追加
婚姻式が終わっても陛下が私の部屋に訪れることはなかった。使用人も用がなければ私の部屋に訪れることはない。
一国の王妃を放置しているのだ。
だから私はこの状況を利用することにした。
私が一番気にしているのは陛下の番。名前はユミル。彼女は元平民で、竜族の国に住む人族。
様々な国に行き来が可能であり、また獣人は番を自分の国に連れて帰り、婚姻をすることから竜族の国と呼ばれているカルディアス王国には様々な種族が住んでいる。
私は使用人に体調が悪いから休む旨と誰も入らないように指示をした。そして、とある筋から手に入れたメイド服を着る。
髪は銀色では目立つので多い茶髪のカツラで隠す。
化粧で顔を地味に見せるようにする。
ドアからは出られないので窓から出る。ちょっと高いけど、木を伝って隣の部屋に行くのは可能だ。
「よし」
周りに人がいないことを確認して私は部屋を飛び降りた。階下まで下りてから空いている窓から王宮内に戻る。
手に入れた情報を元に私はユミルの部屋を目指す。
部屋から出てきた侍女と入れ違うように私は部屋に入った。部屋に入って来た私に誰も目もくれない。警戒もしない。ここは人の出入りが多いようだ。
「これも良いわね。やっぱり、こっちかしら。ねぇ。カルヴァンはどれが良いと思う?」
「全て買えばいい。どれも君に似合う」
「嬉しいわ。ありがとう、カルヴァン。だぁいすき」
そう言ってユミルは陛下に抱き着く。
陛下の緩み切った顔の何とも情けないこと。
どうやらショッピング中のようだ。たくさんの商人によってたくさんの服やドレスが部屋に並べられている。
どれも簡単に買えるものではない。
貴族がお茶会やパーティの時にだけ仕立てるドレスを毎日のように買っているのだとすればすぐにでもこの国の国費は火の車になるだろう。
「陛下っ!」
ノックと同時に鬼の形相をしたフォンティーヌがユミルの部屋に入って来た。
「執務もせずに何をしているのですか」
フォンティーヌは部屋に並べられた商品を見て眉間の皴を更に深めた。汚らわしいものでも見るようにユミルを見る。
「また、お買い物ですか」
低く唸るような声でフォンティーヌが言う。
けれど、ユミルは気にしない。平民から貴族になり、好き放題しているだけはある。なかなか図太い神経の持ち主だ。
「ええ。平民の私が安っぽい物を身に着けて陛下の恥になるわけにはいかないもの」
「そんな心配はしなくても良い。お前がお前であればいいんだ」
甘くとろける顔をしてカルヴァンはユミルの頭を撫でる。
ユミルは嬉しそうにカルヴァンに寄り添う。けれどすぐにその顔に憂いが浮かぶ。
「カルヴァン、王妃様を迎えたのでしょう。テレイシアのお姫様で、とても綺麗なのでしょう。きっと美しいドレスや宝石をたくさん持っているのでしょうね。私なんかとは比べ物にならないほど。だから、みんなに綺麗って言われるのでしょうね」
つまり私が綺麗なのはドレスや宝石のおかげで、決して容姿のことではないと言いたいのだろう。成程。こうやって私の知らないところで私は貶められていくのね。