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「胡散臭い聖女にころっと騙されて、政略結婚の意味も考えずに一時の感情で身勝手に婚約を破棄するマナート殿下。それを止められない王族をペイジー公爵一家は見限ったんです」
ああ、そうか。
だから簡単に公女殿下は馬鹿共に嵌められ行方不明になったのか。
「公女殿下はスーリヤ女王陛下の元で保護されています。公爵は公爵領を手土産にテレイシアと手を組みました」
これでお姉様は天族を手に入れた。
ノワールが進めている事業も大切だ。医療の発展は国としても利益が大きい。でも戦時下ではやはり怪我を瞬時に治せる天族の力が重宝される。だからお姉様は天族を欲したのね。それに天族がいれば天族の力を研究して自分たちも使えるようになるかもしれないという思惑もあるだろう。
仮に失敗しても天族とテレイシアの人間を婚姻させればいい。人族と天族のハーフでも力は発現する。
人族が獣人や魔族と戦争する場合、どうしても人族に多くの犠牲が出る。それをカバーする為に天族の力を欲した。
「公爵家も事情があって国を裏切ったのでしょうけど、その公爵家が今度はテレイシアを裏切らないとは限らないのに」
一度裏切れば二度も三度も同じ。どんなに取り繕っても売国奴であることに変わりはない。信用できるの?
「裏切る理由を与えなければ良いだけのことだ」
私の心配を払拭するかのようにノワールが言う。
「王ってのは孤独な生き物だ。臣下や貴族は目先の欲に走りやすく、いつ王(俺)たちを裏切るか分からない。王(俺)達は常にその危険に晒されている。王とは国家権力そのもの。一言で国を滅ぼすぐらいの権力を有している。でもな、所詮は一人なんだよ。束でかかって来られたら簡単に死んでしまう。最強で最弱な駒。それが王だ」
「だから裏切られないように裏切る口実を与えない?」
「ああ」
「言うは易く行うは難しね」
私には真似できない。それを実行しているお姉様もノワールも凄いわ。そして、とても強いのね。
「ぐがぁぁぁっ」
マイクだったものが苦しみだし、黒い触手が力を増した。
「く、来るなぁ」
「やだぁ、ぢに゛だぐな゛い」
大の男が情けなく涙を流しながら逃げまどう。その光景をザガリアは笑って見ていた。けれど、その目に光るものがあった。
泣いている?
「狼狽えるなぁっ!聖力を一か所に集めるんだ。浄化石を用意しろ。アルセン、分かっているな」
「はい、父上」
神聖国の王が一喝をしたことにより、機能していなかった騎士たちが自分たちの役目を思い出したかのように動き出す。
どうやらこの状況を打破する秘策があるようだ。




