63.カルヴァン視点
どこをどう歩いたかは分からない。
エレミヤから別れを告げられてから視界がおぼろげで、帝国の騎士に先導されながら機械的に足を動かした。
「 」
何か声がする。
聞きなれた声に思わず足を止めた。
辺りを見るとそこは薄暗く、人気のない場所だった。はて、行きはこんな道を通ったかな?
行きはエレミヤを盗られたことと、離縁のことで頭に血が上った状態で案内された道をただ歩いていたので周囲を見る余裕はなく、どういう道を通ったか覚えていなかった。それにどうもこの城は入り組んでいて、現在位置が掴み取りづらい。
「おい、この道で合っているのか?」
「はい」
不愛想な男だ。
足を止めた俺に気づき、足を止めてくれたのは良い。だが、にこりともしないなんて。まぁ、男に愛想を振りまかれても気色悪いだけだがな。
「行きはこんな道を通った覚えがないぞ」
「こちらの方が近道なのです」
「では、なぜ行きにも同じ道を使わなかった」
「この城は容易く制圧されないために入り組んだ造りをしています。その為、行きにこの道を通ることはできない造りになっているのです」
「何とも面倒な城だな」
「どこの王城もそういう造りになっているはずです。わが国だけが特別ではありません」
「俺の城はこんなに面倒ではない」
「それは平和なことですね」
何となく馬鹿にされたような気がしてムカついた。
「 」
すると、また聞きなれた声が聞こえた気がした。俺は惹かれるようにその声を辿って歩き始めた。案内人である騎士はそんな俺を止めることはしなかった。
当然だ。たかが一介の騎士が俺を止められるはずがない。
「ここか」
薄暗い廊下の突き当りに部屋があった。ドアの隙間から僅かに光が漏れている。俺はノックもせずに部屋のドアを開けた。
「っ」
部屋の中には獣のように咆哮をあげる男女がいた。女の方はユミルだった。
「な、何で」
がたがたと体が震える。みしりと音を立てて握っていたドアにひびが入った。
ユミルは男に強請り。顔は嬉しそうに赤く染めていた。無理やりじゃない。彼女は望んでこの行為を受け入れている。俺以外の男で喜んでいるのだ。
「あ、あ、あ、あああああああああ」
喉がはち切れんばかりに叫んで気が付いたら俺は男をユミルから引きはがし、殴り殺していた。
「カ、カルヴァン、良かった。た、助けに来てくれたのね。私、待っていたのよ」
そう言って俺に触れようとするユミルの手を振り払った。
驚き、傷ついた顔をするユミル。傷ついているのはこっちだ。俺を裏切りやがって。
「他の男の手あかがついた手で俺に触るな!」
「何で、何で、何で、何でよ!私、ずっと待っていたのよ。体中痛くて、でも誰も助けてくれなくて。いろんな男を相手にしたわ、だって、拒否権なんてなかったもの。それでもあなたが助けに来てくれるって、いつかはこの地獄から抜け出せるって信じて、信じて、待っていたのに」
さっきまで俺以外の男に触れられて喜んでいたくせに何を言っているんだ。この女は。頭がイカれてるんじゃないのか。
「男を作って俺から逃げておいて何を言っている」
ユミルに裏切られ、エレミヤに捨てられ、腹心だったフォンティーヌはスーリヤについた。俺にはもう何もない。俺は一人だ。もう、何も信じられない。
「二度と、俺の前に姿を見せるな。せめてもの情けで殺しはしない」
「ま、待って!待ってよ!」
追いすがろうとするユミルを突き飛ばし、床に叩きつけた。手加減はしたので問題はないだろう。呆然とする彼女を置いて俺は部屋を出た。
もう何も信じられなかった。




