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目が覚めたらそこは見覚えのない、とても豪華な部屋だった。
ベッドも広くて、ふかふかで気持ちが良い。
誰が着せたのか分からないナイトドレスの肌触りも抜群だ。まさかとは思うけど、ノワールが着せたわけじゃないよね。という恐怖が一瞬浮かんだけど、今はそれどころではないと首を振る。
「エレミヤ様、目を覚まされたのですね」
「・・・・カルラ」
いつもと違うメイド服を着たカルラは相変わらず、無表情で何を考えているか分からない。
「どうしてあなたがいるの?」
ここがどこか何となく分かる。仮に私の推測が外れていたとしてもカルディアスではないことは確かだ。なのに、目の前の侍女はとても落ち着いていて、そこにいることに違和感を持たせない。
「その服、とても似合っているわね。まるで普段から着ていたみたいだわ」
現状を把握できない苛立ちと油断した自分への苛立ちからおそらくノワールの仲間であるカルラに嫌味を言ってしまったけど、それぐらいは許してほしい。
「お考えの通り、私はカルディアスの侍女ではありません。ノワール様に仕えています。エルヘイム帝国の侍女です」
「ノワールはやはり、エルヘイム帝国皇帝陛下なのね」
「はい」
姉は当然このことを知っていたのだろう。なら、私がここにいることも姉は承知の上。カルディアスに何も伝わっていないのなら王妃が突然姿を消したことになる。
仮に伝わっていたとして、陛下はどう動くだろう。
ここでの私の役割は何だろう。どう動けばいい。考えなくては。国盗り合戦をしているのだ。一つでも間違えれば死に直結する。
「エレミヤ様に仕えていた侍女、ノルンと護衛騎士のシュヴァリエ、ディーノはすでに同じ王城にいます」
それは意外だった。普通は置いていくものではないだろうか。それに、彼らを連れて来たメリットはなんだ?
「カルラ、あなた帝国の人間と言うことは当然、魔法が使えるのよね」
「正確に言えば私は天族と魔族のハーフです。なので、普通の魔族よりも使える魔法のバリエーションはあまりありませんし、魔力量も少ないですが、転移魔法だけは昔から強かったんです」
つまり、私たちは彼女の転移魔法でここにいるわけだ。
「どうして私を誘拐したの?ノワールはカルディアス王国と事を構える気?」
「私は侍女です。本来、一介の侍女がそのような事を気にするはずがありません。理由に関しては陛下に直接お尋ねください。目が覚め次第、お会いしたいそうです」
「分かったわ。すぐに準備をするわ」
カルディアス王国に居た時と同じようにカルラは私の着替えを手伝う。
「カルラ、一つ聞いていいかしら。私を着替えさせたのってあなたよね」
「はい」
「そう」
良かった。




