……!」


 駆け足で音源の方向へ向かうカンナの後ろの死体の幾つかが、まるで痙攣しているかのような動きをし始めたのを彼はまだ知らなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「どこか、どこかにまだ息のある人は……!」


 呼吸は乱れ、喉に血の味が滲むほどフォーセの心肺は既に限界近かったが、一人でも多くの命を救いたい、そういう思いが彼女の身体を突き動かしていた。


 「傷つく人をもう目の前で見たくない……!」


 彼女の脳裏では倒れている村人達と、城下町を出た際に黒装束の集団に襲われ倒れたルコウとカンナを知らず知らずのうちに重ね合わせていた。


 フォーセは幼少の頃から皇族としての役割や振舞い、必要な知識、情報などを教えられてきた。その中でも“力有るものは、弱きに手を差し伸べ救うべき”という教えを強く言われて育ってきた。事実、“力有るもの”として真なる敵を打倒するために城を飛び出し―――目的地とは別方向ではあるが―――ここまで離れた場所まで来た。しかしながら、自分の力ではどうにもならない現実の“力”を外に出てすぐに思い知らされ、意気消沈した。だがそれでも、まだ自分にできることがあるのではないか―――そうポジティブに思考を切り替えた。いや、切り替えさせてもらった。


しかし、眼前に広がる紅蓮地獄を目の当たりにして、その切り替えられた思考は見事に打ち砕かれそうになっていた。


 (私の力では、誰も救えないの……?)


 国内では、「歴代皇族で最も才がある」だとか「智の妹君と武の兄君」とか呼ばれていた。もちろんそれは誇りに思っていたが、その事に慢心せずに日々勉学に励んでいた。だが心のどこかで『自分は勉強さえ出来れば大丈夫』と弛緩した思いを抱いていたのかもしれない。それを裏付けるかのように自身の学習遍歴を振り返ると、知識を蓄える座学ばかりで、魔法の理論は分かるが扱う練習はせず、剣の持ち方構え方は思い浮かぶが、実際に持ったことは今までで一回あるか無いかだろう。


 それなのに、どうして自分は“力有るもの”側の人間だと思いあがってしまったのだろう。あると思い込んでいた力は立場に依るものだということに何故気づけなかったのだろう。


 フォーセはそんな愚かな自身に苛立ち、これまでの安直な生き方を恥じた。


 「なんでカンナはこの人たちを助けようとはしてくれなかったの……あの人がすぐに行動を起こせば、ここに倒れている人全員助かったかもしれないのに……!」


 悠長なことを彼が言わなければ確かに、ここの人間の大半は助かっていただろう。しかし、こんなのが八つ当たりなのは本人も重々承知している。でも自分とは違い、間違いなく助けられる力を持つ者が即座に救いの手を差し伸べないのが理解できなかった。だからこそ、カンナに対する悪態が口を衝いて出てしまった。


 「やっぱり、ただの金で雇われた傭兵だった。ということだったのですね……」


 陽光隠しの森では颯爽と助けに来て救い出してくれた。彼のそんな行動を傍で見てきて「ああ、この人は私の味方で、この人と居れば自分は安心できる」そう評価していた。でも、それは勘違いだったのかもしれない。彼はあくまで仕事として私を守り、目的地に着いたらそこで契約終了。それ以降は他人だ。そんな男に根拠の欠片もない信頼を寄せていたなんて馬鹿馬鹿しい。


 だが、そう考えれば考えるほど腑に落ちない事が一つある。


 (なんでルコウが大火傷を負ったときはあんなにも怒ったの?)


 フォーセ自身が傷付き、報酬が貰えなくなることに焦り憤慨するならまだわかる。しかし、彼にとってルコウが生きようが死のうが―――任務遂行の効率を無視するのならば―――関係ないはず。それなのにもかかわらず、カンナは自分の肉体への負担を顧みず怒った。ルコウに好意を寄せていたとなれば理解出来なくもないが、あの短期間でそこまで関係を深められるとは考えにくいし、そういった素振りも見受けられなかった。そも、ここに来るのもルコウを助ける為であって、依頼に直結する問題ではない。しかし、彼は文句の一つも言わずについてきた。


 (なぜ?カンナは一体どうしてここまで来たの……?)


