追加3
今回の買い物は全て返却となった。
番に割り当てられた費用がある。その費用からかなりオーバーしている為だ。
ユミルは「じゃあ、エレミヤ様の費用を使えばいいじゃない」と言ってきた。
この発言に商人は青ざめ、フォンティーヌは一瞬だけど思考が完全に停止していた。当事者ではあるけど今は侍女として潜入しているので第三者の視点で観させてもらうとこのバカ女が自滅していくさまがとても面白い。
「私よりもお金持ってるんでしょう。だったらいいじゃない」
「そうだな」とあっさり頷く陛下。
フォンティーヌの額には青筋が幾つもできている。
いつか血管が切れるんじゃないか。
「良くありません!それは横領です。それと、『エレミヤ様』ではなく『妃殿下』もしくは『王妃様』とお呼びください。番様、妃殿下はあなたが容易く名前を呼んでいい相手ではありません」
「どうしてよ。私はカルヴァンの番なのよ」
ユミルの言葉をフォンティーヌは忌々しそうに聞いている。よほど彼女が番であることが気に入らないようだ。分からなくもないけど。私が彼の立場ならさっさと切り捨てているもの。
「関係ありません。妃殿下はあなたよりも上の地位にいます。そこに陛下の寵愛も番も関係ありません。妃殿下はわが国の国益となる方です」
言外にユミルは国益とならないとフォンティーヌは言う。残念ながら彼女には通じていなかったようだけど。予想の範囲内だろう。
「妃殿下には番様と違って公務が存在します。その為に必要なものを買っていただく為の公費が必要です。妃殿下が公費でする買い物は娯楽ではないのです」
そう言ってフォンティーヌは出て行った。
途中、部下に私に割り当てている費用の管理を徹底させるように指示していた。王やユミルが勝手に使うことを危惧しているのだ。
私はその方が好都合だけど。
フォンティーヌの部下に案内されるようにそそくさと部屋を出て行く商人を見る。彼らは使える。
「折角のカルヴァンのプレゼントが」
と、ユミルは泣いていた。そんな彼女を陛下は痛ましそうに慰めている。何とも平和なことだ。
陛下は暫くユミルと過ごしていたけど、戻って来たフォンティーヌに無理やり連れて行かれ、執務に戻った。
陛下がいなくなった途端。ユミルは涙を引っ込めた。分かっていたけど、やっぱり嘘泣きだった。
王侯貴族なら人の機微には敏感になるし、演技を見抜く力だって必要になるけど陛下にはその力が皆無のようだ。これで外交ができるのだろうか。良いように使われるだけじゃないか。まぁ、そこはフォンティーヌやその部下がフォローしているのだろう。