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「転生者?」
「はい」
今日はノワールと城下に行くのでカルラとノルンにお忍びの装いをお願いしていた。
カルラが私の髪に櫛を通しながら、どこから仕入れ来たのかは分からないけど聖女に関する情報を教えてくれる。
「たまに生まれてくるそうです。前世の記憶を持つ者が。その中には二種類いるそうです。一つは前世の記憶を生かして国に繁栄をもたらす神の愛し子と言われています。もう一つは前世の記憶を用いて国に混乱をもたらす魔女と言われています。記憶を持って生まれる者は大概は女性なのだそうです」
「つまり、フィリミナの予言は予言じゃなくて前世の記憶を利用した結果ということ?」
「あくまで可能性の話ですが。時折『シナリオ』や『悪役令嬢』という言葉を発していたそうです」
「何、それ。まるで舞台でもしているみたいね」
私の髪をセットする横でドレスとアクセサリーを選んでいたノルンが口を挟む。
「舞台、か」
不思議とノルンの言葉に納得してしまう。
まさに彼女にとってここは何かの舞台で自分たちは役者。己さえも与えられた役をこなしているだけ。
そう考えるともうそういう風にしか見えなくなってしまう。
「エレミヤ様は随分とフィリミナのことを気にしてるんですね。でも平民ですし、あまり関わることもなくなって来るんじゃないですか?」
ノルンはガーネットのピアスと黄色いのワンピースを選んだ。
「クリスティーナ公爵家の妾腹という噂もありますが、問題事ばかりを起こすフィリミナ様を養女として迎え入れるとは思いませんし、王家としても彼女をマナート殿下との正式な王子妃に迎え入れるとは思えません」
「そうだといいんだけど」
ノルンの言葉は尤もだ。
平民で、更に貴族のマナーやルールを学ぼうともしない彼女は貴族社会では生きていけないだろう。
彼女を支援する者たちはいるし、教会側も何とかして彼女をマナート殿下の妃にして発言力を高めたいと思ってはいるはずだ。
逆に王家はこれ以上、教会側の発言を強めたくないからフィリミナを何としても貴族に取りこまれたくはないと考えるし、王家に迎え入れることはないだろう。どんなにマナート殿下が彼女を望んでも。
「この世に絶対はないから万が一に備えているだけよ。良く言うでしょう。備えあれば憂いなしって」
それにフィリミナのせいで一人の貴族令嬢が地位を追われ、国を追われたのだ。
マナート殿下の元婚約者だった貴族令嬢。
この事実を無視することは私にはできなかった。
「気になるのも分かりますが、準備ができました。今はノワール陛下との視察を楽しんではいかがですか」
「それもそうね。ありがとう」
カルラから上着を受け取って私は立ち上がる。
今日の髪は左に流すセットになっている。




