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ユミルがいなくなってから陛下は執務を完全に放棄した。フォンティーヌは尻ぬぐいで追われているようだ。クルトは陛下専属護衛の任を解かれた上に一か月の謹慎処分。
「テレイシアから何人か人をやりましょうか?」
フォンティーヌは忙しいだろうから彼を呼び立てることはせずに執務室へ自ら訪ねて提案した。
それが意味することに瞬時に気が付いたフォンティーヌは頷くことに躊躇った。
人手が足りていないのも、今の陛下ではカルディアス王国の王として何もできないことは彼にも分かっている。だが、ここでテレイシアから人を受け入れると言うことはテレイシアに大きな借りができるだけではなく、下手をすれば乗っ取られることになる。
友好国とは言え、知られてはまずい内情だってある。
それに先王とテレイシアの先王は友人関係にあったが、現国王同士にそんなものはない。
「私もそろそろ覚悟を決めないといけないということですね」
「英断を待っているわ」
すぐに決められないことは分かっているので一か月だけ猶予をあげることにした。
公爵が優秀な人材を全て左遷させてしまったため、王宮に残っているのは使えない人間ばかり。
だが、左遷させられた人間を呼び戻そうにもその殆どに拒否された。
今の国王には従うことはできないと。フォンティーヌが何度も頭を下げに各地へ赴いているが現状は変わらない。この国は、今、岐路に立っている。
「エレミヤ」
部屋に戻っている途中で、部屋に引きこもっていた陛下と会った。珍しい。あれ以来、ふさぎ込んでいたのに。
「お久しぶりです、陛下。もうお加減はよろしいのですか?」
「陛下など、他人行儀はよせ。俺たちは夫婦だろう」
「はい?」
今更何を。と思い、陛下を見ると彼の私を見る目がいつもと違って熱を帯びていた。
「カルラ、戻って宰相に医師の手配をお願いして」
「畏まりました」
みんなが唖然としている中、変わらず無表情を貫いているカルラが瞬時に動く。
「これから一緒にお茶などどうだ?」
まるで人間に懐く犬のような姿で私に接してくる陛下は正直、気持ちが悪い。背後に控えているノルンとディーノから殺気を向けられているのに陛下は気づきもしない。
「申し訳ありませんが、遠慮させていただきます」
「なぜだ?どこか具合でも悪いのか?」
心底、不思議そうな顔をされても困る。第一、どうして私があなたの誘いに乗ると思ったの。
「陛下と一緒にお茶をする理由がありませんので」
「何を言う。理由など要らぬだろう。俺たちは夫婦なのだから」
私に触れようと陛下が手を延ばす。それを叩き落としたのはディーノだ。
「何をする」
眉間に皴を寄せて、怒る陛下にディーノは冷めた目で見下す。
「妃殿下の専属護衛として当然の任を果たしたまでだ。許可なく妃殿下に触れるな」
「俺は彼女の夫だぞ」
当たり前の権利のように怒鳴る陛下にはさすがに堪忍袋の緒が切れた。怒鳴ろうと口を開けた瞬間、フォンティーヌが医者を連れてやって来た。
おかげで、ここが王宮の廊下のど真ん中で、周囲から注目を浴びていることを思い出すことができた。
私たちはいったん、陛下の部屋に行くことにした。




