王子さまとステッキとわたし
白い、靄の中に立っていました。
深い霧の出ている、森の中。の開けた空間です。
空間の入り口から光が差し込んで、霧に反射して世界が白く発光しています。
その光の先から、何かがやってきました。
かなり大きい…動物…そう、馬です。
馬に騎乗した人。
白馬に乗った王子さまがやってきました。
王子さまの顔は逆光になっていて、顔、表情は見えません。
白馬に乗った王子さまは少しだけ離れたところで止まり、じっとわたしをみつめています。
その時わたしは、手に何かを持っていることに気づきました。
リレーバトンみたいな太さのものです。
ピンク色をした筒の上に、星の形をしたものがくっついています。
クリスマスツリーのてっぺんにつける星みたいです。
星をぼぉっと見ていたわたしは、突然気づきました。
このリレーバトンは、変身ステッキです!
王子さまを見上げると、まだこちらを見ています。
何かを待っているようです。
わたしは近くの茂みに駆け込みました。
白馬の王子さまが待っているといえば、そう、お姫さまです。
わたしはこのステッキを使い、お姫さまに変身することにしました。
頭の上でくるくるとリレーバトン、もとい、変身ステッキを振ります。
キラキラとした光を浴びると、いつのまにかドレス姿になっていました。
スカートが大きく膨らんだ、プリンセスラインという形のドレスです。
前面にリボンがばしばしついているのがちょっと微妙ですが、気にしないことにします。
ドキドキしながら王子さまの前へと戻ります。
どうすればいいか分からないので、ぺこりとお辞儀をしてみました。
王子さまの視線は感じますが、何も言ってくれません。
これは…まさか…王子さまのお気に召さなかった…!
ちょっと待ってみて、その場でくるりとまわってもみましたが、王子さまはうんともすんとも言ってくれません。
すごすごと、茂みへと戻ります。
今度こそ立派なお姫さまへと…
実のところ、お姫さまの知識など幼稚園の頃「おひめさまぬりえ」を喜んでやっていたくらいしかありません。
幼稚園の頃のわたししか頼れるものがおらぬ…
蘇れ幼稚園のころのわたし…!
気合をいれて、ステッキを振ります。
キラキラ光る後には、今度はマーメイドラインのドレス姿になっていました。
大人の魅力、マーメイドライン。
しずしずと王子さまの元へ向かいます。
微動だにしない王子さま。
茂みへともどるわたし。
くそっ…!王子の好みはいったいどんな女なんだ!?
プリンセスラインもだめ、マーメイドラインもだめ。
正直そのふたつしか覚えていない!
お姫さまっていったい何なんだ!?
そこでわたしは気づきました。
ティアラです!!
なんということでしょう、お姫さまといったらティアラ。
そのティアラを付けるのを忘れていたのです。
わたしはホッとしました。これで王子さまも気に入ってくれるでしょう。
すっとステッキを振りかぶります。
うなれ幼稚園の頃のわたし…!!
きらきらと、光が降り注ぎます。
光を纏ったまま、茂みからゆっくりと出ていきました。
三度目のドレスは、シンプルながらも繊細な模様の入ったAライン。
そして頭の上の、しっかりとした重み。
自分でみることはできませんが、きっとドレスに合う、繊細なティアラが飾られていることでしょう。
顔を上げ、王子さまを見つめます。
今まで動かなかった王子さまの手が、動きました。
両手を上に、肩のあたりまで上げます。
そのまま肩も少し上げ、首をゆっくりと横に振りました。
馬がお尻を向け、王子さまはそのまま去っていきました。
ちくしょう。
ちくしょう




