49
あの日から陛下は何かにつけて私の傍に居ようとする。
一番迷惑なのは護衛として傍に居るシュヴァリエたちに嫉妬して解雇させようとしたことだ。
「彼らは信頼できる護衛です。そのようなよこしまな感情を抱いていて職務にあたるものなど一人もおりません。陛下とは違いますから」
目くじらを立てて怒ると陛下はうろたえた。今までだったら逆切れしたり、私が不貞を働いていると決めつけて侮辱してきたくせに。
「たとえ、お前とこいつらに何の関係もなくとも俺は嫌なんだ。お前の傍に俺以外の男がいるのが」
それはユミルが男を作って出て行ったと聞かされたからだろう。彼は本当に怖がっているようだった。私が他所の男に奪われるんじゃないかと。
「護衛の任命権は私にあります。それは以前、書面で陛下と交わした約束です」
「っ。そ、それでも認められない。お前の護衛は俺が任命する。ここにいる奴らを解雇することはしない。元の部署に戻らせる」
何を言ってもダメだ。
無理に拒絶して余計に話がこじれるのも面倒。ここは大人しく彼に従って、打開策を練るしかないわね。
「・・・・・分かりました」
私の言葉に陛下はパッと花が咲いたような笑みを浮かべ、私を抱きしめようとしたのでそれは全力で避けさせてもらった。触れるのも、同じ空間にいるのも、同じ空気を吸っていることにすら嫌悪を示してしまう程私は陛下が嫌いだ。
シュヴァリエたちは私のことを心配し、最後まで渋ったが仕方がないことなので最後は納得してくれた。ディーノは元々所属している部署がないのでシュヴァリエと同じ部署に一時的にではあるけど配属させてもらった。
陛下が配属してきたのは全員、女性の騎士だ。護衛としての腕がどれくらいなのかは分からない。だが、彼女たちが私にいい感情を持っていないことだけはすぐに分かった。
陛下がいなくなった瞬間、敵意をむき出しにしてきた。彼女たちの家柄を考えれば王妃になってもおかしくはない。ユミルがいなくなったので私がいなくなれば自分たちにもチャンスあると考えているのだろう。
一部の人間を除いて、腹芸ができない種族なので彼女たちの考えていることはすぐに分かった。
所詮は武力だけで大国にまでのし上がった国と言うことなのだろう。だが、資源が豊かなのは事実。
私はお茶を飲みながら護衛の女性たちを見る。
彼女たちが直接何かしてくる気配はないが、何かあっても助けてはくれなさそうだ。護衛が聞いて呆れる。
「陛下はいい仕事をするわね」
仕事をひと段落して慌てて私の元に駆け付けたフォンティーヌについ八つ当たりをしてしまった。常時、あの敵意に晒され続けることでストレスが溜まっていたのだ。
「護衛の件は私から再三申し上げているのですが、力及ばず、申し訳ありません」
「仕方がないわ。臣下では限界があるものね。それで?考えはまとまった?まぁ、聞くまでもないでしょうけど。覚悟を決めたからここへ来たのでしょう」
「はい。妃殿下の提案をお受けします」
「後悔はないのね?」
「宰相として第一に考えるのは国民のことですから。聡明なあなたならご存知でしょう。民にとって誰が王になるかなんてどうでもいいのですよ。自分たちの生活の保障さえされていれば、極論を言うと王が豚でも構わないんですよ」
フォンティーヌは疲れ切った顔でそう言った。
「・・・・・お姉様に連絡をしておくわ」
「ありがとうございます。陛下には私から言っておきますので、よろしくお願いします」
フォンティーヌはまだ仕事が残っているとお茶を一杯だけ飲んで出て行った。
陛下は私が離れていくんじゃないかと恐れている。私を自分に繋ぎとめるために様々な贈り物をしてきた。もちろん、全て突き返した。
ユミルがいた時は最低限の執務はしていたのに、今はそれさえしなくなってしまった。
何度フォンティーヌが注意しても聞かず、私を繋ぎとめるためにどうすべきか試行錯誤している毎日を送っている。正直、迷惑な話だ。




