59.スーリヤ視点
「ふざけるな!こんなこと受け入れられるわけがないだろ」
バンッと癇癪を起した子供のようにテーブルを拳で叩き割る男が、テレイシア女王である私の前にいた。
私の名前はスーリヤ。テレイシアの女王でこの国の王妃、エレミヤの姉である。
私は前もってカルヴァン陛下に重要な話があるので夜会の翌日に時間を作って欲しいとお願いしていた。
そして、今日。清々しい朝を迎えた。かんかんと照る太陽が室内の温度を上昇させる。こんな中で更に自分の体温をあげるなど自殺行為だと思う。
けれど、目の前の子供・・・・失礼。カルヴァン陛下は感情に素直な方なので血管がはち切れるのではないかと思うぐらいに怒り狂っていた。
私が時間を作って彼にした話は妹との離婚話についてだ。
必要な書類は全て用意した。大司教には既に提出してある。なので離婚は成立している。彼が拒絶してももう不可能だ。それに、大司教に訴えたところで彼は取り合ってはくれない。
浮気をしたのはカルヴァン陛下だ。浮気した側の言い分を聞いて、離婚をなかったことにするはずがない。それに大司教とは旧知の中だ。根回しはすでに済んでいる。どうあっても離婚をなかったことにはできないのだ。
「ふざけるな、ですか」
私は扇子で口元を隠しながら笑う。
「そなたはおかしなことを言う。それはこちらのセリフぞ」
「なんだと」
こちらを射殺さんばかりに睨みつけるカルヴァン陛下を軽く流した。
「我が国の姫を蔑ろにしたはそちら。寧ろ、すぐにでも離婚されなかっただけ有難いと思って欲しいものだな。そなたが心を改め、妹への待遇を考えるのを待っていたのだ。すぐに離婚させなかったのはこちらの温情だ」
嘘だけど。
本当はエレミヤの準備が終わるのを待っていたのだ。最低でも公爵だけは排除して欲しかったからね。
「っ。確かに、ユミルのことがあり、周囲が見えなくなっていた。そなたの妹に対しての無礼は謝る。すまなかった。だが、今は既に待遇は改善させている。今のそなたの話で言うのなら離婚はなしだろう」
は?この男何言ってんの。本気で言っているの?マジでそのでかいだけの頭は飾りだな。振ったらカランカランって音がするんじゃないの。
「妹をそなたの番の代わりにしているだけだろ」
「ち、違う!俺は本当に心からエレミヤを愛している。お、俺が間違っていたんだ。番だからというだけで目を曇らせていたんだ」
わぁ~。気持ちが悪い。
「ご自分の過去を振り返ってから言いなさい。カルヴァン陛下。そなたの言葉は信じるに値しない。それに何を勘違いしている?離婚は既に成立している。私はあくまで報告をしているだけだ。ここでそなたが駄々を捏ねようとも事実は変わらん」
話は終わったので私は立ち上がる。もちろん、とどめを刺すことは忘れない。
「そうそう、そなたはまだ気づいていないようだが。エレミヤは既にこの国に居ない」
「は?」
膝から崩れ落ちるように床に座り込んだカルヴァン陛下が情けない顔で私を見上げる。
私はにっこりと微笑んでエレミヤがどこにいるのかを、彼女の待つ未来について教えた。
「あの子は今、帝国に居る。ノワール皇帝陛下の妃になる為にな。可哀そうに。番に捨てられ、妃に捨てられるなんて」
いい気味。
「臣下も既にお前から離れた。お前はもう、独りぼっちだな」
それだけを言って私は部屋から出た。使用人にあの子の物を引き取るように指示を出し、私自身も国へ帰る準備を始める。




