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運命の番?ならばその赤い糸とやら切り捨てて差し上げましょう  作者: 音無砂月
第3章 運命の赤い糸は切るためにあります

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パリン

ガラスが割れるような音がした。

その音は何もない空中でした。そして、その音がしたと同時に奴隷の青年が後ずさり、片膝を地面に着く。

「何?」

何が起こったのか分からないのはユミルだけ。

「ちょっと、何してんのよ!この役立たず。早くこの女を苦しめなさいよ」

「止めなさいっ」

「ぎゃあっ」

魔法を使おうとしてもさっきのようにガラスの音がして発動まで至らない奴隷の青年に痺れを切らしたユミルが奴隷の青年に暴力をふるいだしたので私は隠し持っていた小型のナイフで青年の腹部を蹴ろうとしていたユミルの足を刺した。

「いだぁぃっ」とのたうちまわるユミルを冷たい視線で見下ろした後、私は青年の元へ向かう。

「大丈夫?」

彼の肩に触れて顔を覗き込む。

どんよりとした目が私に向いた。けれど、その目には何も映っていない。

「妃殿下」

隠れていたノルンとシュヴァリエが私の元へ来た。

キスリングの情報で敵が魔族の奴隷を使うことも、転移魔法を使用することも分かっていた。問題は転移魔法でどこに連れていかれるかということ。キスリングもそこまでは掴めなかった。

しかし、転移魔法を使用すると魔法の軌跡ができる。ノルンにそれを追ってもらい、ここまで来てもらったのだ。

さっきのガラスの割れるような音はノルンの仕業だ。彼女が奴隷の青年の魔法を発動前に防いだことによるものだ。

彼が発動しようとした魔法よりも強い魔力と魔法をぶつけることで可能となる。タイミングもあわせなければならないのでなかなか難しい技だと以前ハクが言っていた。

シュヴァリエは奴隷の青年とユミルをいつでも排除できる位置を取り、更に周囲を警戒しながら剣を握る手に力を籠める。

「なあ゛にしでんのよぉ!ごの役立たず!ざっざとごの女をごろしなさあ゛よぉ!」

地面に転がり、涙と涎、鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でユミルが奴隷の青年に命じる。

青年がつけている奴隷の首輪が青紫色に光ったかと思うと青年が苦しみだした。

しかし、青年が声を上げることはない。「ぐっ」とくぐもった声を出した、噛み締めた唇から血が流れる。

「シュヴァリエ!」

「御意」

「ぎゃああぁ!」

ユミルの手には青紫色に光っている石が握られていた。シュヴァリエはユミルの腕を切り落とすことで石を彼女から奪った。

これは奴隷を痛めつけるための魔道具。呪術に分類される。

「大丈夫?」

ユミルの手から石が放れると青年の苦しみが和らいだのが分かった。

「直ぐに外してあげるわね」

「妃殿下、これを」

「ありがとう、シュヴァリエ」

ユミルから奪ったのだろう。奴隷の刻印が記されたブレスレットをシュヴァリエが持ってきた。私はそのブレスレットと奴隷の首輪をくっつけ、ユミルの血を垂らした。

すると奴隷の首輪は簡単に青年から放れた。

青年は不思議そうに私を見つめた後、石畳に転がる首輪と私を交互に見つめる。私は彼の背中にそっと手を添えて、立たせる。

「これであなたは自由よ」

「・・・・・自由」

「ええ。もう、あなたを縛るものは何もないわ。あなたは自由よ」

私がそう言うと青年の目からぽろりと涙が零れた。

無表情のまま、声を出さずに泣く彼を私はそっと抱きしめた。彼は子供のように私にしがみついて泣いた。

「なあ゛にしでんのよぉ。ごの役立たずぅ。私がごんな目にあっでるのにぃ。さっさど、ごの女をやっづげなさいよぉ。お、お父様に言いづけるわよぉ」

腕から血を流しながらユミルが訴える。

奴隷の首輪から解放された青年はもうユミルの命令に従う必要はないが、彼女にはそれが分からないようだ。

「い、今まで、誰があんたをが、がわいがったど、お、おもっでんのよ」

「シュヴァリエ」

「御意」

「待って」

シュヴァリエにユミルにとどめを刺すように命令すると澄んだ、幼い顔と同様に幼い声がそれを止めた。

流れ出る涙を袖で拭いながら青年は私から離れる。

「僕がやる。僕にさせて。けじめをつけたい」

シュヴァリエがどうしますかと視線で問うてくる。

「分かったわ」

青年がユミルに近づき、シュヴァリエは念のため近くで待機する。

ユミルは青年を睨みつけ、口汚く彼を罵っている。

青年は詠唱を始める。するとユミルの体は徐々に凍っていき、最後には完全に凍り付いてしまった。

「妃殿下、ここは今は使われない贄の間です」

「贄の間?」

「はい。三〇年前まで行われていた魔女狩り。それを利用して魔女を贄に悪魔を呼び出して己の欲を叶えようとした王侯貴族が使用していた場所です。今は使われなくなっているので人が来ることはありません」

つまりシュヴァリエが言いたいのはこの地下に凍ったユミルを放置しても問題はないということだ。

「分かったわ。地下への道は念のためノルン、塞いでくれる」

「畏まりました」

青年を連れて地下を出た後、贄の間へ続く道の途中と入り口をノルンは瓦礫で閉ざした。その地下に私たち以外の人間が隠れていたことに気づかないまま。

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