 走り疲れて立ち尽くし、呼吸を整えながら朱く染まった空を仰ぐ。息を吸うたびに熱い空気が肺を満たし、煙が鼻を刺す。


 その時フォーセの耳に何か、うめきの様なものが確かに聞こえた。


 「!子供の泣き声……!?」


 この絶望的な状況に、一筋の光が差す。


 「私にも、まだ助けられる人が……!」


 先程までの無力感が少しだけ薄まり、心が高揚するのが分かる。


 その声のする方向へ一直線に、村の中心部へと向かう。より激しく燃え崩れている民家や目を覆いたくなるほどの量の死体が転がっている光景が、駆けるフォーセの目端に留まっては、後方に流れて行く。


 「どこにいるの!いたら返事をして!」


 その声のする近くまで来て、火の海と形容するにふさわしい光景を見回す。その目に動く影が入る。


 「見つけた……!ねえ、君、だいじょう……ぶ……」


 その惨い現実に、言葉を失う。


 男の子―――年齢はまだ五、六歳程―――が、亡骸を必死に揺さぶっている。それはこの火災の影響だろうか、全身が焼けただれてしまっていて最早どのような顔だったか想像もできない。「お母さん、お母さん……!」と、その子に揺らされている体は、誰がどう見ても既に息絶えている。


 「こんなことって……」


 私はなんて浅はかな人間なのだろうか。声が聞こえて、その人だけは自分の力だけでも救えるのではないか、そう思っていた。しかし、この子をここで救えても、真の意味で救えた事にはならないと、今この瞬間に悟った。


 (この子の命は助けられても、一生親を亡くした傷を負って生きなければいけないなんて……!)


 思わず拳に力が入る。もっと早く来ていれば母子ともに助けられたかもしれないと悔いる一方で、自分が来てもどうしようもできなかっただろうと、どこか諦めた心の間隙に冷涼な風が通ってゆく。


 そう無力感に苛まれていた時、近くで地面を割るほどの轟音が鳴り響き思考のループからフォーセを引っ張り上げる。


 「ハッ……いけない、兎に角今はせめてこの子だけでも守り抜かなければ……!」


 そもそも何故村がこのような惨事に陥っているのかさえ分からない。だがしかし、この場にとどまり続けるのは危ない。後から来ているであろうカンナが目星をつけていれば良いが、今は自分が出来ることをしなければ……!


 「君、ここはもう危険だよ。お姉さんと一緒にどこか安全なところに避難しましょう!」


 力強く、その子を勇気づけるように意識して言葉を掛け、腕を掴み一緒に避難しようとしたが、


 「お母さんを置いていけっていうの……?嫌だ!一緒じゃないと嫌だ!」

 「で、でも、あなたの母親は……」


 泣き腫らした目と未だ嗚咽を漏らすこの子はまだ、母親が死んでしまったという事が分からないのだろう。仮に理解していたとしても、事実を受け入れたくないのかもしれない。


 この子を助けるためには、その事実を受け入れてもらうほかないだろう。相手は子供とはいっても、非力なフォーセでは力ずくで安全な場所まで連れて行くのは不可能だ。だが、そのためには彼女の口から「お母さんはもう死んでいて、もう話すことも動くこともない」と、そう伝えなければならない。しかし、彼女はその一言を発することがどうしてもできなかった。


 (私の母が亡くなった、あの時と同じ悲しみをこの子に背負わせてもいいの……!?)


 確かに、もっと別の場面であれば直接的な表現を避けてゆっくりと理解してもらう、といったことも可能だったが、この一刻を争うときにそんな悠長にはしていられない。それはフォーセにも分かっていたが、彼女の過去の辛い経験と同じ状況下の子供の心情を汲み過ぎたがゆえに、この緊急時に判断を鈍らせた。


 「えっ、お、お母さん……?」

 「え……?」

 

 既に母親の亡骸に視線を戻していたその男の子が、喜々たる色が若干混ざった声を上げる。それにつられてフォーセも顔をそちらに向ける。


 そこには、全身を痙攣しているかのように大きく震わせて目を見開いている、母親の亡骸だったものがあった。


 (何故!?この大火傷で生きているなんてありえない……!それにこの症状……ま、まさか……!)

 

 やがて痙攣が収まり、ゆっくりと上体を起こしてその子の方を見る母に、

 

 「お母さん!良かった……もう、ずっと目を開けないから心配だったよぅ……」


 そう話しかける少年だったが、それがその子を見つめる眼差しに生気は無かった。と、次の瞬間、


 シイィィィィヤ!!


 「危ないッ!」


 間一髪だった。それが異常な事に気づいたフォーセがその子の腕を思いきり引っ張るのがあともう少しでも遅ければ、その少年は自分の母親だったモノに飛び掛かられて食い殺されていたかもしれない。その子と共に地面に倒れこむように、その攻撃を躱す。


改めてよくよくその姿を見ると口からは腐汁の様なものが垂れ常人とは思えない血管の浮きに呼吸の荒さが分かる。どうやらこの少年は気が動転してしまって、普通の人間ではありえないその様子が目に入っていなかったようだった。


 「お、お母さん……どうして、どうして……!」

 「……あれはもうあなたの良く知るお母さんではありません!あれは、もう……」


 続けようとしたが、言葉を続ける勇気がフォーセには無かった。


 「兎に角、早くここから避難しないと!」

 「え!?でも、お母さんが……!」

 「いいから!今は自分の身を優先しないと、私たちまで危険です!」


 少年を立ち上がらせ、自分も立ち上がると同時に、さっきの飛び掛かりで地面に腹ばいになっていたモノが起き上がり、こちらを睨む。


 (あれはゾンビで間違いないですね……しかし、こうなると私一人でこの子を守りながら逃げるのはかなり難しそうですね……)

