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運命の番?ならばその赤い糸とやら切り捨てて差し上げましょう  作者: 音無砂月
第3章 運命の赤い糸は切るためにあります

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「なぜ、なぜ私がこんな目に」

カルディアス王国の摂政として権勢をほしいままにしてきた。

実質、ジュンティーレ公爵家が王のようなものだった。

現国王であるカルヴァンは私の言うことなら何でも信じたし、何かある度に私を頼って来た。そういうふうに育て上げたのも私だ。

番のユミルは我儘で少々扱いづらくはあったが単純な女なのでそこまで問題はなかった。

竜人にとって力が全て。力あるものに従うものだ。故に、力ばかりを誇示して、腹芸や策略に長けるものはいなかった。それ幸いと自国で今まで好きに振る舞ってきたがそれが一夜で全て無駄になった。

全てはあの女が来てからだ。

「・・・・・エレミヤ」

だから反対したのだ。他国の王女を迎え入れるなど。

だが、この国の為にならないと私の意見も聞かずに彼女を迎え入れてしまった愚か者どものせいでこの国は今や危機に陥っている。

「この国はテレイシアに乗っ取られる」

ぎりっと奥歯を噛み締めた。

「お前にはそれが分からんのかっ!実の父親を裏切り、あの女狐の側につくとはなんと愚かな」

私は剣先を向ける息子、キスリングを睨みつける。

使用人も護衛も家にはいない。全て捕らえられてしまった。

本来なら陛下が私を庇い、こんな真似はさせない。だが、ユミルがいなくなってしまった。陛下は今それどころではないのだ。

ユミルが男を作って逃げ出したと城下では専らの噂だ。陛下は近衛を使って血眼になって探しているそうだ。

「くそっ」

「この国がどうなろうが知ったことではない。私は母を守れるのならそれがあなたでも妃殿下でも、どちらでもいいのですよ、公爵」

「なら」

私が代わりに守ってやろうと言おうとした。それを遮るようにキスリングは冷笑し、剣を振り上げた。

「あなたは母を人質にとった。母の命を危険に晒した。これはその報いだ。大丈夫。王宮は今、行方不明になった番様を探すので手一杯。一臣下がショックのあまり自決したとしても大した捜査はされないでしょう。ましてやそれが国に巣食う毒虫だったのなら尚のこと」

「や、やめろぉっ!」

振り下ろされた剣は容赦なく私を切りつけた。まだ意識があった私にキスリングは液体をかけてきた。

何をする気なのかとぼんやりとした意識の中、彼を見ているとやがて彼は邸に火を放った。

「地位を失ったあなたはショックのあまり奥方と焼身自殺を遂げる。素敵な筋書きですね。安心してください。奥方は妃殿下が保護しています。死ぬのはあなただけですよ、父上」

「ごほっ。の、ごっ、呪ってやる」

「さようなら、父上。地獄で会いましょう」

そう言って去って行くキスリング。瀕死の状況ながら彼を睨みつける存在があったことに二人は気づかなかった。

「くそ、くそ、くそ」

誰もいなくなった邸で口から血を吐きながら公爵は呪詛のように繰り返す。

コツン。

そこに一人の女性が現れた。

「・・・・・れだ?」

「あなたを救いに来ました」

そう言って妖艶に微笑んだのはエレミヤの侍女カルラだった。


◇◇◇


私はエウロカの淹れてくれたお茶を一口飲む。

「ねぇ、おかしいと思わない?」

部屋には私とエウロカしかいない。私は隅の方で侍女として控えているエウロカを見つめる。

「毎日、あなたの淹れるお茶を飲んでいるのに、どうして私は今もここにいるのか」

エウロカは無表情を貫いていたけど、握り締められた手が震えていた。

「気づいていたわ、あなたのお茶には毒が入っていることも。それを命じたのがあの夫であることも」

「・・・・妃殿下、わ、私は」

謝罪をしようとして、けれど謝ってすむ問題でもないからか、エウロカは口を閉ざしてしまった。

「公爵なら今頃、キスリングが始末しているわ。あなたも死んだことになる。代わりの死体を用意してある」

「殿下?」

何を言っているんだという顔でエウロカが私を見てくる。

「あなたは立場上、逆らえなかったのでしょう。ご家族が残した借金もあるし、家族のことを盾に取られては仕方がないものね」

「そこまで、ご存じだったのですね」

エウロカの家が借金をする羽目になったのは公爵がそう仕向けたから。彼は自分で罠をはって嵌めたくせに救うふりをしてエウロカの実家を取りこんだ。

彼女の実家が経営している商会を手に入れるために。

エウロカは観念したように膝をつき私に深々と頭を下げた。

「全ては私が独断でしたこと。実家は関係ありません。勝手を申しているのは分かっています。ですが、家族は本当に何も知らないのです。どうか、罰は私だけに。お願いします」

私は体を震わせながら真っすぐ私を見つめる彼女に視線を合わせる為に私自身も床に膝をついた。

「あなたはとても強いのね。一人で、辛かったでしょう。よく頑張ったわね」

「い、いえ」

伏せた瞳から涙が零れおちる。私はそれを見なかったことにした。

「さっきも言ったように、あなたは死んだことになっているわ」

さすがに王妃を毒殺しようとした人間を無罪放免にはできない。いくら理由があったとしても。

「あなたには修道院に入ってもらうわ。そこで一生、神に仕えなさい」

死刑を覚悟していたエウロカは驚きで目を見開いている。

「あなたの望み通り、家族には罰はないわ」

「あ、ありがとうございます。ありがとうございます」

エウロカは何度も頭を下げ、感謝を述べ続けた。

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