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「やっぱり、オルフェーノもこの国に居たのね」
帝国の諜報員と私の部下であるマクベスで調査を行ったところ、帰ってきたのはノワールの部下であるレイラのみ。
諜報員が優先するのは情報を持って帰ることで命ではない。
だからレイラはマクベスを置いて一人、帰って来た。マクベスも彼女を帰らせるために残った。
大丈夫。
マクベスは必ず帰って来る。今は目の前のことに集中しなければ。
「帝国に流れてきた麻薬に関しては神聖国は関係性を当然だが否定している。だが、レイラたちが掴んできた情報から糸口が見つかるかもしれんな。そのザガリアという人間についても貴族にばかり麻薬を流しているということは怨恨の可能性もあるな」
「金銭目的で麻薬を流しているようには思えませんでした。それに身のこなしや雰囲気から上手く隠しているようですが彼自身が貴族のように見えました」
没落した貴族の誰かだろうか。
「そっちはセルムに確認してみるか。あいつもガルディアンについては調べているはずだしな」
オルファーノの雇い主はザガリアで、彼の指示で麻薬を帝国に流したとなれば外交はこちらに有利になるわね。
「きゃっ」
「何だっ!」
昼間のはずなのにいきなり辺りが真っ暗になった。
「エレミヤ様」
「エレミヤ、俺の傍を離れるな」
ノワールが私の手を引っ張り自分の腕の中に抱き込んだ。
ディーノ、カルラ、ノルンは何があってもすぐに私を守れるように傍に来る。
レイラとシュヴァリエは警戒しながらドアを開けて廊下の様子を窺う。
廊下からも使用人達の混乱する声が聞こえる。
「神聖国側が何か仕掛けてきたというわけではなさそうね」
「ノワール陛下、エレミヤ殿下」
神聖国側の騎士が客人である私たちの無事を確認しに慌てた様子で駆け込んできた。
ただ彼らが私たちに危害を加える可能性がゼロではないのでシュヴァリエたちの警戒は彼らにも向けられていた。
「何事だ?」
ノワールが代表して騎士を問い詰める。
「おそらくですが、何者かが禁術を使用したものかと」
「禁術だと?」
「詳しい話は後程。皆様の安全を確保させていただくために一緒に来ていただけないでしょうか」
「分かった」
安全な場所があるのかは分からないけど騎士にとって護衛対象が点在されていると戦力が分散して動きづらくなるだろう。
私たちは大人しく神聖国側の騎士について行くことにした。
連れて行かれた場所は謁見室。
そこには王や王子を始めとした高官たち。それからフィリミナと教会関係者。
「いったい何が起こっているんだ」
「教会側の仕業ではないのか?」
「何だとっ!神の遣いである我々を疑うなど天罰が下りますぞ」
「麻薬を横流しにしている連中が神の遣いを名乗っていることこそ天罰ものではないか」
「それはただの噂に過ぎない。俗世の噂を真に受けるなど愚かにも程がある」
「火のない所に煙は立たぬ。ただの噂と断じることはできない。噂の標的になっているのが教会であれば尚更だ」
確かにそうだ。
わざわざ神に仕える連中の醜聞を流そうとする者はいないだろう。特に信仰心が篤い神聖国では。
天罰を恐れて、適当な噂を流そうとする者はいないはず。
まぁ、最近の教会は俗物にまみれているから信用を失い、以前のような勢いが失われているのも確か。
そこに畳みかけるように麻薬関与の噂。
流したのはザガリアだろうか。もしそうなら彼の目的は何?それにこの騒ぎも彼の仕業なのかしら。
「だいたい聖女様はこのようなことが起こると予言できなかったのか?」
矛先がフィリミナに向いた。
向けられたフィリミナは怯え、マナート殿下にしがみ付く。
「よ、予言って自分ではコントロールできなくて」
「いざという時に役に立たぬのでは意味がない。それでよく聖女など名乗れたものだ」
正論ね。
集めた予言の情報はどれもフィリミナ自身に関すること。しかもそのどれもが彼女にとって都合が良いものばかり。
稀に国に関することで予言もしていたみたいだけど。
「大臣、今の言葉は聞き捨てならない。フィリミナはよくやっている。それをそのように責め立てるなど。無礼であろう。今すぐ彼女に謝罪しろ」
フィリミナを強く抱きしめたマナート殿下はフィリミナを糾弾した大臣を責め立てる。
大臣は血管がはち切れるのではないかと心配するほど顔を真っ赤にしていた。
「いくら王子といえどそのような侮辱、許されませんぞ!貴族である私に対して平民に頭を下げろなんぞ」
「だいぶ、混乱しているみたいね。そんなくだらない論争している暇ないんじゃないかしら」
「確かに。俺たちが来たことにすら気づいていないようだ。それに安全な場所だと騎士は言っていたが、あくまで一つの部屋に護衛対象を集めただけ。ここが安全だとは到底思えないな」
ぎゃあぎゃあと喚きたてる貴族たちに私とノワールは呆れた顔をする。同じような顔をしているのはこの国の王とアルセンだ。
教会側の人間であるアシューはどうでも良さそうだ。あくびまでしている始末。




