169.セルム視点
俺の名前はセルム・アシュード。
エルヘイム帝国皇帝ノワールの従兄。現在はアシューという名前でマルクア神聖国に潜入している。
「放していただけますか、セルム様」
「やぁだ」
銀色の月の光を浴びたカルラを後ろから抱きしめると物凄い殺気が彼女から放たれた。
少し会わない間に美しさに磨きがかかった。
「少し充電させてよ」
「お断りします」
素っ気ない返事。
無表情で不愛想。だけど、彼女が俺を拒んだことはない。
今だって「断る」と言いながら俺を自分から無理やり放そうとはしない。それを良いことに俺は更に彼女を強く抱きしめる。
「こんな廊下で。誰かに見られたら大変ですよ」
「周囲には誰もいないから大丈夫だよ。それに邪魔が入らないようにちゃんと結界も張ってるから、来たくても誰も来れないよ」
カルラは結界まで張った俺に呆れたのかため息をついていた。
「カルラ、雰囲気が柔らかくなったね。エレミヤ殿下のおかげかな?ちょっと妬けるな」
ちゅっ。と、首筋にキスをするとぴくりと僅かに反応した。
「カルラ、好きだよ。愛している」
「‥…私はあなたなど愛していません」
「知ってるよ」
へらりと笑う。
知っているよ、カルラ。君が俺を拒む理由も。でもそんなの関係ない。
身分の差?そんなことで文句を言う奴がいるのなら強制的に黙らせればいい。
人を意のままに操る方法何て幾らでもあるのだから。
憂いも不安も全て拭い去ってあげる。
だからカルラ、いい加減諦めて俺のものになってよ。
「それでも俺は愛しているよ、カルラ。君が欲しくてたまらない。狂ってしまいそうだ」
「‥‥‥」
カルラは何も言わない。無表情のまま。
表情が変わらないから彼女が何を考えているか分からないと言う奴は多い。でも、俺にはそれが理解できない。
だってカルラは確かに表情の変化が乏しいけどその代わりその美しい金色の目が多くのことを語ってくれる。今だってほら、俺の言葉に僅かに揺れている。
今はそれだけで良しとしよう。
焦ってはいけない。確実に捕えるためには。少しずつ、少しずつ追い詰めて確実に手に入れる。
カルラ、ごめんね。
俺は君を逃すつもりはないんだ。
ごめんね、カルラ。
愛しているんだ。
君を手放せないほどに。
ノワールについでに頭を冷やして来いと言われてマルクア神聖国に送り込まれたけどあまり意味を成していない。だって離れていた分だけ恋しさが増しているから。
やっぱり俺にはカルラだけなんだ。そう、改めて実感した。
「エレミヤ殿下は積極的な人のようだね」
話題を変えるとカルラが安堵したのが伝わった。
今だけだよ、カルラ。手加減してあげるのは。
「見た目は深窓の令嬢なのに」
「皆さん、よく言われます」
ちょっとじゃなくて、かなり妬けるな。だって、エレミヤ殿下の話をする時のカルラ、とても優しい顔をするから。
彼女の目に映るのが俺だけなら良かったのに。
「フィリミナのことについて調べているみたいだね。まぁ、当然だよね。いろいろとちょっかいをかけてきているし。それにあの聖女、胡散臭いもんね」
「ええ、激しく同意します」
「聖女についていいことを教えてあげる」
俺はカルラの耳元で俺が知っている情報を教えた。ついでにぺろりと首筋を舐めると足を思いっきり踏まれた。
ちぇっ。
一回目はスルーしてくれたのに、二回目は許してくれなかった。




