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「エレミヤァっ」
「っ」
「エレミヤ様」
王宮内、白昼堂々と私を殺そうと一人の少女が駆け寄ってきた。
ディーノは瞬時に私を結界で覆い、ノルンとカルラが私を守るように前に立つ。その前には剣を抜いたキスリングとシュヴァリエ。
私自身も暗器に手を伸ばし、いつでも対応できるように準備をした。
けれど、少女が私たちの元に辿り着くことはなかった。彼女はどこかに潜んでいたと思われるノワールの護衛に取り押さえられたからだ。
「お怪我はございませんか?」
そのうちの一人が私の元へ来て確認をする。
ノワールの予想の範囲内で行われたことのようだ。私自身がアヘンと関係しているという噂を帳消しにする為に動いているけど、もう少し慎重になった方が良いわね。下手をするとノワールの邪魔をしてしまう。
私は暗器から手を引き、姿勢を正す。
「ええ、護衛たちがいますし、陛下の心遣いのおかげでこうして無事ですわ。ありがとう」
そう言って微笑むと彼は少し驚いた顔をした後優し気な笑みを浮かべた。
「我々は陛下の命令に従っただけですから。それに御身は何れ国母となられる。臣下としては当然のことをしたまでです」
そう彼が言うと捉えられた女が吠える。
「ふざけるなぁっ!国母となられるのはフィグネリア様よ!あんたなんか皇妃に相応しくはないわ!」
涎を垂らしながら吠える様はまるで獣。王宮内にいることと彼女の身なりから彼女が貴族であることは分かるけど、今の姿だけで見れば彼女が貴族だと言われてもくだらない冗談だと笑い飛ばしてしまいそうね。
思考が暴力に偏っているし、瞳孔も開いている。完璧な中毒者ね。
「黙れ!」
彼女を取り押さえている騎士が拘束を強めた。彼女は恐らく腕を痛めただろう。けれど、彼女に痛がる素振りはない。興奮のせいか、アヘンのせいか。痛みを感じる神経が麻痺しているのだろう。
「皇妃になるのはフィグネリア様よ。それ以外にないわ。それにフィグネリア様と陛下は愛し合っているのよ!それをお前が引き裂いた」
「世迷言を」
ノワールの側近たちは憤る。周囲にいる貴族たちからは疑惑の声が上がる。
フィグネリアはノワールの有力な婚約者候補であったことは私も知っている。私がいなければ彼女が今の私と同じ地位にいただろう。
・・・・・・フィグネリア様、ねぇ。
「あなたはフィグネリア様の為にやったの?」
「そうよ!」
少女は即答した。周囲の貴族は完全に彼女をフィグネリアの手下と認定した。この騒動の黒幕はフィグネリアだと。相手が放つ言葉を鵜呑みにする。何とも愚かなことか。
先王のせいで碌な貴族がノワールの手元には残らなかったと聞いている。けれど、これではまるで烏合の衆ではないか。
ノワールに同情する。
「フィグネリア様がそうしろと命じられたの?」
「あの方はそんなことを命令しないわ!」
「そう。でも変ねぇ」
私はこてりと首を横に傾ける。
「あなたの行動、ここで彼女の名前を出すこと。それらを踏まえて考えると、あなたの言動はフィグネリア様の首を絞めていることに等しい。フィグネリア様の為と言うけど、本当はフィグネリア様を貶めるためにやっているのではないかしら?」
「なっ」
驚愕で言葉を失う少女に私は畳みかけるように言う。
「だっておかしいじゃない。ここで彼女の名前を出すなんて。彼女に指示されたといっているようなもの」
「ちが、違う」
「ここで否定するのね。でも、それは庇っていると捉えられるのではなくて?余計にフィグネリア様に対する疑心を植え付けるだけだとおもうけど」
私の言葉に周囲は「確かに」と納得し始めた。黒幕はフィグネリアではなく別にいると周囲は思い始めている。少女は何も言えなくなってしまった。
捨て駒にするにしてもお粗末すぎる駒ね。私を殺せればラッキーだと黒幕は思ったのか。フィグネリアの名誉を傷つけて得する人間がいるのか。
フィグネリアが貶められて困るのは誰だと聞かれたら真っ先に思い浮かぶのはノワールね。彼の後見人はフィグネリアの父、コーク侯爵。
ノワールの敵は多い。先王を弑逆して玉座を奪ったのだから尚更。