 

 ゾンビ。主に動物の死体に魔力を宿らせ、並み以上の耐久力を持つ人形として使役する魔法で、闇属性魔法の応用技術として、過去の戦争で使われたこともある。が、近年においては、国家間の取り決めにおいて戦争はおろか使用すること自体を禁止する条約を結んでいて、これを破ることは即ち、近隣諸国へ喧嘩を売っているに等しい事案だ。


 だが今はそんな条約など関係なく、フォーセが一番危険視しているのは周りの死体も起き上がってくるのではないかという一点にのみ尽きる。ロクな戦闘技術も経験も無いフォーセは一体のゾンビを相手取る事でさえままならないというのに、これから起き上がってくるゾンビ達に囲まれでもしたら、そのまま肉を貪られ骨になるのがオチだ。


 そうこう考えている内にこちらを睨みつけていた、元母親のゾンビが一直線に向かってくる。


 「……私の後ろに隠れて」


 もうあのゾンビが自分の母親ではないことを悟ったのであろうか、少年は無言で頷きフォーセの後ろに隠れる。


 シイィィィィヤァ!!


 元が人間だとは思えない奇声を上げ、両腕を前に突き出した前傾姿勢でこちらに目を爛々と光らせ、人肉を食うために猛スピードで駆けてくる。


 (どうにか、この子だけでも守らないと……!)


 しかしフォーセは魔法を使えない。内流での身体強化も、外流による属性攻撃も出来ない。そのため彼女が選んだ、少年を守る方法は……


 両腕を大きく広げて、こう叫ぶ。


 「さあ!人肉を食らいたのでしょう!それならば私から食らえばいい!」


 自分をおとりにして、その間にこの子を逃がす。自分はそのまま食い殺されるかもしれない。だとしても、目の前の命を救いたい。それだけだった。


 「お、おねえちゃん……?」

 「いい、とにかくこの村から離れて、大人を探すの。大丈夫、きっといるから」


 振り返らず、迫りくるゾンビから目を離さずにそう言い放ち、少年にここから逃げるように言い聞かせる。


 「わかった……おねえちゃんも気を付けてね」

 「ええ、大丈夫です。あなたこそ、お気をつけて」


 そのまま少年はフォーセと、醜く変貌してしまった自分の母親に背を向け、走り出す。それに構うことなく、そのゾンビはフォーセに一直線に向かってくる。


 「それで、良いのです……」


 フォーセは震えていた。それは、自分がここで死んでしまうかもしれない恐怖を感じているからだ。今までは自分の死は遥か遠い事だと思っていた。それは、城を飛び出してからも暫くはそう感じていた。そう、自分には自分の身を守ってくれる誰かが居たからだ。


 でも、今この場に居るのはフォーセ一人。彼女が死ねば、恐らくこいつはあの男の子を追ってしまうだろう。そうならない為にも、ここは私一人で持ちこたえねばならない。だが……


 (怖い……死ぬのが怖い……痛いのも怖い……)


 迫る恐怖で息も乱れ、立っているのがやっとと言うほどに膝がガクガクしていた。


 (ルコウもカンナも、こんな恐怖に苛まれながら私を守っていたの……!?)


 それがどれ程凄い事か、当事者になって初めて分かった。誰かを守るという事は、自分を犠牲にしなければいけない。自分がリスクと痛みを肩代わりせねばならない。肩代わり出来るほどの余裕があれば守る側も生き延びられて、なければ死ぬ。フォーセは勿論、肩代わりする余裕があるほどの力を持ってはいなかった。


 「シイイイイィィヤァァァア!」

 「きゃあッ!」

 

 人間では考えられないほどの距離を跳躍し、フォーセに飛びつくゾンビに地面に押し倒される形で取っ組み合う。


 「シャァ!シャァァァア!」

 「イヤ!止めてッ!」


 なんとかゾンビの肩を両腕で押さえて、ぎりぎりゾンビの口に届かない距離で耐えるが、フォーセの細腕で支えられる時間はそう長くない。横目で周囲を見渡すと、死体だったものが起き上がってくるのが見え、彼女の心は絶望色に染まっていった。


 (私は守るべき側……だけど、だけど……!)


 「お願い!カンナ!助けてッ……!」


 碧い瞳から大粒の涙を流しながら、あくまで小声で、つぶやきと言っても差し支えないほどの声を発した。


 そして、その言葉に呼応するかのように、朱き空に、稲妻奔る。


 「!あれは……!」


 フォーセの心が絶望から希望に切り替わるのに最早、その青い稲光だけで十分すぎるほどだった。


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