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部屋に戻った私は情報を整理するよりもまず、やらないといけないことがある。
それは私と一緒に退出を許可されたノルン達だ。
みんな、黙って私の部屋まで着いてきた。
ちょっと気まずい。まぁ、私が原因だから仕方がない。
「姉が帝国と組むっていうのは初耳だったわ。でも、姉にあなた達の国を乗っ取るように指示を受けていたのは本当よ。その為に動いた」
どう言っても仕方が無いので何も誤魔化さず事実だけを話した。
彼らが国に辞表を出していることには驚いたけど、これで私から離れていくのならせめて仕事の斡旋だけはさせてもらおう。
「妃殿下が私たちのことを考えて何もお話しにならなかったのは分かります。正直、陛下に対しては不満もありましたし、妃殿下と陛下、どちらかにつけと言われたら迷わず妃殿下につきます。しかし、王国の一国民として反乱に加担しろと言われたらどう応えていたか分からないのが現状です」
そう答えたのがキスリングだ。
当然の答えだろう。謀反とはそれだけ重いのだ。
ましてや彼は曲がりなりにも貴族。容易に応えてもらったらそっちの方が不安だ。
「ですがここにいる時点で答えは決まっております。私は妃殿下が命令されるなら陛下に剣先を向けることも厭いません」
キッパリとキスリングは断言した。
「僕の主はエレミヤだから。地獄の底だろうとついて行く」
そう答えたのはディーノだった。
「私は、分かりません。妃殿下には感謝しています。でも騎士として忠誠を誓っている兄と生き別れるのは嫌です。だってせっかく会えたから。でも私も兄もここに来る前に決めました。何があろうとも妃殿下と共にいると」
強い意思を持った眼差しでノルンは言う。
そんなノルンの頭をシュヴァリエは優しく撫でる。
「あなたは俺たちの恩人であり、俺の主です。妹を救ってくれたあなたに忠義を尽くすと決めました」
そう言ってシュヴァリエは騎士の礼を執る。
「どこまでもお供します」
私達は出会ってから日が短い。そんな中でも生まれた絆と信頼は確かにあった。
「ありがとう、みんな。今まで黙っていて、ごめんね」
◇◇◇
帝国に来てから数日が経った。ノワールは時間を見つけては私に王宮内や帝国内を案内してくれた。それに帝国が今抱えている問題や、帝国の政治についても教えてくれた。
因みにノワールの両親はいない。
母親はノワールが一六歳の時に病で他界。父親は表向きは病死になっているがノワールが殺した。
強欲で、好戦的。戦が好きで常にどこかの国に喧嘩を売っていた先帝陛下。皇帝としての資質もないくせに権力だけは持っている愚帝。このままではノワールが即位する前に帝国が滅びると考えた。
この国は情報の管理がしっかりしているので隣国でも正確な情報を得ることは不可能だったが、テレイシアが知らない間に帝国は内戦の火種を抱え、それが爆発する前にノワールが鎮火させたのだった。




