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カルディアス王国は名前こそ残っているがテレイシアと帝国の属国となった。
カルヴァンは現在行方不明となっている。
帝国を訪れた帰りに何があったのかは分からない。私は何も知らされてはいない。
ユミルに捨てられ、私にも捨てられて自暴自棄になって行方をくらませたという噂がある。
でも、私は。
私と一緒に優雅に庭園を散歩するノワールを横目で見る。
「何だ?俺の顔に何かついているか?」
「いいえ」
「そうか。俺はてっきり、エレミヤが俺の顔に見惚れていると思って期待したんだが」
冗談か本気かわからないことを言うノワール。無邪気な子供のように笑う彼だけど、その本性が獰猛な獣であることを私は知っている。
だから疑わずにはいられない。彼がカルヴァンに何かしたのではないかと。
でも、聞いたところで教えてくれるはずもないし、そこは私が干渉できることでもないだろう。私の領分ではないのだ。
カルディアス王国は現在、ノワールの弟と私の二番目の姉が婚姻して治めている。
他国の王族が王位に就くことに反対はあったけど、竜カルディアス王国にカルヴァン以外の直系王族がいないことと、彼らは基本的に強さに群がるので、自分たちの武力だけではテレイシアと帝国の両方を相手取ることはできないと分かっているのでそこは簡単に諦めてくれた。
それに、私が密かに集めていた反乱軍と人手不足の為テレイシアから貸し出した人間の優秀さもあり、そこまで混乱しなかったようだ。蒔いた種が芽吹いて良かったと思う。
「エレミヤ、お前はどのような花が好きなんだ?」
「そうですね」
少し風が強くなった来たので私は靡く髪を抑えながら庭園を見つめる。
「すみれが、好きですね。小さくて、可愛いですし」
「すみれか。意外だな。薔薇とか言うと思っていた」
「もちろん、薔薇も好きですよ。でも、派手さはなくともしっかりと地面に立つ小さな花に私は心奪われるのです」
「そうか。ならば、お前専用の庭園にはたくさんのすみれを植えよう」
ノワールの言葉に私は驚いた。
「私専用の庭園があるんですか?」
私の言葉に今度はノワールが驚いた。
「当然だろう」
そっと私の頬に触れて、ノワールは優しく微笑む。普段の獰猛な獣は鳴りを潜め、そこには優し気に笑う青年が存在していた。
「すみれで埋め尽くされた庭園はきっと美しい。その時は一緒にそこでお茶でも飲もう」
「それはとても楽しそうですね」
「ああ。エレミヤ、あの時お前を見た時から俺はお前に惚れている」
「ノワール」
真っすぐに見つめてくる彼の視線が熱を帯びる。私は恥ずかしくて、俯いてしまいそうになったけど、彼の視線から目を逸らせなかった。
「だからこそ、お前を傷つけるものを俺は許さない。俺はカルヴァンとは違う。お前を傷つけはしない。愛している、エレミヤ。できたら、この先の人生もお前と共に歩みたい」
これはプロポーズだ。
正直、結婚や夫婦生活に夢や希望を持ってはいない。ただ、お互い尊敬しあえる生活が送れたらそれでいいと思っていた。
それは最初の結婚で破綻した。
それは仕方のないことだ。彼には既に運命の番がいたから。なら、私の運命の相手は・・・・。
「私は正直、よく分かりません。男女間の愛情というものは私にとっては本の中にしか存在しなくて。あなたにそう言われても実感がまだ持てません。ただ、もし叶うのならこの先もあなたと共に歩んでみたいと思います」
もし、今までのことがあなたに会うために与えられた試練だとしたら、それも悪くないと思ってしまった。その時点で、私もノワールと同じなのかもしれない。
あの時、初めて出会った時に私もあなたに恋をしたのかもしれない。もし、そうならとても素敵だと思う。
「エレミヤ、愛している」
そう言ってノワールは私に触れるだけの優しいキスをした。




