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医者が陛下を診ている間、私は部屋の外で待機することにした。
陛下は私と一緒に居たがったが私が拒否をした。今の陛下とは一瞬たりとも同じ空間に居たくなかったのだ。
暫くして医者が何とも言えない表情で出てきた。
「陛下はいったい、どうされたんだ?」
この場で誰よりも陛下を心配しているであろうクルトが医者に掴みかかりそうな勢いで尋ねた。
相変わらず馬鹿な護衛だ。
この場で一番身分の高い私を差し置いて口を開くなんて。
「恐らく、代償行為かと思われます」
「・・・・・代償行為」
クルトは訝しむように医者を見た。
医者は深いため息をついた後、私を痛ましいような目で見た。
「番を失った獣人には時折あるのです。番を失った獣人は自決するか狂うかのどちらかですが、そうなる前に防衛本能が働くことがあります。陛下も狂う前に防衛本能が働いたのでしょう。結果として」
そこで言い淀んだ医者を見て私は何となく彼の言いたいことが分かった。それはフォンティーヌも同じだったようで息を吸い込む音が聞こえた。
唯一分かっていないクルトが苛立ったように先を促す。
観念したように医者は再度深いため息をついてから答えた。
「陛下は妃殿下を番様の身代わりに愛することを選択されました」
医者の話によると陛下はユミルのことを記憶の中に封じ込め、自分が始めから愛していたのも自分の番なのも私だと思い込もうとしている。そうすることで自分の心を守っているのだそうだ。
私は爪が皮膚に食い込み、血がにじむほど手を握り込んだ。
ぎりっと強く噛み締めたせいで唇が切れて血がにじむが今はそんなことに気を遣っている余裕はなかった。
「どこまでも馬鹿にしている」
思った以上に低い声が出たせいで、医者は顔色を真っ青にしていた。
「治るのか?」
クルトの質問に医者は「分かりません」と答えた。
全ては陛下次第なのだそうだ。
「おい、いつまで俺のエレミヤと話しているんだ」
部屋の中から苛立ったような陛下の声が聞こえたかと思うと、彼は不機嫌丸出しの顔を見せてきた。だが、すぐに私を視界にいれると甘い笑みを浮かべてくる。
ぞわりと鳥肌が立った。
「私はあなたのものになった覚えはありません」
『俺のエレミヤ』と言った陛下には殺意しか湧かない。今まで番ではない私に冷たく当たっていたのに、ユミルがいなくなった途端に私に愛を囁くなんて勝手にも程がある。
だが、私の気持ちなどお構いなしに陛下は私のことが好きだと全身で表現してくる。
「すまない、物扱いをしたつもりはないんだ。ただ、お前は俺の番だ。俺以外の男と一緒にいるところを想像しただけで気が狂って何をしでかすか分からないんだ」
陛下は私に触れようと手を伸ばしてきた。私は一歩下がり、彼から距離を取ったので彼の手は何にも触れられないまま空中で静止してしまった。
「気安く触れないで。今日はもう疲れたから休みます」
私は一礼して陛下に背を向けた。




