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私は侍女の変装をしてユミルと陛下、フォンティーヌのやり取りを聞いていた。
フォンティーヌが謹慎処分を言い渡された時点で私はこっそりと部屋を出た。
誰にも見られないように注意をして空き部屋に入り、そこから隠れてついて来ていたハクに転移魔法で部屋に戻してもらう。
侍女の変装セットはハクに渡しておく。
「何とも不愉快な話ですね」
眉間に皴を寄せながら言うハクは先ほどのユミルのやり取りを思い出しているのだろう。
「そうね。私が男を連れ込んだだの、ユミルを殺そうとしているのだのとすごい発想」
「あの侍女についてはどうします?」
「今ここでクビにしてもいいけど、どうせならもっと決定的なことをしてもらって追い出した方がいいわね。ああいうのはエスカレートしていくものだもの。きっとユミルがヘルマを使って何か仕掛けてくるわ。ユミルの為に動いたヘルマ。そのヘルマをユミルが自分の分が悪いというだけであっさり切り捨てる。その様を見た彼女の味方はどう思うかしらね。きっと、次は自分の番だと思うでしょうね」
自分の手足だからと適当に扱ってはいけない。簡単に手放してはいけない。だって、胴は手足がなければ何もできないのだから。それは頭とて同じこと。
どたどたと部屋の外が騒がしくなった。誰が来たのか足音だけでまるわかりだ。
部屋の外でシュヴァリエが陛下ともめている声がする。
「ハク、フォンティーヌが謹慎処分を受けた件。その理由も含めて広めて頂戴」
「畏まりました」
一礼してハクは姿を消す。
さてと。私は気合を入れて。陛下ともめているシュヴァリエに声をかけた。
彼は渋々ながら陛下を私の部屋に入れた。
親の仇でも見るような目で陛下は私を睨みつける。そんな陛下から私を守るようにシュヴァリエが背後に立つ。
それすらも忌々しいと言いたげな目だ。ちょっとうざいな。
「お前を投獄する」
「は?」
どたどたどたと騎士たちが無遠慮に私の許可もなく部屋に押し入って来た。
剣を抜こうとしたシュヴァリエを私は止める。
「理由は?」
「理由だと?白々しい。お前は私の愛するユミルを殺そうとした」
「何の証拠があってそのようなことを仰っているんですか?」
どこまでも愚かな男だ。そして彼を支持しているこの騎士たちも。
幾ら王の命令とはいえ王妃の許可もなく入室をしたのならそれは処罰の対象となる。
私は私を投獄せんと構えている馬鹿どもの顔を見る。一人一人、顔と名前を一致させて頭に刻みこむ。
「証拠もなく憶測で物を言うものではありませんね。ましてやあなたは王なのだから」
「しらばっくれるな」
「では証拠をいますぐ提示してください」
「それは・・・・」
「できないのならお引き取りを」
「証拠がなくとも動機はある」
苦し紛れに言う陛下に私もシュヴァリエも呆れてしまった。
それはつまり「死ねばいいのに」と思っただけで殺人の罪に問えるということになる。
それが実証されれば誰でも裁き放題じゃない。
それに悪いけど、私にはユミルを殺す動機なんてない。
「動機?そんなものはありませんよ。もっと言うと彼女が死のうが生きようが私にはどうでもいいですね。私に迷惑さえかけないのなら」
「愚弄する気か」
「あなた方は私をかなり愚弄していますよ」
「黙れ!お前はユミルと違って本当に可愛げのない女だな」
あなたに可愛いと思われたら鳥肌が立つ。
「お前は王である俺の寵愛を受けているユミルに嫉妬しているのだろう。だから彼女を殺そうと企んでいる」
今物凄くあなたを殺したいですよ、陛下。
「誰もが王の寵愛を欲しているわけではありません。現に私は何度も申し上げたはずです。愛などいらないと」
「っ。嘘をつくな。俺は誤魔化されないからな。そこのシュヴァリエを使ってユミルを殺そうと企んでいたんだろう。罪を認めるのなら減刑もやぶさかではないと思っていたがもういい。この二人を拘束しろ」
どうしますか?とシュヴァリエが目で問うてくる。私はそれに何もするなと彼に視線のみで指示をする。
騎士の一人が私の腕を掴んだ。
「下民風情が、気安く触れるな」
「っ」
騎士は反射的に私から離れる。少し威圧しただけでこの様とは情けない。
「私は逃げも隠れもしませんわ。どうぞ、お好きに」
そう言って笑う私を騎士たちは苦々しい顔で連行した。




